物流よもやま話 Blog

理想の上司はAI―2025年アンケート

カテゴリ: 予測

掲題のような見出しの記事がWEB上にあらわれる日も間近。
と書きながら、うーん……と唸る。
が今回の書き出しとなった。

いまや生活家電などの機器から産業用機械にいたるまで、実に多種多彩なモノに人工知能が組み込まれる比率は高まるいっぽうだ。
少し前まで「AI搭載!」と画期的新製品の登場を大声でふれて回る段階だったはずが、あっという間に珍しくも驚きでもなくなってしまった。従来の「オペレーターサービス」は急激に減少しつつあり、いまやAIとの対話によって問題解決や各種案内が完結できる、、、ということになっている。(内心ではホンマかいなと疑っているのだ)
スマートフォンやカーナビを思い起こせばわかりいいが、その簡易性や即応性の秀逸さは、電話やチャットなどの人間が対応する同種のサービスをはるかにしのぐものだ。
もちろん時と場合と相手次第によるわけだが。

AI活用の利便は大きい。
と、わかってはいるものの、どこか違和感があって落ち着かない。
共存・共生・協働・補完・補助………
しかしながらそれ以前にAIが導く答えの客観性や完結性は、人間本来の本質を攻撃したり軽んじたりする基調の始まりになりはしないかと憂いている。
そもそもこの文章自体がAI解析による評点なら「不合格」となりそうだ。

たとえば、5年後ぐらいに以下のような「とある会社のとある部課でのアンケート回答」の集約結果が発表されるかもしれないという妄想をしてしまう。

〇〇〇〇株式会社〇〇部〇課社員一同の総意:AI課長は素晴らしい

その理由は、

1.判断が瞬時で的確
2.確率論やデータからの回答に徹しているので、説得力がある
3.滞ったり、混乱しても、すぐに善後策の指示が出る
4.感情的にならない
5.あからさまなエコヒイキをしない
6.呑みに誘わない
7.プライベートに立ち入らない
8.パワハラやセクハラとは無縁
9.自慢話や人の悪口を言わない
10.異動しないので、業務方針などの一貫性が保たれてやりやすい
11.冠婚葬祭や会社行事への参加を強いない
12.いちいち「書面で出せ」や「報連相が基本だぞ」と壊れた機械のように繰り返さない
13.へんなカタカナ英語やひと昔前のビジネス流行語を並べない
14.社食で相席してこない
15.通勤時に一緒にならない
16.昔話をしない
17.周りが恥ずかしくなるような上席者へのへつらいをしない
18.部下に給茶やコピーなどを言いつけない
19.業務時間中に机で新聞や経済誌を読まない
20.ことわざやダジャレを乱用しない
21.「これぐらい常識だぞっ!」と常識外れの大声と口調で言わない
22.やたら直帰しない
23.「そのうち部長になって役員ぐらいには」といつまでも妄想しない
24.テレワーク奨励期間にゴルフに誘わない(普段から誘わない)
25.自分の趣味への理解や参加を部下に強いない
26.@@@@@
27.&%’%’%&$$

ふむふむ、、、うーむ。
やはり理想の上司はAI――で異議なしとなりそうだ。

しかし、一緒に泣いたり喜んだり本気で怒ったり、心配したり、相談に乗ったり、も人間臭い上司の特徴だ。それを迷惑や無用と切り捨てるのなら、AIは上司として好適だろう。
そういうのは会社の外の人間関係で足りているので、仕事の時間には要らない――という価値観や定規のあてかたも理解できる。(勤め人時代はどっちかといえばそのタイプだった)

個人的には、純粋な仕事時間以外では、日本一の無責任男やバカボンパパやフーテンの寅さんみたいに、浮世のしがらみや模範とされているものから少し離れた生き方も悪くないと思う。
そして今後は組織という透明な床壁天井で囲まれた密室や、それに類した可視化できる物理的な囲みでの仕事スタイルに価値を見出さない人々が増え続けるだろう。
有人での集団行動は不要となりそうだ。なぜならネットワーク化された視えない繋がりが維持されてさえいれば、事業や計画の進捗に支障なくなるからだ。
また、そうできない企業や団体は、徐々に市場から押し出されていくのだろう。時代錯誤のいちいちにしがみついて妄信を改めようとしない経営者からは人心が離れるに違いない。

AI社会は同音異義の自律と自立の時代をもたらすだろう。
そうなるからこそ矛盾でも逆説的でもなく人間味の大切さが重要なのだ。
自分自身で対人関係や交友を築かなねば、孤独ではなく孤立した生き方を強いられかねない。
集団の中での孤立は心身をむしばむ最たるものとされてきたが、いわゆるステルス的ネットワーク上での孤立や疎外が人間に及ぼすモノはまだ多く語られない。
そもそもの疑問として「顕在化するのか?」と眉をひそめてしまう。
視えないままに仕事をし、視えないままに孤立し、視えないままに病んでゆく者が数多くなるなら、その点だけは現在からまったく進化していないことになる。
しかしよくよく考えれば、人間は有史以来たいして進化していない。だからその顛末にあらためて驚くのは滑稽なのかもしれない。

仕事の悩みや、今後の人生について誰かに相談したくても、上司であるAI課長は終業と同時にネットワークから離脱するようにプログラミングされている。したがって、個人的な相談やカウンセリングは、会社が用意している「相談専門AI窓口」に予約しなければならない。
人間が直面するであろうありとあらゆる悩みや迷いの膨大なQ&Aデータが収納された人工知能は、過去に人間たちが対峙してきたさまざまな事象の「回答」をすぐに並べてくれる。
ただし、それはAIが分析した相談者の性格や思考傾向や行動パターンから割り出した分析結果に応じたものであるので、回答を否定したり無視しても、結果はAIの導いた解へと向かう。

人によっては「こんな内容なら聴きたくも知りたくもなかった」という後悔や目を逸らしたくなる心情を置き換えた言葉が胸中にめぐるかもしれない。
しかし、AIが映し出すイメージスクリーンでの自分に見舞う処遇や将来像と対峙することは、統計に基づいた客観的で確からしい回答を得ることと同意なのだ。
都合の悪いことは即座に否定したり、「たかが…」と突き放せる占いの類とは別物なのだと覚悟して利用しなければならない。
絶対ではないが相当の確率で「そうなる」ことは必至とされている。
その様は、最新のAI内蔵・通信機能付きカーナビゲーションの指示順路に従わなければ、目的地への到着時間はより遅くなることと同じだ。
つまり試行錯誤や悲喜こもごもといった慣用句は、AI依存型の社会ではまさに死語となってゆくのだろう。

そんな社会の評価をできるほどの見識や慧眼は持ち合わせていない。
小市民の典型で、愚かながらも懸命に生きてきただけの自分自身だが、完璧や間違わないことへのあこがれも希求もまったくない。
私は万事に不出来で不完全で、いい齢をしていながら今もまだ一喜一憂を繰り返している。
時として、はからずも相手を傷つけたり、勝手に傷ついて落ち込んだりが絶えない――かように馬齢を重ねるだけの愚かで小さな存在だと承知している。
そんな自覚を「弁え」と習い、避けるべき唯一は「卑しさ」であると念じて生きてきた。
いまさら変えようとしても、ただただむなしいだけだし本意でもない。
したがって、AIをお手本とするような理想の上司にはなれないだろうと納得している。

世の中の隅っこで、身の丈にあわせたAI社会の切れ端を楽しもう。
そんなつぶやきの師走半ば。
夜明け前の冷え込みが心地よい今なのだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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