新型コロナウイルス感染者数が激減しているという報道が日常化し、行動制限緩和のニュースが届くようになった。
かたやで第6波の発生が冬季に見込まれるという指摘も並行して存在することには、違和感まじりのモヤモヤを抱いてしまう。
「で、いつになったら収束するのじゃ?」と内心で何度となく不安な焦燥感が沸き起こるのだが、正解は誰にも解らないのだろうと思考が停止暗転する毎度なのだ。
コロナ禍収束後も出社率の抑制は継続する、というのが大勢を占めそうだ。
無論、現在基本的な方針を公表しているのは一部の大企業に限られるものの、付記されている「その理由」からは、企業の行動心理と似通った傾向が読み取れる。
つまり出社率を戻さずとも業績維持は可能である、という大前提が共通事由となっており、微減収程度の下振れとなっても、テレワークと出張制限による諸コストの削減によって減益を免れる可能性が大いに見込まれるのだとか。巷の経済・経営誌やWEB情報をご参照になれば、数多の事例研究や検証記事を読むことができる。
以下は実際に耳にしたハナシをざっと分類のうえ列挙したものである。
1.出社率抑制に併せて事務スペースのフリーアドレス化と机・椅子の数量減
2.1によって事務所スペースの必要面積が大幅に減少し、賃借物件の解約続出
3.出張禁止、飲食を伴う多人数の会議・会合・ゴルフ等の禁止
4.交通費の定期券購入を回数券などに変更
5.工場や倉庫などの現場を除き、社食の稼働縮小か休止もしくは廃止
6.フリーアドレスによる不使用スペースの電源停止
7.名刺や事務封筒などの消費量激減
8.社用車の使用頻度激減による燃料代、高速道路代金の著しい減少
9.残業代の激減
上記以外にもまだまだあるようだが、押し並べていえるのは、なんやかんやで結局は大幅に販管費が削減できてしまったということだ。
特に海外拠点、海外顧客を抱える企業群では、売上高が低調にもかかわらず、出張旅費と諸手当の消失だけで、部門PLが真っ黒のまま堅調そのもの、、、というのは極めて平均的な現象だと知って「なんだかなぁ」と複雑な気分のまま首を傾げた次第だ。過半の出張も会議会食もまさに不要不急だと知れてしまった、、、まではいくらなんでも言いすぎなのか。
立派なオフィスで個人に割り振られた机と椅子、飛行機や新幹線を利用しての出張、内部・外部を問わず、対面・ひざ詰めでの会議や会食、週に何日かは避けられなかった残業、、、すべての「あたりまえ」が、この二年足らずで「ゼロもしくは寡少でも支障なかった」という結論に至った。
これらはあくまで会社側からの経営的視点であり、従業員側からは在宅労働時間以外の生活スタイルを再考することから生まれた「自分が望む暮らし」のいくつかが挙げられるようだ。
ただし前述したとおり、労使それぞれの視点に共通するのは、あくまで大企業的傾向であるということも悪しからずお断りしておかねばならない。
中小零細規模の企業ではテレワークで事業を回すだけの素地が整っておらず、何かと「会社に来て勤しむ」「お客様を訪問しないわけにはゆかぬ」「電話やメール、WEB会議だけで済ます仕事内容ではない」などの事情が付いてまとう。合理性や効率化とは別の次元で、一朝一夕には変え難い価値観や慣習的段取りがあるようだ。
そのあたりの事情を知る私には、在宅勤務の増加がもたらす恩恵を母とする正論を振りかざして、「旧態依然は悪」とバッサリ切り捨てるようなことはとてもできない。
外科的処置が奏功するのは一定以上の体格と体力のある患者であって、貧弱な体躯の病んだ者は手術を乗り切るだけの体力に大きな不安があるうえ、その費用の捻出も難しいことが多い。
従って、日本国内一斉に在宅勤務の常態化を普及させるには、まだ時期尚早なのだと思っている。現にコロナ禍のピーク時にでも全社員が通常出勤していた企業は数多い。
中小零細企業の経営者が今しなければならないことは、大企業グループが運用本格化しつつある勤務形態を、遠からず追随実施することは不可避なのだと覚悟を決めることだ。
迷いながらの付け焼刃は時間とコストの無駄となるので、まずは確固たる意志を表明して、過ぎた無理や背伸び無きように進めていただきたい。
テレワーク+フレックス勤務が定着すれば、通勤ラッシュは大幅に緩和されるか、解消してしまいそうだ。そしてすでに顕在化しているとおり、居住地の分散化も進むだろう。
この稿では蛇足だが、大都市部のオフィスと住宅需要は減少しつつあるし、その傾向が奔流化するのは今からだ。通勤・在社人数の減少は、不動産需給に強烈な構造変化を強いることも併せて認識しておかねばならない。
通勤時間の削減分は、ほぼ各自の可処分時間に転じる。
報酬が横ばいであっても、可処分時間が増えるのであれば、それはまぎれもなく昇給である。
同時に「待遇」の評価にも影響大となる。
同じ給料なら自分の時間が長い方が厚遇と考えるのは万人に当てはめてよいと思う。
「働きかた改革」は「生きかた改革」であり、家族や地域という最小規模の社会との「向きあいかた改革」となる。
そんな感想が浮かぶことの多い最近なのだ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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