風が吹けば桶屋が儲かる。
までの飛躍はないが、今回は「大型ショッピングモールの過剰供給はEC企業のロードサイド進出を促す」というハナシを書いてみたい。
「ここもテナントの撤退が目立つなぁ」
は各地の大型ショッピングモール訪問時の決まり文句になっている。
特定の場所・施設に限らず、ほとんどの地域での共通現象だと感じる。
駅前や旧市街にかつて栄えた商店街がシャッター通りと呼ばれるようになって久しい。
そして、その一因か主因となった大型ショッピングセンター(以下SC) でも、近年はテナントの撤退や入替頻度が高まっているようだ。
衰退した数多い駅前商店街と同じ道を歩み始めているSCがあるかもしれない。
周知のとおり、巨大SCは全国津々浦々に数多く存在し、地方部では強力な集客力によって消費のほとんどを吸い上げる様相となっている。
今やSC間の過当競争状態に突入しているエリアも散見できる。
立地商圏の消費総量の実態をはるかに超える販売者の売上予算総計。当然ながら不採算となり撤退。巨大で光あふれるアトリウムには櫛の歯が欠けたような寒々しい回廊が続いている。
近接する複数の大型SCにオーバーストア状態で出店、もしくは同一施設内に競合店舗の並立。
施設名称が異なるだけで、モール内の各階の店並はどこもかしこも酷似している。ほとんどの出店者は他所と同一なのだから、既視感だらけの景観が目の前に展がるのは当然だ。
目隠しされたままどこかのモールの回廊に連れていかれ、そこで目隠しを取られたとしたら、今自分が居る場所がAモールなのかBモールなのかCモールなのかの判別が難しいだろう。
「百貨店と同じ道を往くつもりなのだろうか?」
と、ふたつめの決まり文句が口を衝いて出る。
モール部分つまり小規模テナント出店部分では、今までは「入替」的に小区画毎の既存店撤退→新規出店という繰り返しだった。しかし近年目立ち始めたのは、空いた小区画をそのままに新規補充するのではなく、館内テナントの区画変更によって複数の空き部分を取りまとめ、大型テナントの誘致を行うというパターンだ。
その結果、今まではロードサイドでの店舗展開が主だった企業群が、続々とショッピングモールのテナントとして出店を加速させている。
自前の集客力を有するテナントが入居することは、物販機能の弱体化が進むSCの運営強化策として有効なのかもしれない。
なによりも、通路に突然現れる「とりあえず」的なイベントスペースや無機質な白壁が無くなって、店舗居並ぶモールの体を維持できる。
来訪者に与えるイメージという点では雲泥の差がある。
出店側はチラシなどの単独販促よりもSCとの相乗効果を見込んだり、駐車場や館内設備の管理から解放されるうえに、他業種集客による恩恵も期待するだろう。
なぜなら他業種店舗目的でも、その来客は自店舗でも購入可能性のある「同じ人」だからだ。
来客側からも同じ理由で都合がよい。他所にあるパワーセンターやビレッジ型SC・STと呼ばれる施設と同類同質なものが、行きつけのモールの中に出現したからに他ならない。
同じ人がそれぞれの店でそれぞれの品を買う。
その行為が同一敷地内であるのか同一モールであるのかの違いだけだ。
今後は近隣にあるロードサイドの既存店を閉鎖しての切り替えが頻発するだろう。
減少傾向の来客数に抗い続けている単独集客の疲弊。
大きすぎる売場面積による床効率の不採算化。
それらへの対処として、現状よりは期待できるからだ。
量販・専門店とモールの双方に「とりあえず都合よさそう」が折合いの動機となっている。
大型SCへの出店による既存店の撤退により、ロードサイドに空き店舗ができる。
以前なら解約申し込みが告知されるやいなや、次のテナント候補へ内々に物件情報が報され、条件交渉の末に内定。改修工事もしくは建替え工事完了後すぐに新テナントの営業が開始されることが常だった。
しかし飽和状態以上となっている物販・飲食施設の現状がそれを昔話にしている。
家電や家具インテリアなどの大型消費財を扱っていた中規模店舗跡や各種アパレルをはじめとする専門店跡に多い単層建屋なら、EC企業の事業所兼倉庫としての利用が好適である。
と、今回も呪文のように繰り返す。
余裕ある駐車スペース、店舗裏の荷受場、二層以上なら荷物用昇降機付き、段差のない床。
在庫保管や荷役に支障はなく、事務所機能を備えかつ空調が完備しているので、従業員の労働環境としても申し分ない。一般的な営業倉庫のテナント条件では望めない環境が入手できる。
そのうえ物流経費を含む販管費総額が現在よりも安くなる可能性が高い。
なぜなら倉庫物件以上に店舗物件は余剰となっているからだ。かといって露骨に足もとを見るような行儀悪い交渉はお勧めしないが、格安な条件での成約が期待できるだろう。
つまりは自社努力だけで競争力が増強されるということになる。
外部委託してきた物流業務を内製化するにはいくつかのハードルがあるが、他社でも同じように行っている正しい段取りと方法論で実行すればよい。
それよりも一番危惧されるのは立地だ。
といっても対顧客という意ではない。国内ECに関しては、運営者の事業拠点所在地が購入条件に含まれることなど皆無に近い。
立地選定で最重要事項は従業員の雇用維持・新規採用についてだ。
移転後の通勤手段や所用時間以前に、勤務地へのこだわりやイメージが労働条件の上位にある人材への対処がデリケートで重要な問題となる可能性が否めない。
これについては定石と呼べる対応策を呈示できない。テレワーク導入や勤務形態自体を柔軟化させるなど正解の確定はさまざまだ。
もどかしくやるせないが、各企業の経営陣の対応に拠るしかない。
唯一約せるのは、倉庫業務に要する労働力確保には一定の見込みがたつという点だ。
周辺は店舗の居並ぶ商業エリアなのだから、そこで働く人々の数も相当数に及んでいる。
求人への反応は悪くないはずだ。
ECの拡大はまだ続く。
現在の圧倒的多数を占める「都市部に本社機能・倉庫は外部委託」だが、それは徐々にばらつき始めるだろう。
人口動態と消費性向を素直に読めば、その理由はあきらかだ。
拙著でも多数書いてきたし、他所の記事にも同種同質の内容を解説し予測する文章は多い。
可処分所得の増えない国。
可処分時間の増える国。
それが日本という国の姿ならば、ECのありかたも順応変化してゆく。
全国を格差なく網羅できる消費補完機能はECがもっとも適している。
国内の実態に応じてEC事業者の選択肢が多様化するのは自然の流れだと言える。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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