今週は各地で入社式が行われた。新入社員の皆様に心からお祝い申し上げる。
不肖ながらも言い添えたいのは、働き方を考える前に生き方を自問してほしいということだ。
志向や価値観は年齢と共に移ろうものとされているが、私は必ずしも全部が全部そうだと思っていない。若き日に感じた欠片のごとき小さな貴さが、年齢を重ねるほどに大きく重くなってゆく人は多い。なので、新たな環境で歩み出す今この時に感じている小さな貴重品をどうか大切に持ち続けて欲しいとお伝えしたい。企業人としての強さや優秀さなど二の次でよい。
評価は人がするものなので、自身で分析したりこだわったりして一喜一憂するのは無益でしかない。横眼や横並意識が過ぎるのは、自分自身を虐待したり否定することと同じだ。
多少の逸脱や異形は気にせず、始まりの時に心の中で念じた自分自身との約束事を全うできる人生を歩んでくださいというのが私からの祝辞である。
人は最初が一番良いことを考えている――そんな言葉を若き日に聞かされたが、今も心の深いところに居残って褪せることはない。
冒頭にこんなことを書くのは初めてだが、なぜか今年はそんな気分になった。
ではここから本題に。
コロナ禍がもたらした現象のひとつに、在宅勤務の奨励があった。疫災が収束を迎えようとしている現在、その傾向にはやや陰りが見え始めているが、企業によっては出勤頻度をコロナ禍前に回復させず、勤務時間の大半を在宅にて済ませることも珍しいハナシではなくなった。
読者ご周知のとおり、在宅勤務の常態化は数多の業種・職種に就く労働者の生活スタイルを劇的に変えてしまった。東京をはじめとする大都市部から、周辺の郊外地やさらに遠方の過疎地域に至るまで、移住の候補地が取り上げられるようになり、実際に家族で転居する者も数多く現れた。その傾向は今も続いており、まさに働きかた改革の本丸ともいえる可処分時間の拡充を求める志向は衰えを見せていない。
実はこの傾向は米国でも顕著なのだ。最近のデータによれば「地方移住者の増加によって個配各社のコストが上昇」という事実が明らかになった。つまり移住者の最多層たる中高所得者たちが日常利用している購買手段として、ECは最上位か次点だ。なのでパワーバイヤーたる中流以上の所得層が都市部から流出すれば、それに伴ってECの配送エリア分布が変移するのは当然の因果となる。つまり同じ人物が同じように購買しても、配送エリアが変わっているので、販売者やデリバリー事業者の配送効率やコスト設計は大きく変わってくるというわけだ。
なにもだだっ広い米国を事例研究の具にせずともよい。この狭い日本の国土内に置き換えてみても、ちょっと考えてみれば「そりゃそうか」となるハナシではないだろうか。
人口密集地の東京都内で一日150個配達できていた荷物が、地方の過疎地ではせいぜい50個ぐらいしか届けられなくなる。一停車一個しか配達完了できない状況を標準とする根拠コストで個配料金は算定されていない。ゆえに、都心部は黒字、過疎地はやや赤字かトントンぐらいに収支が落ち着くことが個配大手の従来までの内実だったと聞いている。
今後はその効率較差がより明瞭になり、さらに段差が拡がることは必至だ。
こうなると薄利多売型のEC事業者は、さらに値上がりする個配コストを許容できなくなるので、こぞって顧客転嫁を、、、とは一足飛びにはならない。
価格以外の付加価値や差別化の術を持たぬ小売事業者にとって、購買者による配達料金実費負担の壁は高い。消費者の声を聴きとる以前に、「先に購買者の送料負担を告知すれば、競合他社よりも不利になる」という恐怖心が思い切った意思決定を鈍らせて遅らせる。
では、どのような策を打つのだろうか。
まず思いつくのは「倉庫拠点の改廃と集約」だ。
さらには配送業務の内製化によるコストダウンが続く。
もちろんこれは超大手のECやその物流業務を請け負う大手3PLに限ってのハナシであり、業態を問わず中堅以下の事業者は、従来通りの一般サービスを維持しつつ、細々とした倹約や主軸たるサービス内容の順列や付け替えに励むのだろう。
このような状況は中小零細や新興の運送事業者にとっては好機到来となる可能性が高い。
国内におけるいわゆる三大個配事業者がコストアップにあえぎ、拡大路線を一時休止する形で利益確保に勤しむ間隙――そこにうまく付け入る中堅事業者や販売者直属の小規模運送事業者や個人配送業などは、受注量を大きく伸ばすことができるだろう。
たとえばアマゾンなら、米国でそうなっているように、日本国内でも配送内製化を再び強化する可能性は高い。ただし、労務問題は従来以上に丁寧に真摯に取り組まなければならない課題として重くのしかかるはずだ。
2024年問題の根幹はまさに労務条件の改善に在って、普通の人々が牢獄の囚人のごとく扱われたり、成果数値至上主義を「合理的」とすり替える事業管理体質は改めなければならない。
でなければ配送業務に携わる人材は未来永劫増えることはないし、それは業界の未来が暗く寄る辺なきものとなる。
とここまで書けば、最後の締めは「地方自治体による物流事業の内製化」という毎度のミミタコ講釈となることは、古い読者ならお判りのこと、、、と恐縮しつつもやはり書く。
地方自治体が移住者を望み募るならば、職住環境の整備は必添要素となる。
その一案として、自治体が域内の集配業務を手掛けることを提案してきた。できれば巡回販売やネットスーパーなどと提携して、生活必需品の購買環境を整備維持する先導を担う。
域内コミュニティの活性化には精神論ではなく具体的な実用案が必要だ。役場や公民館などでのWEB購買サポートセンター設置や日常の買い回り補助のための巡回車両の導入など、「すぐできて実用的」な施策は、毎日の生活の助けとなること間違いないだろうし、移住誘致に際しても「安心して齢をとれる」裏付けとして説得力があるはずだ。
国策としての地方部への機能分散や移住推奨を受けて、地方自治体は自らの足下を見つめなおし、実現に向けて着手可能な施策を講じる必要がある。その一案として、環境変化に翻弄されて事業継続に日々汗をかいているEC事業者や配送事業者などと共に考えることを検討してもよいのではないかと強く推す。
生活インフラたる物流機能のアンカーとして、域内物流の自治体による内製化は好ましく、公共事業としても有効ではないかと考えている。
配送コストの上昇を災いとする向きがあるなら、転じて福となす施策を考えるのが物流屋の気概ではないのか、、、と偉そうに書くほどの腕はないかもしれぬ不肖ワタクシも、平成のころから業界の端っこで呼びかけ続けている。
声を上げて、動き始める方々が増えることを切に願う。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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