物流よもやま話 Blog

今月はEC物流特集 ‘ 次世代のEC物流 ’

カテゴリ: 予測

過去に何度か「もし自分がECをするならどんなジャンルを選ぶだろう」
と考えたことがあった。
趣味性の高い専門的な商材でやってみたいと思った。
たくさんは売れないが、生活できる程度の収入になればよいと願い起業するに違いない。
幸いなことに入荷から発送までの業務は全部自前でできるので、そこはかなり倹約できる。
しかしながらヘナチョコ売上ゆえに、個配会社のタリフはえげつなく高いのだろうなぁ。
なんてことまで考えたりした。
こういう夢想はとても楽しい。

今後のECは今以上に二極化すると感じる。
それはかつての百貨店やGMSと専門店の区分けよりもさらに細分化した形で。
同ジャンル内での二極化の進行が顕著になるのではないだろうか。
専門店を突き詰めたはずのECショップ間でも、「何でもそろう。何でも売る」と「これしかない。これしか売らない」といった、明確な違いが如実にあらわれる。
裏を返せば、中途半端な立ち位置にいるEC企業は消費者の選択肢からもれてしまう。
「何の店なのか」がわかりやすい存在でなければ厳しくなると感じる。
(今や実態としてはかなりその状況に近いし、新興のショップは徹底している)

そして販売にまつわる戦略や手法だけにとどまらず、物流についても同様な差別化が必須とされると予想する。ほとんどのEC企業の販管費の中で最も大きい比率を占める物流経費。このコスト対策を無視する企業は皆無であると思う。
以下はロジ・ターミナルの基本的な考え方だが、EC専業企業の物流実務は「至れり尽くせり」ではなく「普通」でよい。名入りのしゃれた箱や袋やテープ、購入者が処分に苦労するほど過剰な緩衝材などは不要。出荷量の多大な企業なら名入り発注の経済ロットを選択することは無理がないと思うが、中小には必須ではない。

購入品が予定通りに違和感のない梱包で手元に届く。
この場合の「違和感のない」とは個配会社のサービスパックや無地箱といった普及品という意。それでまったく足りる。購入者はそれ以上のことを求めてはいない。
店頭販売での手提げ袋や包装紙と違い、ECショップの梱包資材への社名や屋号表記はブランディングや広告効果にほとんど寄与しない。なぜならその表記を見ているのは倉庫作業者と個配会社の人間と購入者だけだからだ。
もちろんロゴ入りのしゃれたパッケージで届いたら、数秒間ぐらいは印象付けができるが、それが顧客の囲い込みに有効なのかという点については不明としか言いようがない。

購入品が届いたら、開梱して中身の確認。
さっそく試着したり傷や汚れがないかを丁寧に検品。
「何も問題はない」と確認できたら、次は梱包材を小さくまとめてゴミ箱に。
その一連の動作中に「この品物が発送された倉庫」や「梱包資材の詳細」を思い浮かべる人は極めて少ない。ただし、一昔前の「ブランド・アイデンティティ」的な表記統一と自社ブランドの徹底的な流布や露出、認知を求めてやまない企業については、この記述内容の意図が当てはまらない。

物流は「普通に届いてあたりまえ」という顧客の無意識を相手にする業務。
だからこそ厄介で気が抜けない。
「すばらしい」よりも「普通」を維持するべき機能と捉えている。

二極化するのは現場ではなく、販売の場面での物流サービスをどう設定するかだ。
実は二極化ではなく三極化すると考えている。(というかすでにそうなっている)
単純なハナシで、費用(主として送料)の負担をどうするのか?
という区分けとご理解いただきたい。以前も書いたが、販売者が全額負担か購入者が全額負担か双方が按分負担かにはっきりと分かれてゆくだろう。
意思決定を後送りすればするほど、顧客対応の変更が難しくなる。

もはや配送料の値下がりは見込めないし、倉庫同様に運送会社の労務費用は増加する。
つまり今後も数度の踊り場を経て、個配料金は大きく値上がりするに違いない。

販売の素人の思いつきだが、物流経費を販売段階で開示するというのはどうなのだろう?
「今回のご購入品をご指定の場所にお届けするためには、〇〇〇円のコストがかかります」
のような。その内容は配送料のみではなく、人件費や資材費や保管コストと関連経費、その他雑費を合計して割り戻した一件当たりの平均額をカート上部に表示する。
表現には細心の気配りと真摯で誠実な言葉が必須であることは当然。
なぜそのような表示をするのかの説明、つまり商品品質と顧客サービス維持のためには、購入者の理解を得ることが絶対条件という販売者の意思を、正直に謙虚に記すという意。

既存の常識や意識にとらわれることなく、ECの利点である情報開示力を活かし、そのうえでショップと顧客の費用負担を提示するということは全然ダメなのだろうか。
購入した商品が手元に届くまでにかかる物流コストを表示されることは「迷惑」「失礼」「うっとうしい」「知りたくない」などの反発や否定一色になるのだろうか。
5000円の買い物をして、送料等で1000円もショップは負担しているのだと知って、嫌悪や不快感を抱く顧客が過半以上を占めるのだろうか。
「そんなコスト表記をするショップでは買いたくない。似たような店は他にもあるし、単純に送料無料で買い物は終わるのがあたりまえ」が購入者一般の本心なのだろうか。

物販で勝負しているショップが商品で負けるのは仕方ない。
しかし物流経費の過重負担で倒れるのはいたたまれない。
美味い飯屋が味の悪化による顧客離れ以外の理由で閉店するのは残念なのと同じ感覚。

将来を賭けるポイントは顧客ニーズと商材であって、安い物流経費と労務や税務の抜け道探しではないと思う。
思い切ってど真ん中に直球を投げ込むような情報開示と顧客理解の訴求をするEC企業は出てこないのだろうか?
商品情報と同様に、付帯コストの全容を包み隠さず表示することは、購入者の安心につながらないのだろうか?

「このままだと皆が沈むではないか」
なんてことをブツブツ言いながら、この原稿を書いている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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