今年以降も労働力不足と非正規雇用人員(もういいかげんこの表現はなんとかならんもんか)の時間給上昇は続くだろう。
特にEC事業者の物流現場もしくは類似形態の倉庫内労働者の募集単価は全国的に上昇を続けており、毎年上がる最低賃金の底上げ作用もあいまって、この5年ほどで2割程度上積みされたというのが実感だ。統計的な数値も似たような値で推移しているようだが、地域内募集賃金の上昇にはムラがあり、その格差によって近隣労働現場間での働き手の移動が発生する。
ゆえに事業者の募集コストと欠損労働力を埋めるための派遣人員依存度が増している。
つまり、平均的な人件費上昇の積み増し分以外にも、労働力確保に必要な付加コストも高止まりしたままなので、まさに泣きっ面を蜂に刺されるような状況なのだ。
作業単価が据え置かれたまま労働コストが上がれば営業粗利益圧縮となるのは当然の因果だ。なので一般論的にはコスト上昇分を作業単価に転嫁することへの理解を――という理屈や説明付きの「値上げ」が通らない、通りにくいことは今さら説明するまでもない。
条件改定の申入れによって、既存荷主の中には解約をにおわすこともあるだろうし、値上げを依頼しに行って、逆に事業の苦境を説かれ、最後は泣きつかれて現状維持のまま帰ってくる。
というのはよくあるハナシではないだろうか。
営業倉庫の現役営業担当なら下請法などの建前を持ち出してまで強硬な交渉や申し入れは現実味に欠ける、、、ことも不肖ワタクシが代弁しておこう。
よほど無体な単価のまま存えている契約ならともかく、この数年間に新規契約したり単価改訂を呑んでもらった相手に、世相が後押しする正論とはいえ右から左にコスト転嫁できる物流会社は極めて稀だろう。それは事業会社の物流部門とて本質的には似たようなものだと察する。
生産や物流の現場では命題化された必要労働力の絶対量が存在し、それは業務総量と生産性から導かれた「必要労働時間」という解へとつながる。
延べ時間の充足に必要なパートやフルタイムアルバイト人員の確保こそが、命題必達への最低条件となるわけだが、多くの現場事務所ではその初歩点から苦戦している。
人が採れないので募集単価を上げる、、、のならば、今働いている直雇いのパート・アルバイト時給も相応に上げる必要がある。
「高単価低品質の派遣人員に依存するよりもいいのでは」という正論は誰でも理解できるが、実際のシミュレーション通りに人が採れなければ、現状は何も変わらない。
さらなる目配せとして欠いてはならないこととして、求人出稿した「思い切った募集単価」を目にした既存労働人員は、自分たちへの事前賃上げ告知がないことへの不信を抱くこと間違いないので、あらかじめ如才なく手当てしておかねばならない。でないと最悪の事態として退職流出を招いてしまいかねない。
あれこれと画策し、予算を投じたにもかかわらず、結局は新規採用の目標は未達のまま、既存人件費が上昇してしまった、、、という憂き目に晒されかねないのだから、現場管理者や部門責任者の腰が引け気味になるのも無理はないと思う。
そのような人員確保に東奔西走する物流部門の正社員諸氏にしても、雲行きのあやしさはすでに肌感覚で承知しているはずだ。
全体最適や利潤確保という自社の着地のためには、成果主義や労働時間の短縮と従量報酬の併存が避けられなくなることを、手を変え品を変え言葉を変え上司を変えて会社は啓蒙し続けているし、現実に組織改編や廃止に伴う異動も頻度と範囲が増すばかり。
如才なく働くだけでは年収は経年上昇しないだろうし、年齢序列はとっくに廃れている。それどころか年功序列でさえ怪しいものだと用心しておかねばならない。
というハナシを夢で見たとしておきたいが、正夢になりそうな気配が世間には漂っている。
政策で昇給が導けるとは現段で期待できず、同一労働同一賃金のみが独り歩きして歩調を崩さないままと思えてしかたない。
最低賃金が上がって、平均所得が下がる。
更なる公租公課の上昇は不可避で、エネルギーと原材料の調達コストも高止まり。
可処分所得は今後も減少し続けるわが国では、暮らし方や価値観の根本的な見直しを皆で考える必要があるではないのかと思えてしかたない。
生活の充足感や物質的な価値への感受性が変われば、モノの流れ方も大きく影響を受ける。
発送や配達には十分な幅を持たせて、ゆっくりと。
業務の日割り一定量を定めて、荷の到着を皆で順番に待つ。
可処分所得は少なくなったが、可処分時間は増えた。
なので、受領者の行動時間裁量の自由度が高い能動的な施設内受け取りなどの励行、、、による商流完結までの全体最適化。
そんなことも夢に出てくるが、これは正夢になってほしいと願う。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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