冒頭からいきなりで恐縮だが、まずは以下をご覧いただきたい。
図表化せずにテキストでの説明なので、見比べにくい点は前もってお詫びしておく。
(購入者A)
■決済方法:クレジットカード、電子マネー、銀行・郵貯振込、代引き、後払い
■配送料金:300円
■再配料金:無料(初配から14日以内)
■配送日時:指定可能。配送日時お任せ(複数から選択)割引あり(▲150円)
■受取方法:選択可能。受取方法お任せ(複数から選択)割引あり(▲150円)
(購入者B)
■決済方法:クレジットカード、電子マネー、銀行・郵便振込、代引き、後払い
■配送料金:600円(購入金額7000円以上で300円)
■再配料金:無料(初回のみ・初配から10日以内。以降はキャンセル処理)
■再々配達:不可(再不在は受注取消処理、往復送料・事務処理手数料等は返金時に減額)
■配送日時:指定可能。配送日時お任せ(複数から選択)割引あり(▲150円)
■受取方法:選択可能。受取方法お任せ(複数から選択)割引あり(▲150円)
(購入者C)
■決済方法:クレジットカード、電子マネー
■配送料金:600円 ※注文時のみ再配オプション申し込み可能(別途200円)
(不在は受注取消処理、往復送料・事務処理手数料等は返金時に減額)
■配送日時:注文日から14日以内指定
■受取方法:自宅置き配、職場(要登録)、コンビニ、配送会社営業所のみから選択可能
(購入者D)
当店の利用不可
「とあるECショップの画面でユーザーログイン直後、もしくはログイン状態でカートに商品を入れると表示される購入者別のパターン」という想定で例示している。
念のため書き添えるが、あくまで私個人の仮想に過ぎない。
決済と配達の情報連動はECで一般化するだろう。
ショップユーザー個人への購入付帯条件として特定ページに表示される。
具体的には決済方法と受取方法のそれぞれに個別条件の提示。購入者は与えられた選択肢の中から自由に組合せを決める。
あくまで「提示された中から」であって、ショップの用意している決済・配達受取サービスすべての中からではない。
選択不可となる組合せが個人別に存在するということだ。
ショップやマートによる差はなく、他のECショップでも同様の表示が出現する。
一定以上の「販売者としての与信」をクリアしたショップが参加・利用している消費者個人の与信情報ネットワークがそんな現象を引き起こす。
顧客管理・販売管理のために固有の基準を設け、相応のランク付けがなされる。さらには、それに応じた優遇や特典を個別に提示する。
そのような「販売の履歴に基づく顧客管理」は、今までも各社・各マート内では個別に存在してきた。
今後は更に進化・深化し、「購入行動にさきがけたユーザー基本評価」的な与信ネットワークが形成されるだろう。
つまり、各社の販売における競合や差別化以前の共有するべき基礎与信については、大きなデータ母体から抽出されるようになる。
もはや不可避となったEC市場の寡占化がその流れを助長する可能性が高い。
販売・決済・配送のガリバーたちが中心となって持ち寄った購買行動の履歴。
それを核とする「EC与信」とも呼ぶべき個人情報の形成が一般化するだろう。
参加企業としての与信をクリアした売り手はそのネットワークを有料で使用するし、厳密な個人情報保護規約に基づいて最新の取引情報提供も行う。
あくまでも水面下で日々増大するステルスネットワーク。
暗黙の了解ともいえる登録企業の行動は、プライバシーポリシーの片隅でコンプライアンス上の表示義務として扱われているが、ユーザーの目にはつきにくい。
ほとんどの人が係争時にしかその存在を意識しないだろう。
それゆえに本来なら時間をかけて取り組むべき多面的な検証作業が不透明であったり、偏向防止のための監視機能整備が未成熟のまま運用される可能性が否めない。
何よりも危惧される点は、情報のソースとなる個人の自覚が希薄なまま短期間で急速に肥大化する可能性が高いことである。
「EC与信」の構成要素は以下のようになる。
金融与信:クレジットカードや後払いサービスの取引履歴。ローンなどの利用履歴。
行動与信:過去の返品や返金、交換、トラブルの頻度など。クレームの種別。
配達与信:着払・代引きの拒否頻度、再配率、不在率と保管期間超過による返送の頻度。
各社固有の主観的事実と全社共通の客観的事実に区分されて、情報の共通ネットワーク上にアップされる。
金融事故や利用枠、配達の各項目回数などは客観的事実だが、クレームやトラブル処理の一連は主観的要素が排除できない。
なので、客観要素はデータとして即時反映、主観要素は複数ショップからの同類情報が収集され、一定の客観性が担保されるまで経過観察される。
顧客評価は、決済と配達については売り手側の匙加減次第とはいかなくなる。
融通が利かない反面、多数の事業者の取引情報から導き出された与信結果が得られる。
トラブルを未然に防ぐという意味で有効であり、主観と独善に偏りがちな自己判断を制御・修正する効果が大きい。
自社内で「履歴上は歓迎せざる事例がいくつかある」顧客でも、ネットワーク上のEC与信は高いらしい、というようなこともあり得る。
そんな乖離を謙虚に受け止めれば、自らの顧客対応を改めて検証する契機となる。
このような事業者保護ともいえる運用に際し、最も肝要な点は個人情報の厳密な収集・管理と情報開示の限定性である。
加えて与信情報確定に際しては、事業者側の恣意性排除が重要。
客観的な事実のみを情報として収集・集約しなければならない。
情報提供者でもあるネットワーク参加者の相互監視が最も有効だが、「金持ち喧嘩せず」なんていう、いつか来た道のなれ合いは厳禁としなければならない。
偏向した情報操作や評価は市場の成熟と合理化の障害になる。
「選択可能な決済方法と受取方法」の条件提示にあたっての「理由」を知ることができるのは購入者本人のみであり、情報ネットワーク利用者である販売者側では極めて無機質な選択可能条件の結果しか知ることができない。
当然だが購入者からネットワーク運営機関への与信内容に関する異議申し立ての方法が明示されていなければならないし、その是非の判定は市場参加者から利害の分離された第三者が担う必要がある。
例えば金融業界に類似した形態の「EC与信に係る指定紛争解決機関」のような組織が必要であることは言うまでもない。
ヤマトの後払い決済などに代表されるとおり、多様化する決済サービスがECの物流業務に及ぼす影響は大きい。
配送者が決済まで進出することも、決済機関が配送分野に支配力や影響力をもつこともごく当たり前のビジネスとなるだろう。
異なる分野の企業間での事業ドメイン拡大や融合や統一は今後も数多く発生する。
そんな事象の背景には以下のような理由と時系列に並ぶ事実がある。
「物流や金融はサービス業」という意識の徹底ゆえの我慢や無理が、制度やそれを支える組織の劣化と破綻を招いた。
今からの時代、決済や配送はサービスである前にインフラでなければならない。
従って過度な差別化や競争は足下を危うくするだけであり、それは平成の時代に皆が思い知った。
インフラであることが第一義ならば、その最重要事項は安定運用と共通ルールの順守。
フライングや自己本位は許されない。
これを書きながら、案じてやまないのは、「金融・配送・販売」のガリバー達だけが閉ざされた囲みの中で情報提携を行う可能性についてである。
寡占下の現状では、彼ら独自の顧客評価は実質的なEC与信として大きな影響を個人の購買活動に及ぼす。
第三者からすれば、恣意性や偏向の可能性が否めない評価決定プロセスであっても、民業ベースでの商取引という枠組みからはみ出さない限りは何の問題もない。
「都合の悪い客は不要」という独善や放埓がまかり通る仕組の巨大化が危惧される。
実質的にはインフラ化しつつある個配や巨大マートの自己本位なルール運用を抑止する意味でも、世論・各種メディアはもちろん、公正取引委員会や国民生活センター(消費生活センターや消費生活相談窓口)なども巻き込んで、冷静緻密に観察・監視しなければならなくなる。
強者の独走には抑制と客観性が必添ということだ。
お人よしが過ぎるかもしれないが、偏向ありきを前提とする性悪説由来の環境整備は好ましくないと思っている。
もし本記事の一部でも現実に進行しているなら、生活インフラを担う各分野の旗手としての商道徳と顧客本位を看板に描き入れて、慎重に制度設計してほしいと願う。
「三方よし」の実践を切に望んでいる。
この数年に限らず、最前線の不首尾や不具合がコストや労務への皺寄せとなり、その負担を順送りして、最終的には消費者へ転嫁されてきた。
転嫁すべき負担の割合を「与信」という名で決定している側面はゼロにできない――購入行動選別、決済方法選別、配達・受取方法選別、総合評価選別、、、
現実にはもっと多要素の複合的選別や格付けが行われるのだろう。
長々と記した妄想が現実となるのか否か。
なるにしてもならぬにしても、その先にある我々の購買環境はどう変わってゆくのか。
いずれにしても、消費者利益の確保という大原則は死守してほしい。
「お客様は必ず報われなければならない。なぜなら企業の全コストの負担者なのだから」
そんな言葉を未だに信じている。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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