物流よもやま話 Blog

置き配が標準化したら

カテゴリ: 予測

今や主たる購買先のひとつとなったEC。この10年余りの間にずいぶんと淘汰が進んだとはいえ、購買者側にはある程度の選択肢が与えられている。
しかしながら、最終配達については相変わらず寡占状態のままである。

こういう話題の際には毎度書いているが、巨大資本の新規参入か経営参加もしくはM&Aのような外圧による均衡破壊が急ぎ必要である。
もちろんだが、今後めざましい消費拡大が見込めないわが国において、現状の個配事業者のできることはサービス選好による効率化と運賃コスト抑止であるという指摘に異議はない。ただし、個配市場が現状のまま推移し、プレイヤーの顔ぶれも変わりないのまま――という前提条件は相当にもろく危なっかしいのだと疑ってみるべきではないだろうか。

透明な巨人達が棲む運輸業界の端っこで少しづつ存在感と発言権を獲得してきた個配事業の寡占3社のうち、長くトップを走るのはヤマト運輸。
わが国で取り扱われる50億個の個配物のうち約半数を運ぶヤマト運輸の動向=国内の個配動向の指標、とされて久しいわけだが、最近の動きとして目立つのは「置き配推奨」である。
言うまでもなく配達完了率の向上に有効であるし、現状ではそれ以上の現場寄与する方策が見当たらないからだろう。

「ネコはわかっていると思うけれど…」
ということわりで始めたいが、自宅置き配やら自宅以外でのC&C(Click&Collect)やらを最有効サービスとみなし、推進と利用者啓蒙に注力している点でネコは大いに評価できる。
大口顧客であるアマゾンの覚えめでたいことも推して知れる。
少なくともイマイチどんくさいまま変わり映えせぬポストやひと昔前に袂を分かった飛脚に比して、はるかに動きがよいしミスも少ないし無理もきく――というのは実際に聴きとった評価の一部でもある。圧倒的国内シェアと業容拡大堅調なアマゾンジャパンのかけがえないパートナー。人手不足などの不安要素はあるものの、業界内の地位としてはまさに前途洋々。今やインフラとして国民生活に不可欠、、、それは確かなこと。
――のまま次世代に引き継がれるのか?という疑念が脳裏に浮かぶ。
というわけでこの段頭の書き出しになったのだ。

以下は2023年のとある統計資料からの抜粋数字である。

UPS 53
FedEx 30.5
Amazon 59

ちなみに数字の単位は「億個」。
出所はウォールストリート・ジャーナル。
半年ほど前にいくつかの媒体が報じたので、既知の読者もいらっしゃるかと思う。

一目瞭然ながら、2023年の米国内における個配個数は最大手のUPSを大きく上回って、Amazonがトップに立っている。(実は2022年に順位が入れ替わっている)
それ以上に「ホンマかいな、キミ」と記事面に向かってツッコミ入れてしまったのは、Amazon単体の米国内出荷個数が日本国内の個配総数をはるかに上回っている点だ。

重ねて驚いてしまったのだが、Amazonは出荷から配達完了までの全工程を自前でまかなった分のみを取扱個数としている点だ。つまり完全自社配送分のみ計上というわけだ。
併せての付記事項として、UPSとFedExは、最終配達(いわゆるラストワンマイル)をUSPS(米国郵便公社)に委託した個数分を含んでの総計となっている。
これまたショッキングなハナシである。

ご承知のとおり、AmazonはUPSやFedExの大口顧客だった。過去形となってしまった理由は「Amazonの求める業務消化能力と品質とコストを満たせなくなったから」である。
2010年代に差し掛かる頃からプライムサービスの充実に伴ってAmazonの利用者数は増加の一途となり、売上高の急伸に伴う出荷量の急増は配送事業者の予測力や対応能力を大きく上回り続けた。大規模セール後の津波出荷は言うまでもなく、ちょっとしたイベントでも膨大な受注が積み上がるようになった。
追討ちをかけるがごとく、受注増加の主因たる取扱品目の多様化と拡大は、AFC(Amazon Fulfillment Center)での集荷から自社TC内荷役、そして配達完了までの全工程にハイレベルな効率と正確性を要求する原因となった。そのような短期間での改変がもたらしたものは、恒常的な残荷のなれの果てでしかない集荷および出荷の制限頻発であった。
どこの国でも似たようなハナシは尽きぬ。

荷主たるAmazonとUPSやFedExをはじめとする配送受託者の間で大いなる話し合いがあったに違いないが、抜本的な対応への道筋はつかないまま時間が過ぎたことは想像に難くない。
結果Amazonが出した事態打開への対策は、大手配送事業者への依存度を下げることだった。
本腰を入れて配送内製化に取り組み始めたのはおよそ10年前のこと。
最終配達にとどまらず、入荷から配達完了までの自社物流網構築を着々と進め、約5年前の2019年には米国内での個配分のうち約45%を内製化した。

日本でAmazon Flexなどの配達委託契約の話題が取り上げられるようになったのもその時期からだったと記憶しているが、ちょっとあやしいのはお許しを。
現在、エリアによって大きく異なってはいるものの、Amazonの購買者がヤマト運輸やJP以外の配送事業者から荷を受け取る件数比率は増加の一途となっている。

かといって、この10年余りの間に米国で起こってきたことがそのまま日本国内で再現されるとは考えていない。
ただ、国内産業EC化の流れは速く太くなるばかりなのだから、個配数はそれに伴うのが道理だろう。ただし現段の「個配」と括られる形態がこのまま存えるとは考えにくく、宅配を主とする「コハイのあした」は、派生や変容を伴って多様化するに違いないと思っている。
EC化の明日を考察するなら、先達たる米国の事情を参照するべきは当然である。

仕切り直して書いておく。
なんでもかんでも「Amazonにならえ」とは思わないが、個配分野での宅配についての標準もしくは定石として「置き配が基本」となるような気がしてならない。
たとえば「コロナ禍収束後にも非対面受領の需要は拡大を続けている」「住居形態の別なく宅配ボックスの設置数は右肩上がりの増加」、などと聞けば、その思いは一層強まる。
つまり在宅していても置き配で受領したいという志向は強まるばかりなのだ。
受領のために指定時間枠内は在宅し続けたり、わざわざ手を止めてでも玄関口で直接受け取りたいモノ以外は、置き配完了の報せを受信してから、あまり間を開けずに荷物を取り込めばよい。着荷直後や少しの時間差であれば、盗難などのリスクやその心配も軽減する。

置き配が標準化し、個配物はかつての受動的受領※1から非対面での能動的受領※2へと移り変わってゆくとしたら、不在再配達が激減し、配達完了率は100%に近似し続けるだろう。
※1 購買品の配達受け取りを自ら指定した場所で待ち受ける態様(永田造語)
※2 購買品の受け取り場所や時間を自ら定めて赴く態様(永田造語)

そうなると配達人はAI内臓のナビゲーションが導き出す配達ルートどおりに回ればよい。
いわゆる配達職人と評される高い配達完了率を誇る熟練者でなくとも、一定の完了率が見込めるようになるのではないだろうか。「だれでも簡単にすぐにできる」という謳い文句ばかりが目立つAmazon Flexの美辞麗句一辺倒案内の信ぴょう性が疑いなきモノになるかもしれぬ。

そんな状況を思い描きながら、読者諸氏には改めてご想像願いたい。
上述のハナシの流れを真に受けるとしたら、一気通貫物流の内製化に先んじているAmazonは圧倒的に優位であるだけでなく、最終配達を含む巨大で強靭な処理能力を、

「完全内製による自社物流業務消化の次はFBA(Fulfillment by Amazon)をさらに進化させた総合物流サービスの受託者――つまり国内屈指の営業倉庫・運送事業者となる」

に振り向ける可能性を排除できないとは思いませぬか。
そしたらこんな会話なども聞こえてきそうです。

「配送業者をヤマトとサガワからアマゾンに切り替えた」
「うちはアマゾンに物流委託しているから受注ムラによる乱波動に強い」
「アマゾンのOEM物流サービスで、自社物流として顧客対応している」

いやはやさすがに笑えんなぁ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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