物流よもやま話 Blog

適宜と適時

カテゴリ: 予測

昨年の入梅期にも書いたが、夏季休暇の拡大と荒天有給制度の採用を強く望む。
亜熱帯さながらの気象現象が常態になっているわが国。「お天道様には勝てませぬよ」と割り切って、働く者の安心安全を最優先とする制度をデファクト化させるべきだ。
有給取得率100%なんていう事業者は極めてまれなのだから、災害級の荒天時には有給扱いで休みとするのも一案ではないかと思う。そのためには社会的容認の空気が漂わねばならぬし、企業広報としても「申し出があれば認める」から「有無を言わせず実施」という能動的運用をオフサイドトラップのごとく横一線で行動していただきたい。

業務については、荒天時や被災時の緊急対応だけでなく、平時から努めるべきは「物流機能の評価において、量や速度を上位に置かない」という全体合意と意識付けである。
現状では自社物流運営の一部企業や限られた企業グループぐらいしか標榜していないし、具体的内容の告知も内向きであることがほとんどだ。世論化や事業価値測定の基準改変を促すにあたっての好例となりえるので、外向きな広報を切望する。ただし、戦略的な意図をもって内向型に止めているのだとしたら、もう少し待たねばならないのかもしれない。

もちろん物品によっては「すぐ」「欠かすことなく」「臨機応変」を第一に置かねばならないことは当然ながら、そのような対象となるものはたいして多くはない。
即配・最短時間・途切れなく、にこだわっているのは、あくまで事業者や業界であって、大多数の最終ユーザーではない。事前に告知しておけば、一定の猶予と許容を得ることは難しくないはずで、急ぎの要望には個別に対応すれば済むハナシである。
レアケースを全体標準に据えるのは無理を通り過ぎて無謀となるのは必至。その顛末の具体例を参照したいなら、15年ほど前の個配便の過当競争を読み返せば判る。

今後の物流機能に必要な言葉は「適宜」や「適時」に尽きる。
その大前提となるのは、現在から近々までの顧客要望の推移を「正確に把握・分析・検証・予測・精度向上」というサイクルに取り込んでズレを防止する最適化手順の徹底である。
サービスの抑揚や改廃を決定するにあたって、勘や根拠なき予感は厳禁。言うまでもなくデータの動向と移動平均的な基調観察から導かれる一定の確からしさから導いた予測に応じての意思決定でなければならない。思い込みや既成概念ほど怖いものはないということなど言われずとも承知しているし、「実は前々から“ひょっとしたら”という引っかかりのようなものが頭の片隅に見え隠れしてはいた」という管理者は多い。

「翌々日に着荷させることで荷受側承諾なら、戻り便は他社の荷物を積める」
「受注引当から納品までの所要日数を中一日多めにとることが可能な場合とそうでない場合の仕分けを営業から依頼する」
などのちょっとしたひと手間や工夫を怠らず、既存の情報処理を今一度見直してみることは、結果として多くの利益や効率を得る契機となるはず――という意識改革を行ってみてはいかがだろうか。その際に上記にある「顧客動向把握の確からしさ」に則って交渉や申入れや依頼を行う前提条件は必添となる。

ハナシを戻す。
物流機能を自前企画・規格で制御する自社物流では、時として営業倉庫以上にタイトで無理難題ともいえる物流作法を自らに課していたり強いていたりする。
しかもよくよくヒアリングしてみると、「誰もそんな指示は出していないし、規則というわけでもない」という実態がほとんどを占める。
「ずーっとそうだったから」「そういうものだと思っていた」という空気感染的な思い込み病や何となく病や先例妄信病が現場に居座っているだけ――という結論が出て、聴き取り作業が終わるのは毎度のことでもある。

無理は続かぬものだし、なによりも事故や事件の種となりがちだ。
上述したような平時からの段取りや工夫の素案段階でも構わないので、顧客への相談事としてテーブルの上に載せ、途切れなく会話を続けることが肝心要となる。
顧客や顧客と対面する最前線部隊を巻き込んでの創意や工夫は“押しつけ”や‘’無理強い“や“ご都合主義”といった類の不興や不信とは相反するものである。それどころか、相手によっては好感と信頼を抱く可能性が大いに見込める。少なくともワタクシの経験では相当の確からしさで関係性が良化するし、日日のやり取りが綿密で先回りした内容となってゆく。

わが国において、苛烈さを増すばかりの荒天麻痺ともいえる災害への備えや対応に「停止」「休止」を盛り込むことに異を唱える者はいないはず。
まともな大人なら誰しもが「荒天時に交通麻痺した際には業務停止」と即断するはずだ。強風波浪や暴風雨警報にもかかわらず「出荷どうしようか」などと後ろ髪を引かれる管理者や責任者がいるなら、どうか役職を返上してもらいたい。
責任というものを誤解しているだけでなく、物事の優先順位をわかっていないからだ。
事業体に見舞う天災以上のリスクは、管理者の不適状態や人選錯誤である。

人災の排除を済ませたうえで、天災への備えを論じるのはあたりまえだと思う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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