巨大ファンドの内陸型倉庫建設着工のピークが過ぎようとしている。
おそらく竣工ラッシュを迎える2年後以降には、国内大手ディベロッパー以外の開発案件は激減するはずだ。
あくまで私見だが、そろそろ保管料相場の高止まり幻想が消え去るのだと感じている。
現状の市場環境に一喜一憂することなく、潤沢な資金で長期的展望と計画のもとに粛々と開発を手掛ける国内の旧財閥系をはじめとする数社以外は、実態の賃料相場や空室率の動向を注視しつつ、近づく潮目の変化を探る。
大手が先駆けて着手したスキームに追随する中小事業者が顕在化し始めるとき。
その市場は飽和状態がもたらす相場下落の一途をたどる。
皆が気づいて、参加者が増える様相が明らかになるとき。
それは祭りの終わりを意味している。
一定以上の契約年数を条件にした相応のフリーレント期間適用で、お会計時には水門の外と同じような勘定書きになる「今の相場」という源氏名の水。
相場を支えていた水門が開き、囲みの中から「本当のこと」という本名の水が放出される。
周辺の低湿地に流れ込んだ途端、以前のそれと識別不能となって、現実のオーバーフロアによる相場下落を一気に助長する巨大なエネルギーとして広範囲におよぶ。
身近に漂う新鮮で格安な水を求め、荷主企業は試飲を繰り返しながらじっくり吟味する。
急ぐ必要はない。誰の眼にも買手市場が続くことは明らかだからだ。
既存の古い水の主たちは、もはや安値以外の訴える術をもたない。下げて荷主と会えれば幸いだが、そうならない蔵の主は苦境に追いやられ、長い低迷の時を迎えるのだろう。
傷口に塩を塗り込むようで気が引けるが、保管料相場の下落は新規募集だけにとどまらず、既存のテナントや委託元の事業会社との条件変更にまで及ぶ。
単純に「相場が下がったのだから値下げして欲しい」というものである。床を仕入れて利益を乗せて「保管料」やらサブリースによる「賃料」を飯の種にしている倉庫業や不動産業にはつらい時代となる。
過去に配送料の立替払いによる差益商売をやめた際に、在庫保管料については床原価開示による「保管面積実費+在庫管理及び維持費」のような費用区分で請求するべきと主張していた。当時も今も反応のほとんどが「えぇー?」という驚きながらの拒絶。利益が出ているのにわざわざそれを放棄するなどバカげている、といったところか。
運送業許可を持たない倉庫業者なら、本来は運賃請求の仕訳科目は「立替払い」であるはずなのだが、それを請求額の嵩増しと差益欲しさに「売上」計上していた数年前の業界反応と全く同じだと感じる。
おそらくきっと今回も、事が現実になり、自らに影響が及ぶまでは大多数が考えず・動かずなのだろう。
それでも懲りずに進言する。
相場下落を疑わないのであれば、営業倉庫は一刻も早く差益商売から撤退すべきだ。
今退くことが内部の意思決定で可能なら、拙速のそしりを受けようとも断行する勇を推す。
保管に必要な諸経費は項目を明記して請求するので、赤字になるはずない。何よりも、相場の動きに一喜一憂することから解放される。荷役専念を名実ともに行えることこそ倉庫内業務の本懐ではないのだろうか。積極的な情報開示と明朗な請求項目は、営業的にも有利に働く。
同業他社の動きを横目で視つつ、ギリギリまで粘りたい気持ちはわかる。
しかし元と先となる相手があることなので、こちらの思惑や想定した時間割通りに事が運ばない可能性は大きい。すぐに着手することをおすすめする。
精査すれば、全然もうかっていない保管料の帳簿利益など不要、と気付く倉庫会社が何社あるのだろうか?
「これって、ほんまかいな。坪あたりこんだけしか残らんのか」
再検証した保管料差益に声を失った自身の過去を想いながら書いている。
趣旨を理解できても具体的な手法と進め方に迷いがあるなら、ロジ・ターミナルのサポートで試行錯誤の時間が短縮できることも補足しておく。
営業倉庫は、今まで以上に荷役作業への収益依存度が高くなる。
裏を返せば、入出荷や保管などの荷役に秀でた者には有利な時代となるはずだ。
ここでいう「秀でた」とは、一つ覚えのようにバーコードをペタペタ貼って、WMSの作業エラー抽出機能を作業品質とすり替えることではない。
庫内作業の技術向上や顧客が求める物流品質への対応力を強化する努力や具体策がないなら、今後は安値しか売り物がなくなる。廃業できる余力がある者は、倉庫業をやめて他の商売に鞍替えするほうがよい。
現にそんな事例は近畿圏では珍しくない。
あくまで「だいたいの想像といううわさ話」の域を出ないが、大阪府下で倉庫業を謳う事業主の約60%が赤字だという。自己所有物件での営業倉庫まで含んでのハナシなので、床を仕入れて営業する専業者なら、倉庫営業のみで利益を出すことは現状でもかなり厳しくなっていることがうかがい知れる。
個人的にも純然たる倉庫営業だけの収益なら、半数以上は赤字だろうと常々感じてきたし、運賃値上げによる差益消失が追い打ちをかけた。それに加えての保管料収益の減少は許容限界を超えてしまう。
空き家と空き倉庫の恒常的な大量蔓延は、当面の間は憂うべき社会現象となり、やがて当たり前の光景として根付く。現在、奇異さを伴って好況を謳う東京湾岸部をはじめとする関東圏の倉庫もその例外ではない。
スクラップ・アンド・ビルドとは経済成長場面での能書きであることなど誰もが知っている。発展途上の新興国でもないのにスクラップを伴わないビルドが多数を占め、歯止めや警鐘なく独走してしまった国内の大都市再開発やその周辺部で競うように新築された巨大倉庫群。
一部大資本の「国際競争力強化に必要な都市開発」という、国民生活からかけ離れた高層ビルのCGを遠目に眺めながら足元に目をやれば、少子高齢化と同様に「建たない・壊せない」建築市場の前兆たる小波が静かによせ始めている。
しかし過去と同様、令和になった今でも悪い話は流布しない。(※最下部の空室率説明参照)
住宅にしてもオフィスにしても倉庫にしても、大半は外国資本や多国籍ファンドが特定地域や特定物件に投資しているだけで、その原資は固定される性質のものではない。特に住宅や倉庫については、現在日本にある資金が違う国に差し替えられることは当たり前のように起こる。今の張りぼて好況を真に受けて浮かれることなど厳禁だ。
適正な上限値の視えない配送コストとは対照的に、地域や物件によるムラを伴いながら下落の底が知れない倉庫賃料の相場。選別基準の不明瞭さや妥当な相場観の不定が荷主企業の意思決定に混乱を及ぼす。
開ききった水門は、もう二度と閉まることはない。
そして、にわか作りだった水門自体が朽ちて消滅してしまうだろう。
遠い記憶の残骸として巨大ファンドの建設した大規模倉庫が遺物化してそびえ続ける。
数年後に中を歩く機会があれば、ご自身の眼でお確かめになればよい。
きれいなコンクリートの床や壁が障害物なく見渡せる倉庫建屋の各階を。
ファンドから格安で買い取った蔵の主がもみ手で案内してくれるに違いない。
「空気だけよりはマシだろう」
という背に腹をかえられなかった結果の賃料と最低限の与信基準を懐に忍ばせて。
今すぐ疑似体験をしたいなら、大阪南港でATCやWTC、その他内外ファンド系の既存倉庫を内見すれば、その用は足りる。
多くの倉庫の敷地入口や建屋一階に設置されているテナント名掲示用のサインボードは空白が目立つ。退去済みだったり破綻状態のテナント名がそのまま残置していたりもある。
匿名希望企業が多いだけかもしれないが、「旺盛な需要」の実態はなかなか見つけられない。
夏季以外の日没後も点灯しない階が多いことも併せて記す。
照明が必要な時間には業務終了しているテナントが多いだけなのかもしれない。
嫌味や皮肉を並べているのではない。そうであれば心底安堵するだけだ。
倉庫の稼働率が高いことは何にもまして大切なこと。荷がなければ何も始まらないのだから。
一般住宅を引き合いに出せば、さらにわかりやすいかもしれない。
新しい建物が毎年増え続ける。人が増えないのに住宅が増え続ければ、空き家が増えることは自明であるし、現実にそうなっている。巨大化しているゼネコンや住宅メーカーは「建てる」ことが仕事であり、業績維持のためにはあらゆる方策を講じて需要を作り出さなければならない。空室率の悪化を誰よりも実感しながら、着工数の目標達成を押し通さなければならない。それは業の持つ宿命であるからだ。建てることを止めれば会社の明日はなくなってしまう。少なくても今現在の実情はそうなっている。波はあれど新築の建築物が増え続けることは疑いようがない。
国内の上位20都市ぐらいなら建て替えや土地の所有者変更に伴う再分譲など、相当数の上物の新築化があるだろう。
しかし、往々にして再分譲時には一世帯が複数に増える。元の土地は複数区画に小分けされて分譲されるからだ。したがって、新築契約数の維持には、それに近い空き家数の増加が伴う。
巨大なオフィスビルや倉庫の場合、一棟の新築の床が満たされると同時に、どこかで複数の空き物件が出現する。
床が空いてしまった従前の倉庫はどうなるのだろう?
使用に耐える建物なら、再売却か再賃貸に出されるはず。
内外装にどこまで手を入れるかによって値幅は出るだろうが、以前と同等以下の募集条件になることは間違いないところだと思う。
借主候補も若い企業が多数を占めるようになる。
社歴や与信云々にこだわっているうちは、まだ状況が深刻化していない部類に数えてよい。
賃貸専門の保証会社と契約して、少々のことなら目をつぶる覚悟でテナントを探さなければ、空気保管倉庫のまま月日がどんどん経ってゆく。
借主や買主側には好機到来。
という側面だけではないはず。
「安く買える、借りられる」は地盤沈下の一端であることが明白だからだ。
上昇する労務費用と配送費。
せめてもの救いで倉庫の基本コスト低下、、、必ずしも喜べない。
消費全体の縮小は、コスト各論に先駆けて大波のように企業経営を洗う。
波が引いた後に残るのは塩からい後味の薄利や赤字だ。
まず何よりも、波にさらわれないよう市場の中の確かな柱につかまり、しっかり踏ん張らなければならない。
企業の足下、つまり下半身とは物流に他ならない。
上半身を減量し、細身ながらも筋肉質を維持しなければならないが、下半身は同じように絞り込みながらも柔軟性を維持しつつ、可動域を狭めてはならない。
業態によっては最大の販管費となる物流コスト。
紋切型のコストカット念仏を唱えて荒削りが過ぎると、脚がふらついて企業の歩み自体がおぼつかなくなる。
頭で考え、腕力と腕前で仕事を捌く。
それを支える下半身のありかたを今一度考えていただきたい。
拙ブログの過去記事にもいくつかの提案がある。
読み返していただいても時間の無駄にはならないはずと自負している。
やがて昔話となるまぼろしの水門。
つま先立ちで支えてきた異常水位を相場と謳っていただけの顔の見えない専門家たち。
門の内側に引き籠っていたゆえ、幻想と気付くのが遅れたのだろう。
高すぎた水嵩に浮かべた船は、やっと現実の外海を航行するようになる。
この前まで見えていた宝島は海図から消えているかもしれないが。
【2019.9.17加筆】
各メディアを通じ公表されているオフィス空室率、賃貸倉庫空室率について追記しておく。
詳細はCBREのWEBで公開されているので、ここではオールグレードと命名されている一番外側の根拠だけを記す。
・首都圏・近畿圏・中部圏のオフィス空室率
→ 築11年未満、延床面積1000坪超の賃貸用オフィスビルが調査対象
・首都圏・近畿圏・中部圏の倉庫空室率
→ 延床面積10000坪以上(中部圏は5000坪以上)のマルチテナント型倉庫が調査対象
つまり築11年以上、もしくは延床1000坪以下のオフィスビルは統計に含まれていない。
倉庫についても首都圏や近畿圏では延床10000坪未満の賃貸用物件は統計対象外である。
中小企業のニーズが多い物件の相場動向は別にあるはずで、全体の貸借件数から割り出せば、発表されている統計はごく限られた大企業にしか関わりのない数値であることがわかる。
築15年前後の程度良いオフィスビルは都心の好立地にたくさんあるし、延床900坪で5階建てのオフィスビルは移転先候補の物件として遜色ないとする企業は多いはず。
倉庫にしても同様で、3000坪×3層、延床9000坪の築浅倉庫は中小どころか大企業の物流センターとしても好適である事例は珍しくないだろうし、大多数の中小事業者の倉庫は1000坪以下で十分足りる。
ロジ・ターミナルが向き合っている顧客層のほとんどは、発表される統計対象物件に関わりない企業であるし、拙ブログもそういう企業の方々向けに書いている。
ごく限られた大規模物件とそれを利用できる大企業向けの統計を参考程度にしかしない理由は以上のとおりである。
私の書く「相場」や「動向」は、国内企業の大多数を占める中小零細事業者に向けてのものであることも言い添えておく。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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