物流よもやま話 Blog

あえての「一発勝負」で

カテゴリ: 予測

今年は暑気到来が遅いと感じていた。
というのもつかの間。今週後半あたりから最高気温が一斉に上昇し始めた。またもや真夏日はあたりまえ、35度超の猛暑日と高温多湿な熱帯夜の日々が始まるようだ。
倉庫、運輸の別なく、心身と荷の保全には寒気よりも暑気のほうがより厄介、と思うワタクシなのだが、読者諸氏はいかがお感じになっているのだろうか。

くそ暑い倉庫で働きたい人はいないし、昨今では「辛い」を過ぎて「危ない」環境下での作業も珍しくない。送風機増設や給水休憩の頻度をあげたり、と現場での工夫や努力には頭が下がるが、誰しもが望む「空調機で涼しくする」ためのコストは今や多くの企業で現実味がなくなりつつある。

それでも無理に無理を重ねて法外とも感じる設備や光熱費を受容したら、人件費の上昇に対応できなくなって、人が居つかなくなるという本末転倒の悲劇的喜劇は容易に予測できるので、結局何も変わらぬまま今年も気合と用心で夏場を乗り切る羽目に。設備投資の代わりに冷感素材の作業着やタオル、それからお茶や水の無償配布など、苦心している事業者は多い。
運営者が営業倉庫なら一定以上のコスト増は荷主に転嫁せざるを得ないわけだが、運賃や資材費も値上ラッシュの負担を呑んでもらったばかり。さらなる「ご理解とご高配」はなかなか言い出しづらく、空調機などの暑気・寒気対策のコスト負担に類する申し出自体が「正当な事由による合理的な内容」なのかに自信が持てぬ、、、はよく聞くハナシだ。

自社物流にしても、世間体的ノルマの感が強い「積極的賃上げ」と表裏一体で「有無を言わせぬ経費削減」「人材能力の再評価による報酬見直し」「部課長職の考課基準変更」などがクロスカウンターのごとく乱打されているなかで、「庫内空調の新設に数千万、、、ちょと広かったり天井が高かったりなら億超えはあたりまえ」の稟議は腰が引けるし、付帯事項として電気料金を試算してみたら、びっくりするような額ではないか、、、つまり、現実味ゼロだと思う責任者殿が大勢を占めるはずだ。

というハナシをしたかったわけではない。

「入荷検収と出荷検品はそれぞれ一発勝負で終わらせる」
というのを一昨年あたりから関与先とともにずーっと考えているのだが、どうやらまとまりそうな気配である。
「さよならWMS」も同時に検証してきたのだが、これもうまくいきそうなのだ。

カスタマイズが過ぎて奇形化してしまった倉庫管理システムをどう改廃すればよいのか、という命題への取り組みかたを相談されたのがことの始まりだった。
作業手順の独自要素(改変不可が前提)と、在庫区分や出荷種別への細やかな対応をシステム依存し過ぎたために招いた冗長で多階層な情報処理手順とそれに隷属している作業。
読者諸氏お察しのとおり、WMSがヘンテコリンになる原因の多くは上位システムや販売場面にある。なので単純に物流部門内だけで解決できるものではない、というのが常だ。

個々の機能を設けた際の「原因」「理由」を聴きとれば、どこにも悪者や愚者は存在せず、顧客要望を叶えるために「なんとかできないか」をシステム部門に投げかけ、泣きつかれたSEは頑張ってなんとかしてしまった――カスタマイズを請け負ったWMS屋がもう少し現場を知っているなら、「それをやると現場が困りますよ」と助言ぐらいはしたはずなのだが、高い費用を見積もって商売優先――が生々しい残骸と化して、今日も物流倉庫内でよたよたノロノロ這いまわっている。
ワタクシの所見は「これをさらにいじって改善するより、入替えたほうが安くて早くてうまくなる」だった。他のシステム事業者数社(WMS業者ではない)も同じ意見。
そもそもがWMSに重きを置いて仕事すること自体が「好ましくない」「業務の足腰が脆弱」と評される。作業手順の簡素化や引算の励行を徹底すれば、WMSが担う機能はわずかしかなくなり、システム依存の状態は解消される。

「誤出荷や在庫差異は絶対悪」への過度な傾倒やゼロ乞食病は得てしてWMS依存と同居している。WMSを不可欠なモノとする意識自体が不健全なのだということに気付くべきだ。
関与先やその手のセミナーでよくするハナシなのだが「物流機能は潔癖で透明で澱みも濁りもミスも許されない」などという理屈自体が異常であるし、そんな会社は滑稽で奇妙。
たとえば、営業部門は誤見積や誤請求や誤出張・誤訪問をちょいちょいしているし、人事は誤面接・誤採用や誤評価、経理なら誤仕訳や誤計算や残高差異、、、のように全部門でミスや間違いは結構ある。なのに突然「物流部門は誤出荷ゼロで在庫差異もゼロでルール無視などもゼロ」などと掲げるのは奇異でしかない。
事業の下半身たる物流機能と上半身たる諸機能がまるで別人の組み合わせような異形の相としか映らぬアンバランスさを、他者の視点で思い浮かべてみてはいかがだろうか。

蛇足だが、経営層以下全部門で「ミスや間違いがあってはならぬ」と一斉唱和するのは道徳的常態である。社長が「ぶっちゃけちゃうと、経理で小口残高がしばしば足らんことや、物流で在庫が合わんのはあたりまえなんだなこれが」とオフィシャルでいうことはまずない。腹の中は知らんが、役員以下全管理職も「御意にございまする」とかしこまって承るのだ。
なので、ずーっと「この度はこのようなミスを、、、」という顛末書や始末書の末尾には「今後は制度の見直しとチェック機能の精密化を…」みたいな〆が付されているが、皆無になったというハナシはきいたことがない。

ウゲノヒトコトとタヌマコイシキを引き合いに出すのはちょっと違うかもしれないが、人間が働く場所では多少の弛さや濁りは必要悪として認められて然りだと思っている。
一定以下の在庫差異は原因や理由が判明すればそれでよいし、目くじら立てて解消→徹底的に監視、などというしんどいことはやめておくほうがよい。どうやっても不可抗力的な誤差やミスは発生する。そこを否定して「いいや、わが社では絶対認めない」とエライお方が吠えれば、部下の面々はミスを報告しなくなる。つまり隠ぺいや偽装や虚飾が横行するので、ほんとうのことがわかりにくくなってゆく。いつからか事後修正や粉飾による「きれいな数字」を並べるのがお約束となり、その積み重ねがある日突然、些細な出来事で瓦解する。
がれきの山を掘りかえしてみれば、大昔から上重ねされた「嘘と誤魔化しの積層」が姿を見せる、、、という現実を何度目にしてきたことか。

やっちまいました、を即座にあるがまま報告して、原因解明と善後策等の手当てをすれば、擦り傷や軽い打撲ぐらいで済んだはずなのに、隠してしまったがために大手術が必要になったり、すでに手の施しようがない状態になっている、は特段珍しいことはない。

というハナシをしたかったわけでもないのだった。

ここまで読んでいただいた読者諸氏には心からお詫び申し上げる。
全部端折って本筋のハナシをすれば、RFIDによってそこそこの成果が見込めるようになりました。巷にある導入事例よりも少し進んだ内容になっています」が骨子となる。
ICタグと感知装置のコストは、得られる効果に見合うものである。何よりも多面的な現場ストレスが大いに解消できるはずだ。
素人が玄人並みの結果を出せる、とはならぬかもしれないが、事業者によってはそれに近い感想を抱くかもしれない。
この件、関与先の許可のうえで図解を交えて公開したいと思っている。もちろん実名公開するし、現場見学も受け付けてもらおうと思う。(すでに概ね内諾済みである)
まずは完成を目指して励みたい。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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