物流よもやま話 Blog

たとえば物流倉庫で

カテゴリ: 経営

過去に何度も記しているとおり、国内の倉庫床面積は完全に余剰状態となっている。
ごく限られた一握のプレイヤーたちが掲げる次世代型新設倉庫への需要。
ほとんどの事業者や生活者の日常感覚からはかけ離れた「順調な着工・竣工と好況な契約進捗」が次々と発表されている。

その類のプレスリリースの字面だけを追えば、「異様」「違和感」が先立つばかりだが、少し掘り下げれば説明がつくことも記しておきたい。
「順調」や「好況」と表現されている局部的現象の内実は単純な集約や移転がほとんどで、その理由は効率化や合理化や機能性向上という事業強化に他ならない。
つまり、「3か所に分散して合計20000㎡」だった総面積が「集約後に単独15000㎡」になり、総人員数が70%で済むようになり、在庫圧縮やマテハンの減数化も行える。
集約前の3か所合計20000㎡は空き倉庫となり、同一域内か他地域の別はあれど30%の雇用が失われることに変わりない。

空き物件がすべて再利用不可状態ならば、取り壊して次の利用方法を考える可能性もあろう。
しかしながら中堅以上の企業の場合、そのほとんどが賃借・保有の別を問わず「まだ十分に使用可能」な状態のまま、新拠点に移転する。
したがって、事後には高確率で「空き物件」が出現することになる。
雇用についても倉庫建屋の状況と同様に「まだ十分に働けるし、働かねばならない」余剰人員が発生する。

中小企業なら物流拠点の集約は間違いなく善だ。体質強化の有効策として推薦する。
しかし前段の内容が当てはまるのは、ほとんどが中小よりも中堅以上の経営規模をもつ企業群だろう。拠点改廃の規模が中小とは比較にならないはずだ。
地域によっては重要な雇用が失われ、自治体運営にまで影響する事態も想定される。

俗にいう「企業城下町」の小型版が国内の地方部には無数に存在している。工場や物流倉庫の移転・廃止は住民生活および自治体運営にとって死活問題化することが珍しくない。
事業所の消失によって、地域の在勤・在住双方の人口流出と雇用不足による家計収入の減少が発生する。その結果として、消費低迷が招く近隣商業施設の不採算化による撤退や閉鎖が追い打ちをかけるように見舞う。
働く場を失い、生活物資の入手が不自由になる。
つまり地域としての活性が損なわれ、悪化すれば存続の危機にまで及びかねない。
そうなれば、行政が乗り出して何らかの策を講じなければならないことは自明だろう。

だが、必ずしも向かい風が吹くばかりともいえない。
「今までの稼働実績」が存在し、善後策を講じる際には非常に心強い寄る辺となるからだ。
倉庫立地の要件を申し分なく満たし、機能を維持できるだけの雇用も存在している。
つまりは場所と人の問題はクリアしている。それは新設倉庫や工場に比べて大きなアドバンテージとなる。
中身が決まればすぐに稼働可能であり、それを待ち望む地域の意向も強い。
だからこそ「次」の運営の中身が大事になる。

今後は地域振興や住民生活維持のために、空き倉庫を自治体が借りたり購入して、テナント誘致の主体となるという案も検討に値すると考えている。
「そんなことは自治体の業務ではない」などという石頭は禁物。
まずは他力本願と放置看過が生んだ青色吐息状態の数多い事例を見聞きするべきだ。
自治体の事業収益は、自立した財政維持や増加のためにも不可欠になるだろうし、プランによっては秀でて有効となる可能性が高い。
前向きにお考えいただきたいと切望する次第だ。

物流倉庫の本分は「物品の保管と入出荷」である。
付帯して周辺環境への配慮や寄与、地域雇用の創出などがある。
さらに加えて、

・自治体の収益事業
・地域の災害対策(CCM:Community Continuity Management)

を担う機能の追加を提案している。

物流倉庫が災害時の地域機能継続に大きく寄与する拠点のひとつとなる。
さらには民間企業・自治体双方の事業拠点であると同時に地域としての物流機能を担う場所になれば申し分ない。
それだけにとどまらず、今まで分散していたり単独で手当てできなかった施設や機能を建屋内か敷地内に併設すればよいと考えている。
物流倉庫の複合施設化と書けば理解いただけるだろうか。

地域施設を単純なコストセンターではなく、収益事業として自治体が運営する。
もちろん民間の協力は不可欠だが、NPOや特殊団体を経由する丸投げ型の利権副産は厳禁だ。
地域事業者の従業員向け共同社食や託児所や多目的ホールなど、現在はどの自治体でも赤字運営が常となっている機能。それらを可能な限り複合化することで一気に収益化する試みは、検討する価値がおおいにあると考えている。
個別事情にそった具体案が必要なら、弊社にお問い合わせいただければよいかと思う。

働く場がある・働きやすい・働きたくなる。
住む場がある・住みやすい・住みたくなる。

一人の人間が同じ言葉を想ったり、同じ感情を抱く。
それに確かな信念を持てるなら、自治体は自前の事業を創出するべきだ。
その材料は足下にあるかもしれない。
それを求める住民や、好ましく魅力に感じる転入希望者は数多いかもしれない。
そんな自治体に事業所を開設することに前向きな企業があるかもしれない。

本気で考え始めることは今すぐできるはずだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム