業務改善の基本計画や実施具体のロードマップが策定できたら、次は「わが社の物流業務の事業価値」を試算し、総合的な評価を付する。
この際に現状の物流形態が内製か委託かは影響しない。
毎度の自論で恐縮だが「自社物流≒自前物流:物流業務の自社設計と原価企画」を維持することが事業会社の物流戦略の核心と考えている。
なので運営態様は委託でも内製でも支障ないと判ずる次第だ。
例えて挙げるなら、自社名もしくは自社ブランドを冠する製造業にとって、自社工場か委託なのかは製品優劣決定の要件ではない――肝心なのは自社の規格・意匠でものづくりをしていること――と同じく、物流業務なら工場を倉庫に置き換えればよいだけだ。
業種や規模を問わず、現状が「完全内製」「内製+委託」「完全外部委託」のいずれであっても、自社の物流業務の原価設計と事業価値の試算は必ずおこなってほしい。
なぜならいかなる物流態様であっても、自社の物流業務の原価はひとつしかないからだ。試算すらしないまま利益管理や事業推進しているのだとしたら、それが何を意味しているのか考えていただきたい。
この手のハナシに必添すべきは以下のとおりである。
内製型自社物流を運営する企業が「物流関連コストの合算額=自社物流業務の原価」としてよいのは経理や経営企画的視点においてのみである。
物流部門では「現象や結果」を「解」と同一視してはならないはずだが、読者諸氏はいかがお考えになるだろうか。そして貴社のコスト評価はどのように運用されているのだろうか。
(外部委託なら「支払総額=物流コスト」という認識への疑念を指している)
物流部門がなすべき試算とは「設計原価はいくらなのか」である。業務ミスゼロと同じく実コストとの乖離ゼロを永遠に目指す、があるべき姿なのだ。
「物流部門の当期予算は対前年比●%減と設定し、コスト削減で事業寄与すべく鋭意努力いたします」は万人にわかりいいかもしれないが、根拠は前年度や一昨年度との相対評価でしかなく、原価企画的な算定作法から導かれた解との差異が気がかりだ。
現状では相対算出以外の手法が採れぬなら、せめて移動平均だけは作成してほしい。短期・中期・長期の三種類の移動平均が示唆する傾向は有用だからだ。
そもそも物流業務の設計原価など考えたことがない――が最多層になるのはアンケート調査をするまでもなさそうだし、事実その状態で長年経営してきたことも承知している。
なのでひちめんどうくさい「正しい物流原価」のハナシなど余計な手間でしかなく、それがどう有用なのか?にまで会話が深まらぬのも理解できる。
確かに設計原価の試算は電卓と結果検証の繰り返しである。
しかも、人件費などの発生コスト側、各業務に本来必要な総労働時間側の双方から試算を行い、二つのアプローチが合致もしくは近似値となるように考察検証せねばならぬ。
煩雑この上ないわけだが、二方向からの相互検算的な手法を用いることで、偏りや錯誤を回避できる。なによりも自社固有の基準値として信用できる。
試算項目などの「目次」ができあがれば、あとはひたすらに計算するのだが、慣れぬ方々には面倒で冗長でしかないだろう。数多い試算経験のあるワタクシでも毎度気が重い、、、ワタクシについては「大前提としてナマケモノ」であるゆえ、あまり参考にはならない。
試算方法の詳細については事業者ごとに設定が必要なので、ここでは深掘りしない。
重要なのは、内製・内製+委託・完全委託のいずれにしても、設計原価は同じということだ。
内製・委託の別なく、設計原価と運営原価の乖離が少ない方が好ましいわけだが、完全な外部委託の場合、その乖離はとても大きいのが実態である。「自社でやるより委託した方が上手くて廉い」は、もはや昔話でしかない。もし今でも委託至上主義に囚われたまま、内部外部の意見や進言に耳を貸そうとしない経営者がいるなら、はやく石頭妄想から解脱して欲しい。
解脱方法は極めて単純である。上記のとおり原価設計して試算すればよいだけだ。そのうえで委託先に支払っているコストをどう評価するのかを考えればよい。
すでにお気付きの読者も多いかと思うが、原価企画ができた段階で、自社物流の事業価値にまつわるいくつかの試算ができる。(企業によっては楽しい結果が出るはず)
わかりいい例えとしては「自社物流部門が営業倉庫として独立したら」を前提条件に置くケースだ。そして親会社たる本社機能から完全に分離独立する場合、仮にどこかに身売りするならばいくらで売ればよいのか。身売りなどせずとも、世間一般の営業倉庫のようにしかるべき利益を乗せて寄託業務を始めたら、いかほどの収益が見込めるのか、などでもよい。
自社物流が独立した営業倉庫登録の物流会社には、かつての同業界や異業種からの引き合いが集まる可能性大である。現実にそういう物流会社は少なくない。
物流子会社ながらも親会社への依存度を低く保つ――が「今後のアタリマエ」となる。だとしたら、まずは経営原価と営業原価の算定式を規定し、一定以上の営業利益率を維持しつつも競争力のある売価設定が不可欠となるだろうし、今から下準備にとりかかっても早すぎるということはない。予想や予測を書いているのではなく、現在の実態を踏まえて述べている。
事業譲渡時のデューデリジェンスのような精密で多岐にわたる中身は必要ないまでも、経営原価と予定収益の自前設計に基づいた高品質・高収益率な事業に対する評価は高いはず。
事業会社は生き残りをかけて「まずは今までの自社と戦う」ことから始めている。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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