物流よもやま話 Blog

今月はEC物流特集 ‘ それぞれの3社 ’

カテゴリ: 経営

毎度毎度の私見・私感だが、EC企業の物流に対する価値観は3パターンに大別できる。
あくまでざっくりと区分しているので、足らずやはみだしが多々あることは承知している。
委託と内製の違いはあっても、物流に対する根本的な考え方や捉え方は、普段の言動の積み重ねから隠しようがない。その企業経営者の本音や企業体質が如実に表れるため、顧客との向きあい方も裸の状態でわかってしまう。
物流は顧客対応の実態を映す歪みのない鏡なのだと言える。

大別の3パターンは以下のとおり。

1) 物流は単なるコスト。こだわりや差別化は無用。普通に備わっていればよいという企業
2) 物流は重要と認識しているが、自社でやる気はない。委託するのがアタリマエという企業
3) 物流までこだわって顧客サービスしたい。今は委託しているがいずれは自社でという企業

もちろんだが、現実の企業経営の志向・施策・行動はもっと細かく多岐にわたる。
記事の構成上やや乱暴に分類しているので、その点はご理解願いたい。
以下は上記3パターンに該当する実在企業のハナシ。
(特定できぬように取扱品や諸要素は変えましたが、本質的なところはそのままです)
その3社をA社、B社、C社、とする。

【 A社の場合 】
靴と鞄、その他皮革製品の専門店。
起業以来、格安販売で成り上がってきた。
他社のヒット商品や雑誌やWEBで売れているブランド品などのデザインをコピーして、類似品を安く販売することで売上は増え続けた。
サイズ違いやカラー・風合等の「思っていたのと違う」に類する返品は絶対に受け付けない。
購入者都合の交換品なら、返送・再発送料金は全額負担してもらうし、交換処理の倉庫作業料と付帯する事務手数料も請求する。
倉庫費用は安ければ安いほど好ましい。多少のミスは気にならない。
誤出荷した場合は、交換にかかる全費用を倉庫が負担すればよいし、返品になったなら売価で補償してもらえばいい。
ミスやトラブルは倉庫側で全部処理してコスト負担。経緯と結果の報告だけで可。
自社の業務に影響が出ないなら、それでかまわない。
受注後の発送経費は極限まで低く抑える。
注文品が届けばよい。
安いコストで最短時間の発送ができればよい。

【 B社の場合 】
起業当初は生活雑貨販売だったが、途中から切り替えてレディスアパレルの専門店にした。
「もっと儲かりそう」がその理由。
WEBも全く別物に替えて、サイトイメージもサービス対応も先行他社に劣らぬ内容にした。
楽天などの上位サイトを徹底的に分析し、同等もしくはそれ以上の価格設定とカスタマーサービスを用意。
広告とクーポン、限定セール、リピート特価。「売る」ためには何でもする。
その一つに物流も含まれる。
先行する他社に劣らぬ物流サービスを提供したい。
でないと競合できないし、さらには抜き去って上に行けない。
内容には全くこだわらない。コスト抑制の要望以外は一切干渉するつもりはない。委託倉庫との窓口も商品担当もしくは店舗担当が兼任し、依頼事やコストの見直し申し入れの時は代表者が直接交渉する。逆に、物流会社からの要望をまともに聴く気はない。
「こちらのいうとおりにやってくれる」が大前提であり、パートナーだとは思っていない。
通じないなら倉庫を変更するだけだ。

【 C社の場合 】
キッズアパレルで創業10余年。
今は仕入れ品が半数弱を占めるが不本意極まりない。できる限り短期間でOEM比率を上げて、いずれは正統派のSPAになることが目標。実店舗の展開も視野に入っている。
顧客の囲い込みと購入単価・購入頻度上昇が最大の経営課題。再来率アップと維持、頻繁なメールマガジン、飽きさせないイベント頻度、などの施策に注力している。
物流に関しても専門店としての水準を維持したい。
ECのスピードと商品展開力を活かしつつ、店舗購入と遜色ないかそれ以上の満足を感じさせるためには、求める日時に求める商品が丁寧できれいな梱包で届くことが必須条件。
近い将来には自社倉庫で物流センターを運営する予定。
現在の委託先倉庫のノウハウも吸収して、それ以上の物流スキルを社内に備えたい。
倉庫内の業務にも現在以上にこだわりたいことが多数ある。
他社が真似できないような物流機能の充実は差別化に必要と考えている。

 

企業の生き方にはそれぞれの道がある。
それに優劣を付ける立場ではない。
私が好ましいと感じても、報われない企業もあるだろう。
逆のパターンも多いはず。
どの道を歩む企業がどんな「今」を迎えているのかは知りようがない。
しかし、顧客の動向を分析し「次」を考え続ける企業は存えると思う。
その売り方がディスカウントや類似品販売やオリジナル性の強い個性的商品のいずれかでも。

より多様化し細分化するEC市場。
配送形態も同じように、枝分かれをしながら拡がる。
他方で、庫内業務は簡易化・平準化の一途をたどる。
配送料と労務コストはどの企業でも一様に重い負担となる。物流を外部委託しているなら、実額に上乗せされた利益コストの負担まで含めて請求されているはずなので、より重い。
EC市場の拡大と成熟が進めば進むほど、消費者の選別する基準や意識は高まる。画面上で至れり尽くせりのコンテンツ展開しているショップは、配送完了までその顧客マインドを裏切らない用心深さが必要となる。物流という仕上げを抜かりなく用意することが「次」につながる顧客の心理的なくさびとなるはず。

物流機能に対する意識は問わないが、「ちゃんと届けなければならない」という最低ラインだけは守っていただきたい。
「ちゃんと」の中身がどうであるのかは企業によって違いがあるだろうが、買ったものが丁寧な梱包で予定どおりに届くということがかなっているなら嬉しい。
これからは「すごい」や「りっぱ」や「すばらしい」よりも「ふつう」「まあまあ」「あまり印象にない」などの感想が続くように配送品質を維持すべきだと考えている。
無個性で無害で無意識に見過ごしてしまうほど平凡。受領者のそんな印象が好ましい。
不満がない品質を目指すのであれば、コストや手間のかけ方が変わる。
ないがしろにするのではなく、手抜きでもない。
過剰でもなく不足でもない「これぐらい」が理想ではないかと思う。

それぞれのEC企業。それぞれの物流業務。
それぞれの理念と意識と将来。
ECだからといって特別扱いする必要などない。
「それぞれ」の生き方に評論は無用と弁えている。
そして、今からの未来にこの国の消費がどのような形態を主として進むのかは、私の浅慮が及ぶところではない。
しかし、物販という大きな括りの中では物流が必ず存在する。
どのような売り方をしようとも、どのような商品であっても、どのような場所であっても。

物流は販売の事後処理や付加業務ではなく、最終仕上げであったり、機能連結の要所。
事業者の皆様にはその点を今一度ご確認いただきたいと心から願う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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