能登半島地震のその後についての報道が激減しているように感じる。インフラの復旧に次いで教育と労働の場の再開こそが再稼働の第一と思う次第だが、どうなのだろうか。
物流機能も少しづつ回復してきたと聞く。生活雑貨や生鮮品はもちろん必需だが、親戚や知友人からの手紙や荷物が滞りなく手許に届くようになればよいと願う。
先日国交省が発表した「自動物流道路に関する検討会」については、自動車以外への振り替えなどを組み合わせるような別案と横並びで比較検討できるような広報を望みたい。
国内労働人口の減少による各業界での人手不足は不可避の事実。
大変だぁ~、と大騒ぎして、いかにも省人・無人を可能にしてくれそうな気配漂う機械化や自動化を推進しようとしている主体はいったい誰なのかがよくわからん。
先導するのは国交省なのか?厚労省なのか?やっぱり内閣府なのか?
先導者にぶら下がって扇動しているのは毎度の面々なのか?
どこの誰が何をしようともかまわないが、いずれにしても官民あげての大プロジェクトというにはあまりにも場当たりすぎだろう。対症療法の典型である「咳に咳止め薬」的なやっつけ方策やらノストラダムス的悲観論ばかりでうんざりしている。いや、ちゃんとした自然治癒力があるなら、とりあえず咳止め薬でもいいとは思うのだけれど。
少なくともこの先20年間ぐらいは加速度的に人口減少が進むわが国で消費縮小しないわけがない。なので物販も減じること必至であり、かつ物品の購買から受領までの時間に対する飢えや待望感が今以上に減る。すでにあれこれと持っているので、飢餓状態さながらの物欲は稀。
無理して買わずとも、無いなら無いで済む、はごく普通の感覚だ。
そして今後のわが国では平均可処分所得はよくて横這い多くは減少。しかしながら可処分時間は増える傾向となるはず、、、が別角度からの根拠。
ゆえに近未来においては特別料金扱いの「即日」「翌日」の配達ではなく、翌々日以降の「通常配達」を選択して余分な出費を避けるのが生活者の標準となりそうだ。
つまり倉庫内作業や運送便にかかわる人数が減少しても、仕事量自体が減り、時間猶予が今以上に認められるので、なんとかこなせるようになる。というのが私の予想。
それから荷主企業は無為無策のままではないことも念のため書いておく。
各事業者にとっての往路・復路のいずれか、もしくは両方で混載や共同配送の手当てがいっそう弾力化しつつ一般化する。なので運行車両数の倹約と同時にコスト圧縮が叶う。
――のようなハナシを関与先企業には時間をかけていくつかの切り口で説明してきた。なので私の周辺には過剰な切迫感や危機感はない。労働人口減少への対応についても、現場の雇用維持・新規採用の方針は一昨年度内に決定しており、すでに運用開始して久しい。試験的ながらもその中には自社便のドライバー職募集も含まれている。
関与先でよくするハナシでもあるが、そもそも誰が「今よりも物流所用時間が長くなるのは悪である」と強弁しているのかが不明である。少なくとも消費者一般の声ではなく、荷主企業の社是や事業推進上の必達項目でもなさそうなのだが、物流危機コワイコワイ噺はどこのどなた様が言いだして言い続けているのか不思議この上ないのだ。
生産者、販売者、消費者が「品物が生産されて手元に届く時間や日数は今よりも一日か二日ほど多く必要になります」の大前提を理解して許容・受容すればよいだけだ。
最も必要な事項は最終消費者の「理解と許容」であり、それを得るにあたり設備投資や公共財の改修や増強は必要ない。
強いて挙げれば「わが国が老成国として存えるために、欲せずば足りるを知らねばならない」という現実を包み隠さず説明して啓蒙するための政府広報ぐらいか。
上述した「自動物流道路」にしても、趣旨としては大変結構だと思う。
だだし、既存高速や幹線道路に維持管理と改修以外の巨額費用を新規に投じずとも、既存の別種インフラを物流に転用すればよい。そんな意見が公に出ないのは不思議だ。
中長距離便のトラックドライバーが足らぬから自動走行車両を新設の専用道路で往来させればよい、という理屈は、運送業界に居座る劣悪労働環境の改善による雇用維持・促進に見切りをつけると同意となる。つまり2024問題を謳う段階で抜本的な解決など無理筋と判りきっていたこと――「国内の労働人口が減少の一途でも、トラックドライバーの数を維持か増加させる」という四方八方からの掛け声は潰える。過酷な労働条件下で輸送を支え続けたドライバーたちが自動走行車と専用道路に取って代わられお役御免、も致し方ないというわけだ。
体質改善ができない業界のなれの果ては寒々しいものになりそうだ。
以下は何本かの過去記事の主旨を取りまとめて要約した内容。「またそのハナシか」と食傷気味な古い読者諸氏にはお詫び申し上げる。
雇用促進・労務改善・待遇向上を謳ってはいるが、その原資たる売上増加に必要な荷主への説明と条件交渉、新規顧客開拓にハナシが及ぶと「できない」「難しい」と即答。
「できない」は「やらない」と同じなのだと解っているのだろうか。
他業界なら「できない説明やそれらしい御託を並べる前に地道な営業活動に汗をかいたらどうか。嘆いたり悩んだり諦めたりするのはそれからだ」と突き放されて当然である。
仕事を得るための基本行動ができていないのだから、今回の一連に限らず、荷主企業がまともに対峙しないのはあたりまえだ。ちなみに普段から営業活動を怠らない運送会社や倉庫会社のほとんどはとっくに条件改定を認められている。
つまりなるべくしてしかるべき結果が出ているに過ぎない。
このハナシはさんざん書いてきたので、ここで切り上げる。
3年ほど前に他所で「そしてリニアへ」という短いコラムを書いた。
新幹線からリニアへの更なる旅客高速化を見直し、トラック輸送に変わる物流幹線としてリニアを転用してはどうか――というのが骨子なのだが、実はそのコラム以前には減音車輪装着の新幹線貨物車両を開発製造し、減速運行によって夜間操業させる、という提案をしていた。
しかしながら新幹線の貨物転用には夜間騒音以外にも、
「既存線路では貨物車両走行時の耐荷重不足」
「既存駅接続の貨物ターミナル新設は実現性に乏しい」
などの障壁があって難しいと判明。
ならば短時間を是とする旅客については、在来特急と新幹線と国内空路に委ね、現在完成間近ながらも不定要素も垣間見え、国民利益の具体がイマイチ視えてこないリニアモーターカーを物流大動脈として転用することで数多い問題が解決できる。
ここで間違いなくツッコミが入りそうなのは、
「いやいや夢の高速移動ビークルたるリニアモーターカーは、技術大国ニッポンに相応しい観光資源として唯一無二。移動高速化は旅行需要の喚起拡大に寄与すること必至だ」
という指摘である。
つまりは国の観光産業戦略との整合性が課題となるが、これこそが政治の出番である。
少子高齢化のわが国で暮らし続ける国民の利益、観光大国を目指す国の利益。必ずしも同一視できないそれらの折り合いをつける役割は政治が担うべきところだろう。
近年めざましく進化を遂げた在来特急や新幹線、中小型機体の地方空港増便の空路、などですでに充分に速いと思うが、あくまで個人の感想なので小声でブツブツ言うにとどめる。
ついでに書いておくが、リニアモーターカーを貨物利用するなら、内装や設備面で旅客よりも制限やコストが少なく済むのでは、という素人考えなども浮かぶ。
開業時には時速500㎞超から始まり、ゆくゆく700㎞ぐらいまで上げる、というドエライ高速移動が人体に及ぼす影響への不安なども無用になる。基本設計は無人運行なのだから当然であるし、夜間走行についてまとう騒音問題が新幹線に比して激減するという利点は魅力だ。
もしも24時間365日、リニアビークルによる貨物運送ができるなら、最高速はほどほどに抑えて連結車両数を増やし、製造を低コスト化できる仕様の車両こそが実用的である。
ただし、既存の運送会社の相当数は現状スタイルの仕事が大量に減る。中長距離の幹線運送便は需要が縮小するだろう。一昔前からずーっと人員が不足したまま高齢化が追い打ちをかける中長距離の大型トラックが担っている路線の過半以上はリニア路線がまかなえるので、リニアの各地ターミナルからは中型小型車両による接続で物流網は維持できるはずだ。
毎度の素案だが、国内各ブロックの一次拠点(上記のリニアターミナルの類)に続く物流機能については各自治体が域内配達業務を内製化すればよいと考えている。
いきなり全部が全部は無理にしても、地域の雇用創出には大きく寄与するはずだし、生活物資の配布手段を自前化できる。何よりも外部者へ支払っていたコストが域内で回る。
なので一石多鳥の効果を目論むことができるし、その先には…
と、さらに始まりそうなので今回はこれにて。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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