「空前の売手市場」
「新卒者の奪い合いが激化」
「中小企業には厳しい若年層の人材確保」
最近よく目にする記事の見出しだが、俗にいうバブル世代にあたる私には新鮮味が少ない。
事業好調・業容拡大に起因する旺盛な採用ニーズではないところが過去と違う点だろう。
少子化と職業選好の偏り、定着率の悪化による企業内人口動態の奇形化が主因とされているらしいが、そもそも従来のピラミッド型組織を「普通」「理想」とするスタート地点が間違えているのでは?と疑っている。
個人生活や労働の価値観が変遷するのは今に始まったことではない。
昨今はやりの異常気象という言葉同様、過去の平均を普通とか平常などと表現するのはあまりに安直ではないだろうか。
全体平均に近づく努力がどのような成果や満足、歓びや幸福を約すのかを言えないのなら、メディアや評論家は黙して考えるところからやり直したほうがいい。自らが理解できないことや未経験である事象を「異常」と括ることこそが、若者達には迷惑で無益な「異常」と感じる最たるものかもしれない。
非正規雇用という言葉が遺物化しつつある現在、対語である正規雇用の人員確保に躍起となっている企業動向を指しての冒頭に並べた言葉なのだろう。
すぐ辞めてしまう新卒者確保に過剰な投資や注力をして、実際には会社の現場や事務を支えている非正規と言われる契約、パート・アルバイトの従業員には最低限のケアしかしない。
なんていうのは珍しくないことだ。
たとえば、法律が変わったから仕方なく有給や最低基準の賞与相当額を支給し始め、最低賃金が改定されれば、上昇分の一の位を切り上げた何十円分かを上乗せして「昇給」と通知する。
全部が全部そうとは思わないが、物流現場では決して少なくはない。
現場スタッフの賃金はコンプライアンスと近隣他社への労働力流出防止のためというネガティブな理由で微増する。
新規採用条件の他社比較により、募集単価が上がった場合も、それに引きずられて既存スタッフの条件見直しがなされる。競合や法律などの外部要因がなければ、年次もしくは半期査定の結果、お決まりの横這いもしくは10円アップが繰り返されるのみなのだろう。
では、そんな物流現場を管理する立場の正規雇用者、つまり「正社員」の採用はどうだろう。
全部とは断言できないが、物流会社以外で新卒者が物流部門を希望したり、会社が採用のプロモーション素材に倉庫や配送業務を前面に押し出すケースは稀。
というより皆無としたほうが妥当だろう。
最初に配属するケースはあるが、ほとんどがジョブ・ローテーションの一環だったり、通販などの業態に限定される。
なので、内部者で満たせない物流部門の正社員募集は中途採用が最多となる。
広告には一定の社会経験か前職時の職務経歴に直接もしくは隣接する業務がある人材をターゲットとして訴求文章がつづられている。
お決まりの「未経験者歓迎」が太字表記されていても、肝心の求職者側に物流部門を希望する人材数が極めて少ない。
どの企業の応募者一覧を見ても、物流会社からの転職希望者が少なからず含まれることが常となっている。それ自体は何ら問題ないし、どのような経歴であれ、自社の物流業務の改善や強化に寄与する人材であればいい。
と、直近一年ぐらいに掲載された一般事業会社の正社員と非正規それぞれの求人広告を見たうえで書いている。途中から数えるのを止めてしまったが、たぶん30社ぐらいだと思う。
物流会社の求人も同様に眺めてみたが、以前にまして採用環境が厳しくなっていること明らかで、途中から何度かため息を吐きながら口をへの字に戻して読み続けた。
あくまで個人的な好みに過ぎないが、物流部門の求人広告の訴求点を考えてみた。
・熱意や直感やスピードよりも観察と集計と分析のほうが重視される職種
・瞬発や機敏よりも定常で正確であることが優先
・営業や仕入や開発部門の経験者ならなお好適
・単調・反復のルーティンから変化や変調の兆しを見つけ出す業務
・企業の下半身。歩む・走る・跳ぶ・止る・蹴るなどの機能管理
物流部門以外での実績のある人材に好適な仕事だということはとりわけ強調したい。軽薄短小な業務フローを設計・実行するためには重厚長大の一面を持つ多彩な職務経験が役に立つ。
他部門の言葉と行動が理解できる人材こそ、物流のプロフェッショナルとして企業内専門職の名にふさわしい処遇を受ける資格がある。
のように強く訴えかけたい。
「誰にでもできる簡単なお仕事」を現場作業者に約束するには、「誰もが投げ出したくなるような単調で地道な定点検証や見直しの反復」の先にある緻密で合理的な視えない仕掛けを、妥協なく作りこまなければならない。したがって、その設計や管理や運用の責を負う人材にはそれに見合う素養と経験が求められる。
なんていう広告があればうれしいが、あれこれ調べた限りでは見当たらなかった。
「高い広告費をかけて出来合いの即戦力を得ようとしなくても、社内にいる「その人」に物流のプロフェッショナルになってもらえばよい」
私が人事や経営の当事者なら、そう主張すること間違いない。
「その人」とは拙文を読んでいる貴方か、貴方の脳裏に思い浮かんだ人のことである。
そういう最初の思いや考えは間違っていないことが常なので、余計な加減をしないで大事にしてほしいと願う。
そして何にもまして、一番確実で無駄の出ない選択だと確信している。
大いなる手前味噌、露骨な我田引水、という指摘には一切の反論なく「そのとおりでございます」とお答えするのみ。
しかし、中小企業ならそもそもが人手不足だろうし、他部門から異動させる余裕はない。
物流専門職として養成するべき人材がいないなら新規採用するしかない。
のであれば、私も採用活動の最初から加えていただきたい。
中小零細ならではの究極の選択も言い添えておく。
四の五の言わず、比較的若い経営層・管理層の誰かが、ロジターミナルから物流専門職の技術を習得し、その後当面の間は補助輪付きで社内の人材養成にあたるのもありだ。
「今さら物流の勉強をするのか?」なんていう腰引けは厳禁。会社の下半身が強くしなやかになるのだ。ねじり鉢巻きで「踊る阿呆」になっていただきたい。一般社員の数倍のスピードと到達度で物流設計監理とOJTの要点を習得することが目に視えている。秀でた能力があり、社業に対する突出した執念と愛情を持てるからこそ、経営層や管理層を務めているのだから。
後々には物流部門を担う人材募集で、こんな求人広告も打てますぞ。
「我社の専務は物流のプロフェッショナルです。その技術を受け継ぐ人材を探しています」
けっこういけてるんじゃないかなぁ。
自画自賛?
いやいや、そんなことないはず。
たぶん、きっと、おそらくは。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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