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そのうちなくなる「年収の壁」

カテゴリ: 経営

現場管理者にとって、パート従業員の年収調整はややこしくデリケートなモンダイだと思う。
103万、106万、130万、150万、201.6万、調整なし――のように居並ぶ「年収の壁」と呼ばれる切実な事情が現場従業員のそれぞれにある。
整理整頓すれば特別難しくないハナシなのだが、往々にして「いくらまでならどうなるんだっけ?」という会話が管理者諸氏の口から洩れることも少なくない。

ワタクシとて関与先で質問された際に「えーっと、、、」と一瞬詰まることが多い。とりあえず「結局は年収の壁と言われている制度はなくなるのですよ」などと、苦し紛れの総論のハナシへとすり替えようとすることが多い。「それについては、まず○○○で」のようにパっと応答できぬところがダメダメでドンくさいのぅ、、、と痛感する毎度なのだ。

そんなワタクシでもわかり易く覚えることができるまとめ方は?
と考えてみたが、以下のような区分けと説明ぐらいしか思いつかなかった。

☆大原則として「被扶養者」状態にある労働者を対象とした制度である。

【所得税の壁】
・年収103万円―所得税が非課税となる上限
・年収150万円―被扶養者と認められる上限

【社会保険料の壁】
・年収106万円―従業員数51人以上の企業で就労の場合、社会保険加入義務なしの上限
・年収130万円―従業員数50人以下の企業で就労の場合、社会保険加入義務なしの上限

社会保険料の壁については今後も改変が予定されている。言うまでもなく「全労働者対象」が最終目的地になるはずだが、国は課すと同時にさまざまな補完策を用意している。
詳細は以下をご参照ください。
「年収の壁」対策がスタート!パートやアルバイトはどうなる?

残念ながら後付けでの対処に追われている事業者が多いので、非正規従業員向けの研修や相談窓口設置などは不十分となっている。人事労務などの管理部門に事務処理以外は丸投げせず、物流部門の管理者および社員が回答対応者となれるようにしておくべきだ。

たとえば上記の「年収の壁」を無視してよいケースは?
という説明がパート従業員に浸透していれば、現状「調整アリ」のスタッフの中から、フルタイム勤務可能へと変更する人が出る可能性は非常に高い。
優秀なのに調整アリなのが残念、、、といったスタッフを抱えている管理者諸氏は、今一度パートさん向けの説明会や説明書きをご用意されるべきと申し上げたい。

ワタクシならば「今から始めるフルタイムのススメ」のように演題を掲げ、

・配偶者の扶養から外れても世帯年収(実質可処分所得)が増えるのはいくらから?
・老後の世帯年金額に不安があるなら、自分自身の年金受取額を増やしましょう
・天引きは必ずしも損ではない。貴方の年金が「二階建て」型に変わると、、、
・配偶者の雇用継続や定年後に不安があるなら、迷わず自身の収入増を心がけるべき
・社会保険加入対象者は拡がるばかり。年収の壁はまもなく撤廃されます
・正規雇用者と非正規雇用者の間にそびえていた「待遇の壁」もなくなってゆく
・フルタイムで働ける人は減少の一途となる。働きたくても働けない時代に

のような項目で具体的な事例などをまじえた課税と給付のハナシなどをしたいところなのだが、講師役は関与先の管理者の方々が務めるべきなので、拙者は黒子役がもっぱらである。

できることなら足下に迫る税金や社会保険のハナシに止めず、人口動態から算出される10年後20年後の労働人口減少と雇用需給のバランス推移のような内容も織り込んでいただきたいと願う――もちろん今年の年末調整や年度末の確定申告対策に役立つハナシは現役世帯にとって最重要事項であることは承知しているつもりだが、先を考えることも忘れてはならないはずだ。

ということぐらい誰だってわかっている。
なので平易な言葉や図表を用いた“自分自身とほぼ等身大”の事例研究やシミュレーションを手短に得られるならば、多くの従業員はこぞって聴講するのではないだろうか。
気張った「得するハナシ」ではなく、淡々とした「損しないハナシ」となるよう講師が心掛ければ、出席者一同の安心度や納得度・満足度は高くなるに違いない。

企業内で労務や税務は物流と同じく裏方仕事とみなされることが多い。
それら業務に共通しているのは「ちゃんとしていてアタリマエなのだが、そのアタリマエをちゃんとできている会社は意外と少ない」という点ではないだろうか。

この先は読者各位がご自身でお考えになるハナシであります。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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