荷主向けの物流セミナーや研修時に、物流会社とその提供サービス内容による区分のハナシをすることがよくある。関連しての質問が数多いことも毎度である。
レジュメの一部ではあるが、以下のような項目と説明書きが並んでいる。
【物流小売業】→物流業務を仕入れたい事業者向き
物流業務総合小売、EC物流業務専門店、物流トラブル防止技術販売
★外科的アプローチが主
【物流製造業】→自前物流(下段参照)の追求を求める事業者向き
物流機能設計および現場最適化、物流技術開発、物流価値測定および業務体質改善
★内科的アプローチが主
つまり荷主の物流観や志向に適合する物流会社の区分とそれぞれの提供メニューや機能についてまとめているわけだが、意外と「あぁ、そうか」と肯きながら再確認する方が多い。
なのでどこに行っても一度は話す題目となっている。
中小の物流会社には「物流小売業」が多く、大手になると「物流製造業」的なサービスが用意されている。言い換えれば大手物流は「物流小売およびOEM請負業」となる。
3PLや4PLという説明でも同意なのでは?と指摘する声が四方八方から聞こえてきそうだが、「フルカスタマイズというハリボテの入口をくぐれば、ほぼ丸投げ委託が実態」ということも間々あるので、あんまり取り上げたくないというのが本音なのだ。
なぜこんなことを書くのかというと、目に見えて物流委託ブーム(本当にそうだったのか?)は下火となり、自社物流への回帰が企業動向に現れつつあるからだ。
後付け後追い後出し的な匿名コメントやヘンな統計値や内輪的アンケート結果はさておき、その実感はワタクシもひしひしと感じているので、ちょっとだけ書いておくことにした。
誰もが肌感覚として異を唱えぬ時流は、ECバブル的な倉庫需要・個配需要の急激な上昇場面はもはや影を潜め、この10年足らずの間にアホみたいに供給された大型倉庫の新古物件化が加速度的に顕在化していることがその第一。
次に、個配大手はもはや「安くするので荷物をください」「月に〇〇〇個以上なら、特別単価のタリフ出します」的な営業行動はしないのだろうな、という予感や実感だろう。
倉庫相場の動向は未曽有でも新風潮でもなく、いわゆる「いつか来た道」を何年ぶりかに再び往く日々が始まっていると感じている。なんとなく2008年あたりから2012年前後の数年間に似た状態に物流市場は回帰するような気がしてならない。特に、倉庫物件の売買・賃貸相場の単価推移は似た傾向になるのではないか。
平均的なコストアップ型インフレのスライド分を最大限考慮したとしても、過去相場の15%ぐらいまでしか上乗せ許容されないはずだ。したがって用地取得費と建築コストの高い物件は、よほどの好立地か、好条件で一棟契約してくれる先がないと、利回りも転売益も出ないに等しいか、目論み割れとなってしまう。
かたやで、過去と明確に違うのは、個配大手は今後も総集配数の設定上限を簡単には外さないだろうし、安値契約排除に例外はなくなるという点である。値上げ抵抗の強い個客や集荷サイズの平均が大きい個客などをワーストランキング化して(すでにしている)、交渉難航ならばいたずらに粘らず速やかに解約。それと同時に新規顧客と入れ替えて、取扱荷物量の一定水準を維持しつつ、新陳代謝の励行によって利益率を確保する動きを強めるはずだ。
ネコも飛脚もポストも「人が足らん」ことに大差なく、「運びたくても運べない」実情は同じだろう。現状維持すら厳しくなりつつあるエリアも少なくないので、全社を挙げて離職率を下げ、既存人員を維持するためには、労働環境の整備や労務順法の徹底が不可欠となっている。そこを調えねば、新規採用してもザル底注水となることぐらいは自覚しているはずだ。
ことの始まりだった安値受注合戦による過当競争のしわ寄せこそが退職率の高止まりの主因だったのだから、ここに至って同じ轍を踏むことはないだろう。
多くを書く必要はないハナシだが、今や空き倉庫情報はWEBで簡単に検索でき、荷主が賃料問合せを行えば、結構踏み込んだ条件提示が最初のやり取りで得られるのが常だ。
ということは、物流会社が同一物件や近隣の他物件で仕入れて保管料として再販する単価の利益額や率が荷主側から詳らかに把握できてしまう。
もちろんフリーレント期間の長短や実契約の坪単価は違っている可能性も多々あるにしても、おおよその見当ぐらいは素人でも付けられるようになっているのだ。
長々と書いたが、すべての物流人が覚らねばならぬのは、運賃や保管料は玄人が水面下でソロバンを弾くような類の項目ではなくなってしまった、という割切りだ。
なので物流会社のもつべき見識や感覚は、運賃や保管料は原価開示して、立替払い手数料や庫内維持の管理手数料を請求するほうが営業力が強まるという機敏さに尽きる。
請求項目の合理性とその中身の明確化は、荷主印象が良くなり値段交渉の盾となる。さらに加えておくが、各項の純利益額は差額商売よりも歩留まりが良くなる可能性が高い。
(経験者は語るというやつだ)
ハナシを戻す。
かつての「わかりにくかった物流業務の値段」はこの10年でタイヘンわかりやすくなった。
そして「なんだ、そんな中身だったのか」と荷主側で理解して、試算できるようになった。
なのに、、、と愚痴っぽくなりそうなのは毎度のことだ。
ひと昔前ではあり得ないほど短時間で容易く多大な情報が入手できる現在である。
にもかかわらず、自社の物流構造や価値の概略すら「書けず語れず」のまま、物流会社への依存状態から抜け出せない丸投げ型の荷主企業はあまりにも多い。
物流業務を委託という名で仕入れることを必ずしも悪とは思わない。私が指摘している「悪」の中身とは、依存体質は事業収益の実損や機能の脆弱性に直結するという点だ。
自前の物流業務設計とコスト算出ができない状態で既製品の物流サービスを仕入れている荷主企業があるなら、今一度立ち止まってお考えいただきたい。
私の生業ゆえの発言ではない。
自前の価値観に則った規格や意匠が反映されている物流機能は、いかなる既製品よりも心地よく、顧客を筆頭とする利害関係者の理解と支持を得ることになる。
そして自社が得るべき最大効果と最適コストが生み出されるのも自前物流の特長だ。
その目的に至る手段がいかなる態様であっても支障はないと思っている。
まずは自社の物流業務の価値を客観的に測定し、評価することから始めてはいかがだろうか。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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