人が生きる上で、衣食住と水道光熱の確保は基本的なことだ。
そして家庭のひとまわり外側にある地域という社会生活の単位もしかり。
なぜならそこへの所属意識やコミュニケーションも欠いてはならないものだからだ。
「つながり」「やりとり」「ふれあい」などに姿かたちはない。
しかしながら家族や家庭だけでは得られない「大切なもの」はそこから生まれる。
暮らしの必需品を得るための行動が、期せずしてコミュニティの形成と維持に寄与するなら、誰もが納得できるに違いない。
個人では難しいそれらの仕組や基本的なルールの策定を、自治体が率先して執り行うことは、まわりまわって地域振興と活性化に還元される。
「暮らしの基盤が整っている」ことは、その場所に生きる人々が確かな毎日を過ごすうえで必要不可欠なものだ。
近年の通信や物流網の整備と多様化は、都市部から離れた、消費総量寡少ゆえの供給砂漠と化しつつあった自治体やその中の特定エリアに大きな恵みをもたらしてくれるだろう。
その利点を活用しての素案を大区分で書き出せば、以下のようになる。
1.ネットスーパーとの地域団体契約
2.市町村運営による営利事業としての有償運送の貨物版もしくは貨客混合版の追加認可
3.生活協同組合もしくは類似サービスによる移動販売事業者との自治体による団体契約
4.タクシー会社、観光バス会社、路線バス運行会社などによる「地域貨客混合サービス」
5.医療・福祉法人と流通業を巻き込んでの自治体を事業主体とする「生活総合サービス」
類似する内容のプランを、すでにいくつかの自治体でも掲げているかもしれない。
地域を選ばぬ共通需要から個別固有の事情や需要を酌んだ施策に至るまで、まずは書き出すところから始めるべきだろう。
その際に人的資源と収入計画の実情に応じたフェーズ策定、日付の入った実施のロードマップの作成・公開は必須だ。
まずは上記1~3あたりの実現だが、外部との交渉は首長のトップセールスが望ましい。対面する側の印象や受け止め方に大きく影響するに違いないからだ。
事務方の迅速な行動と詰めは、首長の熱意の裏打ちとなって好結果を生む原動力となる。
1と3は条件交渉での苦労や妥協はあっても、相手が交渉の席についてくれれば必ずや何らかの成果は出る。
問題は2の「貨客混合版有償運送」の認可だ。道路運送法にそびえる最大の壁、「貨客分離」を前に、事の成否は地方自治体が「地域経済と住民サービスの充実や生活基盤維持」という必要性と事業効果の説明をいかに訴求するかにかかっている。
大義名分と住民利益の確保という公共性が担保されているなら、最終的には監督官庁も認可するものと考えている。昨今の厚労省や国交省の動きをみれば、柔軟な対応への期待は楽観が過ぎるとは思えない。
拙著、
「コハイのあした」 第3-2回 -コミュニティ形成の一助として
にもあるとおり、生活物流の最終ランナーを担う配達機能については、多種多様な方法と参加者の今後が見込まれている。
それは「願う」や「期待する」ではなく「選ぶ」「挑戦する」という段階に至っている。
インフラとしての通信や物流機能の充実は地域の生活総合サービスを支えるに十分。
あとは住民を巻き込んだ自治体の意思決定と具体的な行動だけで役者が出そろう。
舞台の場所は「地域社会」、演目は「みんなの暮らし」となるはずだ。
地産地消、自給自足、自立自存。
食物や産業を自らの手でまかない、日々の生活は自前で済ませている。
そこに域外からの参加者やボランティアや慈善ではない協力者が加わり、「最低限の」が「そこそこの」に変わり、やがて「これぐらいなら」となって「必要十分」まで熟す。
そんな軌道を計画し、丁寧で明朗な意思統一・意思決定の段取りを経たら、即座に行動開始。
簡単ではないし厳しい局面も数多いだろう。
しかし意志と活力は維持できるはずだ。
地域で生きるための労力への報いは「未来がある」という希望に他ならない。
恒産無ければ恒心無し。
物流ができる恒産づくりは中段にある大区分5項目であると考えている。
その実践の場は数多い自治体となるだろう。
もちろんだが、「言い出しっぺ」の責任は相手を選ばず果たすつもりだ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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