ゼロ環境という私造語をよく用いる。
机に向かって熟考の末にひねり出したわけではなく、提案書向けに作ったのでもなく、講演などの原稿に記したものでもない。
いつの間にか自身の中に根付いてしまった言葉で、私の物流観の基本となっている。
始業時と終業時の現場状態に違和感がないこと。
できればほぼ違いがわからないぐらいであること。
業務中に管理者が現場巡回したとき違和感がないこと。
つまり、管理者が想定している作業状況や進捗がなされていること。
スポットやイレギュラーや割込み業務については、事前の作業工程と生産性の計画が指示通りに行われているか否か。
その上で作業現場で気になる点が皆無であること。
現場事務所では当日の書類が全て整理整頓されて、廃棄待ちの場所に収納されていること。
使用済みデータの始末も取決めどおりに終わっていること。
机上や引出や棚に見慣れぬ書類が放置されていないこと。
できれば電話と必要な収納以外の物は全く置かれておらず、事務机、作業テーブル、打合テーブルの上がすっきりとしていること。
翌日以降の残処理や備忘メモは個々に管理するのではなく、規則として取決められているボードやそれに類する場所に掲示すること。
タスクや懸念事項が処理出来たら、担当者の日時入り署名を付けて管理者の処理済みタスク収納スペースに提出すること。
それから、、、限がないので以下割愛。
違和感ゼロが大切なのは物流現場に限ったことではない。
本社や本部などの各部署でも同じだと思う。
営業や経理・総務なんかその最たるものだ。
商談相手に抱いたかすかな違和感をうやむやにしたり、通常の手順を変えたり、潰しておくべき疑問や不明を後回しにしたりは営業職の禁忌。
通常とは違う入金状況や出金パターンや頻度や額があれば、即座に反応しなければならないのは経理の基本であるはず。
立居振舞や受答えの中に自社内には存在しない間合いや奇妙さを感じたのに、学歴や経歴や書き綴られた実績に「人材の飢え」がもたらす「貧すれば鈍す」の典型よろしく惹かれ迎合してしまい、入社後に多くの問題が発生するような面接は人事採用ではあってはならない。
会社の全部門に「見過ごしたり先送りにしてはならない違和感」がたくさんある。
物流だけの事例ではなく、普遍的な課題なのだと思う。
現場管理者は些細な違和感も決して「まぁいいか」とせず、必ず立ち止まり、視覚と聴覚を集中して観察しなければならない。
その上で必ず声掛けし、違和感の元となっている原因を把握、対処する必要がある。
現場エラーの大半は、発生直後に管理者が「実はちょっと気になったのだが」「嫌な予感したんだ」「あれっ?と思ったんだけど、後で訊いてみようとして」などの痛恨の言葉をもらすケースが多い。
つまりは気付いていたのである。具体的でないまでも、何かがおかしいと。
違和感が過っていた。一瞬かもしれないが引っかかっていたのだ。
いつものように立ち止まらなかった。
魔が差した。
うっかりしていた。
些細で刹那な躊躇ややり過ごしが大きなエラーにつながってしまうこともある。
悪気や怠慢が根にあるなんて皆無に近い。慣れや驕りや惰性。
こいつが一番厄介な問題で、人間は忘れたり間違えたり思い込んだりうっかりしたりする。それを機械的にゼロには出来ない。
仕組みやルールの管理者を違う仕組みやルールで縛るのか?
こうなると、もはやパラドックス理論のような哲学的議論になってしまう。
結論から言えば、なくならない。
無くす努力は必要で当然。
巡回時の管理者チェックリストなどにより、自身の答案の間違い探しをするぐらいしか方策はない。
しかし、自分の答案用紙はついつい流し読みしてしまい、他人のような意地悪い見方が出来ないものである。この場合にも「チェックしたつもりなんですが、、、」という言葉が小声で述べられる。
ゼロ環境の維持継続は終わりがなく満点もない。
ひたすらゼロを目指して日々こなすしかない。
作業工程の要所で、システムによるエラー抽出機能が当り前になっている昨今。
結果的には無事に出荷完了し、事なきを得る。
ではシステムが引っ掛けたエラー数はいくつあったのだろうか?
作業別、種別、原因などの日計を見て、管理者はどのように明日を迎える準備をするのか。
週計・月計などのグラフ化と検証はどのレベルまで報告されていて、どんな反応と指示が返ってくるのか?
そのレポートライン自体を疑うことはあったのか?
考えるべき点はたくさんある。
結果オーライで済ましているのなら、今一度立ち止まっていただきたいと願う。
便利で正確な利器のおかげで、ヒューマンエラーによる事故が水際で止まる。
得ているものは多い。
が、失われていくものはそれ以上にあるような気がしてならない。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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