現場のゆゆしき問題のひとつに動線の設計や規定がある。
庫内自動化の前提条件となる利器類導入についても、動線の基本設計無くしては不可能だ。
過剰供給された新築倉庫の広大な床面積のおかげで、過去には叶いようもなかった横動線の実現があちこちの現場で行われているようだ。
すなわち、見目麗しく、立て板に水を流すような業務フロー説明が可能となるわけだが、必ずしも口上どおり事が運ばぬことなど、玄人ならも誰しもが想うところだろう。
一筆書き、横一線、一方通行。
これらは業務フローを設計して作業手順を現場に落とし込むにあたり、対応する庫内レイアウトを表現する際によく用いられる言葉だ。
さらには何度かの動線分断と切り替えを回避するために、多少距離が長くなろうとも、一筆書きのまま一方通行でなるべく直線的な作業フローレイアウトにしたい、、、という会話は現場動線の検討時にはしばしば耳にすることも読者諸氏頷くところではないかと思う。
しかし、その頷きは、実は切り替えや断裂なしの動線完結など到底不可能ゆえに、叶わぬ理想と決め込んで安心して口にしているのでは?という自問を今一度なさっていただきたい。
起承転結が横一線で叶う現場レイアウトを運用してみたら、理想的でも実用的でもない問題点がいくつか出てくることに気付くに違いない。横動線の複合的限界を認識すると同時に、空間を貫く縦動線の不可欠性を思い知らさせる現実は仮想でも飛躍でもない。
広大な平面で縦横無尽の動きを許されて存分なのは機械だけで、人間は必ずしもそうならぬ。
守秘事情ゆえに現段階では実例を挙げられぬが、「直線的な動線設計≠理想的な業務効率」というのが普遍的な実態なのだろうと思っている。
掲題のカタカナ言葉は、業務フロー設計者がOJT手順書の作成時、何度となく脳裏に浮かべるものだろうし、試行検証の具としても頻出項目にあたる。
理屈通りに図面を描き、試算上の生産性を落とし込んでテストを繰り返しても、運用後の不具合は未然防止できないことが多い。
それは半人前の料理人による味付けに似ている。つまり調理時のひとくちふたくちの味見で、客がその料理を食べ進め、完食に至るまでの味覚変化を追い切れていないゆえの「過ぎる・足らぬ」と同じことが物流現場で起こる。
具体的には「単調すぎてミスを誘発しやすい」「単純に疲れる」「動線が長すぎて、時間がかかりすぎる」「補完具であるはずの機械に合わせて作業している」といったものがよくある事後発覚の例だ。腕のいい設計者や管理者なら、当初から羊頭狗肉の冗長な動線や作業フローは選択肢から外す、、、あくまで人間が働く現場でのハナシではあるが。
と書いていてふと気づいた。
自動化の市場覇者争いについても横動線と縦動線のせめぎあいの最中ではないか。
数多いAGVやキュービックレイアウトを主構造とする空間利用効率向上による省スペース・省動線。多くは併用によって最適効率を導いていることになっているものの、現場運用では設計目論見どおりに事が運ばないのも事実だ。
「全部AIと機械」でなければエラーやミスによるトラブルが引き起こす停止と遅延の発生頻度はなかなか下がらない。なぜなら人間が介在することは、間違える・忘れる・繰り返す・勘違いする・違えるを排除できないと同意だから。
改めて書くまでもないことなのだが。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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