物流よもやま話 Blog

庫内でふと我に返る時

カテゴリ: 本質

光回線難民状態のまま6月になってしまった。
わが家にはアンテナがなく、ネット回線が不通のままだとテレビが視聴できない。
朝のニュースもサラメシも青天を衝けも観ることができないし、チコちゃんに叱られることもなくなって久しい。車に乗るたびに「おぉ、テレビだ」と感激する毎日なのだが、夜に音のない暮らしも悪くない、と無理やり納得しようとやせ我慢する自分がもの悲しくもある。
早く回線工事しておくんなましよ、NTT西日本殿。

しかしまぁ、よくこんな無体で一方的で独善極まりない放置がまかり通るものだとあきれるばかりだが、同じ境遇の方々(6万件ぐらいあるらしい)はどんな反応なのだろうか。
せめて工事日の目安やWi-Fiルーターの貸出ぐらいは迅速に報せて欲しい。他のサービス業や物販ならあり得ない対応といわざるを得ない。

回線開通工事日3日前の夜にいきなり「工事できない。追っての連絡を待て」という内容のショートメール受信以来、一切の連絡がないことへの憤慨や怒りで過ごした10日間あまり。
しかしながら、昨日あたりからは怒りよりも残念さが勝って、虚しく哀しい感情が押し寄せている。国の通信を担う巨人のお粗末な体質を肌で感じたこの半月は、諦観というよりも「考えないようにしよう」といった現実逃避に近い拒絶感に行き着いて複雑な心境だ。

このところ徹底して携帯電話屋に風当たりを強める総務省は、さらに上位にある基幹回線事業者の現在をどこまで知っているのだろうか。利用者が悲鳴まじりに生活に支障の出ている実情を訴えても反応しないのであれば、即刻の指導や命令によって善後策の公表や丁寧な対応を強いるべきではないかと思う。

愚痴や文句ばかりでは読む方が滅入る。書いている方はもっと落ち込む。
前置きが長くなってしまい申し訳ない。

世間様同様にテレワーク状態の最近ではあるものの、関与先企業の現場改善業務や打ち合わせについては適用外とならざるを得ない。
ご承知のとおり、コロナ禍の影響は業種によってさまざまであるゆえ、私のかかわる相手先も好調・不調の明暗差に見舞われている。
救われるようなありがたさを感じているのは、業績低迷の顧客企業が「こういう時こそ現場改善の好機」と前を向いてたくましく行動していることである。それはかかわっている私の喜びでもあり誇らしく感じて止まない。
まさに臥薪嘗胆を実践している企業人たちのかたわらで、自分自身も最善を尽くすことだけに専念しつつ現場を歩く日々を過ごしている次第だ。

厄災の長期化は多くの喪失と停滞と改変をもたらした。
その流れに翻弄されつつ、私自身の仕事観や現場における優先順位の付け方に変化が出始めたのは昨年半ばごろからだったように記憶している。
まず今まで業務ルールとして絶対に禁忌としていた要素のいくつかを「場合によっては全否定しなくてもいいのではないか」と思い直すようになった。

次に、データ依存と数式化へのこだわりを緩めることが増えた。
物流業務の基本は引き算の追求であり、1+1は常に2でなければならないという大原則を曲げる趣旨ではないまでも、ある程度の「あそび」はあってもよいのではないか、という意だ。
顧客から業務委託される営業倉庫が自ら発するべき言葉ではないと承知しているものの、自社物流なら「それもまたありなのでは?」と考えるようになってきている。

すでに誤出荷や在庫差異への過剰なこだわりは捨てるべきと結論付けて仕事をするようになっているし、その判断は今も揺らいではいない。
さらには生産性や業務フロー設計の技術的な突き詰めを、まずは徹底的な削ぎ落しと短縮化で加工してから、いくつかの箇所を見直して緩めたり増やしたりする。
――などは変化の筆頭に挙げられる。
かつての自分なら「そんな理屈は言語道断」と頭から否定していた手法や段取りを、再考の対象に加えて採用に至ることが多くなっている。

よもやま話にガチンコの技術論はなじまないので仔細は書かないが、たとえば「親子ロケは原則禁止」などの見直しは変節の最たるものだ。
日時は覚えていないが、新規契約した関与先の倉庫内を初めて巡回精査した時にふと脳裏に過った言葉は「まぁ、親ロケ子ロケでもいいか」だった。

なんの前段や考察なく、直感的に思い浮かんだのだが、その後いくつかの選択肢をあげて比較検討してみた結果は「やっぱり支障ない範囲の効率差なのだ」「レイアウト変更とロケ変更に伴う作業等の労力と得られる合理性は歩留まり悪し」などが判明した。
思い込みや偏執的な価値観は常に疑わねばならないという事例の典型だと思う。

それ以来、庫内を歩くときには実際に立ち止まり、我に返る時間を意識するようになった。
いい齢をして恥ずかしい限りだが、自省の繰り返しが尽きないわが身なのである。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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