物流よもやま話 Blog

コボットの惑星 第1章 物流の未来ノート

カテゴリ: 予測本質

1.物流の未来ノート

「ロボットからコボットへ」
こんな謳い文句を見聞きしたことがある読者諸氏は多いだろう。
日本国内ではまだ黎明期・試行期だが、欧米では市場参入者の急増が続き、製品やサービスの投入が活発化している。いくつかの要因の重なりによって、顕在化している現在の市場ニーズを上回る供給量となってしまい、統計的には一時的ながらも足踏みから伸び率の鈍化という状況になっている――が協働ロボット(Collaborative Robot=Cobot)の市場環境だ。
Grand View Researchによれば、2018年の時点でコボットの世界市場規模は6億4,910万ドルと評価され、2019年から2025年にかけて年平均成長率44.5%で拡大すると予想されている。

■どこに向かうのか
ひとくちに「協働」といっても、その定義についてはまだ曖昧で流動的だ。
つまり「どうあるべきか」に至る以前の「どうなりたいのか」「どうならいいのか」「どこまで求めるのか」――といった議論と同時進行しながら開発と改変作業が絶え間なく続けられている状況である。
もはや猶予なく差し迫る物流現場の労働力不足への方策として、各種機器やそれを支配するシステム開発の隆盛は目覚ましい。
しかし、「どこに向かっているのか」を明確に表現しているサプライヤーは少ない。
利用者である物流企業や一般事業会社に及んでは、頷きながらも時折首を傾げたり、漠然とした疑念を抱いてみたりという状況の現在だ。

■単なる補助具ではない
書き出せば限がないほどの各種利器の出現は、行く先の現場像をあれこれと思い描くきっかけとなる。さらには、それら機器やシステム類に共通しているのは「どうも‘ 補助以上 ’の働きを目的としているらしい」という点だ。
もちろん単純な補助機能に特化したものも数多い現状を承知してはいる。
そして現状はあくまで短期間しか滞在しない踊り場である。その先にある階段を上がれば、アシストからサポート、そしてアドヴァイス、さらにはサジェストを経て、ついには――この先はいくつかの章を挟んだ後、掘り下げて書きたいと思う。

■それぞれの想いが実現
開発者や現場従事者などの空想や理想が実現する。
今の時代はそんなことが珍しくなくなってしまった。
将棋や囲碁のプロ棋士たちの宇宙のような頭脳世界を凌いでしまうAI。熟練の職業ドライバーの経験や勘よりも高確率で最適順路を指し示すナビゲーションシステム。
しかも経路中の施設情報や美味い飯屋情報まで付帯させるあたりも、運転歴数十年のプロドライバーに遜色ない。
かつては各社各部門の新人たちが「あんなふうになりたい」「神業のようだ」「何年ぐらいでできるようになるのか」と憧れたり望んだり目標とした技術や修練のはてに得るプロの技は、その多くがAIによって一瞬で入手可能になりつつある。
人工知能の指示どおりに作動するハードが用意できれば、その瞬間にプロやベテランと同等もしくはそれ以上の存在が出現する。

――誰が何を望むのか。
――誰が誰のために考え、何を創るのか。
――誰が喜び、誰が救われるのか。

そして、真逆の存在として望まない・喜ばない・救われないのは誰なのか。
そんな言葉が胸中をめぐる。
物事や出来事の陰陽や表裏は常に一体となって、われわれの足下に在るのだと思い知る。

■まずは書き出してみる
革新的な発明や開発が実を結び、具体的なかたちになる。しばらく経って、気づいた一部メディアや関連業界の各社が注目する。
そして個々の視点からの分析や評価を行い、さらなる発展や拡張の可能性や期待を挙げつつ評論や評判が盛り上がってゆく。
協働ロボットがいる現場の風景についても、同じような段階を経ての一般化や世論への合流がなされるものと思うのだが、読者諸氏においても「自分なりの期待や要望」をまずは書き出してみてはどうだろうか。
貴方が書いた「こんなことができたらいいな」「こんなものがあったらいいな」は、実はすでに存在している、もしくは、まもなく公開されようとしている可能性が高い。
なぜなら、読者諸氏はその大多数が物流関係者であり、ある業務分野や職種のプロフェッショナルであるからだ。
ゆえに、奇天烈だったり荒唐無稽だったり、と感じさせるような発想を持たない。
それは開発者にとって、事前想定のうえ実現可能としたいくつかの項目に含まれている可能性が非常に高い。
つまり、もはや夢でも空想でもない現実の機能となっているということだ。

■収益安定の条件
協働ロボットの現場寄与度が大きいことは誰でも想像できるし、それに異を唱える人も少ないだろう。つまりコボットの普及には追い風が吹いているというわけだ。
そして業界人は、こうも考える。
「複雑なことや繊細で取り扱い上の注意が不可欠な作業などはロボットにはできない」
もちろんそのとおりだし、サプライヤー各社も投入現場の条件を規定している。
「細やかな気配り」「おもてなし」「丁寧で細部にこだわった」などの言葉はコボット達の守備範囲ではないし、こちらも求めてはいない。
少なくても‘今の段階では’というひと言をつけておいた方がよさそうなのだが。

「現場環境が混雑・複雑化しているほど、業務工程が不安定であるほど、または一貫性がないほど、再現性のある継続的利益を得るのは難しくなる」
―― デビッドクリア Vecna Robotics事業開発担当副社長

次世代を担う業務用ロボット開発の最先端に立つ彼の言葉は、複雑で混雑していて、イレギュラー業務が多く、作業工程や業務フロー自体の切り替えや改変の頻度が高ければ高いほどその現場は儲からない――ということを指摘しているのだろうし、それは基本的な原則として認められている正論だ。
少なくても物流業務においては、正論がまかり通る環境や風潮は好ましい。
効率・合理・正調・整然・単純、といった「正しくあるため」の方策は、コボット以前のはるか昔からイロハのイ、だったはずだ。
それを余すことなく刷り込んで、「協働」できるようにコボットは造られた。
そして何よりも収益貢献度が高いことは重要な利点だ。

―次回へ続く―

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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