「どうかこらえてください。続ければ手が後ろに回ります」
そんな過去の一場面が突然脳裏に立ち上がり、しばらくして消え去った昨夜だった。
ちなみにこのような不意の回想は珍しくも稀でもない。時と場所と相手を変えて、いくつかの出来事の記憶が切り取られてよみがえる。
データ依存と数式化へのこだわりを緩めることが増えた。
物流業務の基本は引き算の追求であり、1+1は常に2でなければならないという大原則を曲げる趣旨ではないまでも、ある程度の「あそび」はあってもよいのではないか、という意だ。
顧客から業務委託される営業倉庫が自ら発するべき言葉ではないと承知しているものの、自社物流なら「それもまたありなのでは?」と考えるようになってきている。
めっきり春めいてきて、桜の報もあちこちから届く。
そしてわが国では始まりの時を迎える行事や機関が多い。
疫災によって例年通りのスタートを切れない学生や新入社員の諸君は気の毒で心が痛む。さらに悲惨なのは昨年の新卒者や新入生だ。一体いつになったら職場や学び舎で普通の活動ができるようになるのか。
物流の未来を想うとき、脳裏に浮かぶのは農業の歴史だ。
物流業界が直面している問題や課題、希望や期待の行く末の姿は、農業の今と訪れつつある未来形の中にあると思える。
狩猟依存から脱却した耕作文明は、やがて人類の生存を安定化する基盤となり、膨大で長久な時間の流れの中で、無数の曲折や進化を繰り返しながら今に至っている。
学んで考える対象としてはこの上ないだろう。
コボット達の増殖に圧され、人間の住まう場所は狭まってゆくだけなのか。
悲観とは別物の命運を想う気持が強まる。
自業自得のわが身の明日はさておき、若年世代やそのあとに続く子供たちの未来では、コボットや自律稼働する機器の進化と増殖は福音となるのか気がかりだ。
望外に長い連載となっている。
急速なAI普及と自動化猛進など、利器依存への危機感や憂う心情にいつわりないのだが、かといって絶望や無為を決め込んでいるわけでもない。
われわれが抱いているさまざまな心情――現在の世相や方向性への賛否――に対する解答は、おそらくきっと過去にあるという気がしてならない。
それを寄る辺とできるのではないかという期待が、動転や悲観を和らげてくれる。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。