「困っていることは何ですか?」
「どうなればよいのですか?」
この二言は営業ヒアリングの基本。
物流に限らずどの業界でも使うし、これを訊かない初動はあり得ない。
私も数え切れぬほど使ってきたし、今後も同じだと思う。
もはや無意識に用いている。
初見の挨拶が済んで、ちょっとしたハナシのマクラが終わったら、自然に口から出てしまう。
ヒアリング時のパターンにはいくつかある。
中でも一番厄介なのは、以下のようなタイプだと思う。
問い合わせ元はある程度の規模で、その業界では名が知れている優良企業。
創業の理念が全部門に周知徹底されており、営業と商品開発は社内でもぬきん出た権限と責任を与えられている。
「開発と販売」の裏方にまわる管理部門や物流部門に対してはデリケートな気遣いと目配せを欠かしたことはない、という演出にも抜かりない。
しかし、気遣いや理解の言葉という免罪符が呪文のように唱えられた後、花形部門の容赦ない大きな波動やしわ寄せが襲ってくる。
免罪符を唱えるのも無理難題をごり押しするのも同じ口。
「そのあたりの現状や理不尽さや危うさも重々承知している」
と面前のヒアリング相手は語る。
名刺には「経営企画室」やら「社長室」やら「業務推進本部」といった、本社の主要部署が刷られており、ご本人も「まぁ、誰が見てもエリート」といった雰囲気。
「うーん、、、本当に困っているのか?」
「これって、具体的にどうなりたいと思っているのだろうか?」
が、過去のヒアリング時の実感として最多。
表現や表情は役者さながらの迫真この上ないが、説明内容に切迫感や危機感などの現場感覚が全く漂わず、自社のことであるのに第三者的なのだ。
従って非常に丁寧で如才ない。
「問題の数がいくつなのか、それはどの程度なのか?それすら明確に把握できていません」
「どうなるのが理想形なのか、どうしたいのか、実はお答えするに至っていないのです」
「現場の実情を具体的に説明できるほどの経験や調査ノウハウがありません」
こんな満点の返しや説明をくれた企業は数えるほどしかない。
わかっていないことを自覚しているなら、もはや解決に向けて進み始めているも同然。
「センセイ、どうも風邪ひいたらしく、咳が止まらないんです。よく効く薬ください」
「咳が出るから風邪と思い込んでいるようですが、そうとは限りませんよ」
こんな会話は無駄だ。
どんな咳なのか。いつからなのか。他の症状はないのか。
玄人は顕在状況や自己申告だけで判断しない。
「出荷ミスが多く、顧客クレームが絶えません。改善方法が見つからず途方にくれています」
「その原因は出荷の現場にはありませんよ」
私の仕事はこういう遣り取りをすること。
結果には原因がある。
物流では往々にしてそれが同時に出現している。
答を知れば、拍子抜けするような単純明快なものであることが多い。
現場で解決できない理由や事情の説明や解析も不要。
原因をつぶす。
ただこれだけを関与者が追求すればよい。
社内調整?
物流現場の不備は、顧客サービスに直結している。
部門間の言い分や、属人業務への言い訳・しがみつきにお付き合いする必要はない。
全部放り投げてしまえばよい。
いわゆる ‘ 丸投げ ’ というやつだ。
どこの誰に?
言うまでもない。経営層に決まっている。
エライ人の仕事は「面倒を引き受け、責任を取ること」なのだから。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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