物流よもやま話 Blog

倉庫の「あやかし」と「まやかし」

カテゴリ: 本質

原因不明。
物流現場で頻繁に出る言葉。
「うーん、、、」と皆で唸ったり、無言で首を傾げたり、毎度のことなのでスルーしたり。
パート従業員や現場担当社員から報告を受けた管理者までが「うーん、、、」ということも珍しくはない。むしろ、トラブル時に発する社員や管理責任者の言葉ランキング上位に食い込みそうだ。

原因のない結果は存在しない。
ということぐらいは誰でもわかっている。
誤入荷・在庫差異・誤出荷・データ処理ミスなどの事件・事故・事態・事情・事実。
その原因のほぼすべてがヒューマンエラーであることも全員が知っている。
なのになぜ唸ったり、黙り込んだり、見て見ぬ・聞いて聞かぬふりをするのか?
根本的な原因が全くわからないか、特定できないからだ。
現象や結果を見聞きして、その理由や原因を推察する抽斗や場数が不足しているのだろう。
という答が即座に用意される。

そうなると現場では経年のキャリアがモノをいいそうなのだが、それこそ「うーん、、、」と唸ってしまう。
今度は誰が?
私が、であります。
そんな理屈が正論としてまかり通る現場で、根本的な業務改善が奏功した例を知らない。
キャリアで現場が回るなら、目方で男が売れる、と寅さんに小言をもらいそうだ。

毎度述べているが、現象や結果の生まれる場所はその現地ではないことが多い。
試験の点数が低かったのは、全部が全部今日の体調が悪かったせいだけではないし、今回の人事で出世しなかったのは、今の上司と折り合いが悪いという要因だけとも言えない。
引き気味な周囲の雰囲気を打ち消そうとする一心で「もうそろそろ本気出すから」と真剣な眼差しで斜から押っ付けられても、苦笑いするばかり。
みたいなハナシを物流現場に置き換えて説明してきた。
当事者達が事故現場に立ち会って、その場所を懸命に調査分析する。そして「うーん、、、」と皆で唸る。まとめの言葉は決まっている。
「次からは気を付けて一生懸命に作業しよう」

「うちの倉庫では年中起こる恒例行事なんです」
と初訪の企業の物流管理者から淡々とした口調で聞かされた時の記憶がよみがえる。
唖然としたが、必死で表情や口調を平穏で緩やかに抑えて、ともかくは庫内見分と業務フローの細部をヒアリングし、最後は事務書類確認を終えた。しかしながら帰社後数時間経ってから怒りと憤りとがっくり感が。
あんまり困っていないとしか思えない。作業工程をたどれば原因なんて瞭然としている。しかし「不思議なことに」「たまたまなんでしょうけど」「いろんなことが重なって」みたいな言葉でエラーを包み込む。
「この倉庫にはオバケでもいるのですか?」とツッコミそうになるが、ぐっとこらえて説明を最後まで聴き続けた長い時。

答が間違えているのはささいなこと。
式が間違えていることは大問題です。

と、高校時代の数学の先生は何度も仰っていた。
「式が正しいのに計算間違いで解答値が違っていても、10点の問題なら9点をつけます」
私の行動や判断基準の礎となった言葉で、現在に至るまで仕事の根幹を支えている。
現場ミスの現象や結果は、その原因をつぶせば再発しない。
それが起こる工程や環境が改善されない限り、現象としてのミスや事故は発生し続ける。
物流現場の管理者は何よりもその一点に最優先の注意と精力を注いでいただきたい。
それさえ潰しておけば、毎日決まったルートで違和感の有無を確認し、昼行燈のように周囲から存在自体を意識されない体で過ごしていればよい。

物流現場には「あやかし」もいなければ原因不明の事故やミスも存在しない。すべての結果には必ず原因がある。
すり替えや言い訳は人情として理解できるが、出荷という顧客への最終サービスもしくは最前線への兵站を担うのだから、是々非々と明朗明快は徹底しなければならない。
現場の管理責任者に求められる最重要で不可欠な素養は、親しみやすさや柔和温厚や会話量や人情味ではない。それを人望とすり替えることこそ「まやかし」なのだ。
「ミスしたくてもできない」ぐらいの業務フローを設計し、プリンティングし、日々巡回と目視で確認。それが管理者の本分だと考える。

本当の人望は無意識に培われる。
現場で懸命に働く者が指示とルールに従って無心に作業し、イレギュラーを即時に報告していれば、一日がつつがなく終わる。今日もミスや勘違いでうなだれるスタッフはゼロだった。
職場での最も貴い安寧とは、同僚や上司との楽しいコミュニケーションや無難で心にもない相槌やおためごかしやとりあえずの頷きなどの薄っぺらい人間関係ではない。
今日一日、課された自身の職責を全うした安堵と充実感に勝るものはないはずと信じている。

「センター長は無口で強面だが、もう慣れてしまった。
愛想はないが不機嫌というわけでもないらしい。かといって不遜で高慢で嫌な感じは全然
しない。たまに大きな声で誰かを誉めたり、小声で注意していることはあるが、だいたい
が事務所で座っているか、一日に何度か巡回するだけだ。」

そんな従業員の独り言が出る現場こそが最良なのだ。
だれも気付かない伏線の仕込みと先回りが人の上に立つ者の職責なのだと思う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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