「百舌鳥・古市古墳群」ついに世界遺産登録。
素直にうれしい。
すべての関係者諸氏のご尽力に心からの敬意と感謝をささげたい。
高校への通学は仁徳陵のわきを歩く経路が好きだった。
なんていうことを思い出しながら、事務所から見える仲哀陵のてっぺんあたりを眺めている。散歩がてら応仁陵まで出かけて、昼飯はそのそばで、、、祝い事に乗じてゴキゲンなので、食欲も増すというものである。
(機嫌がよくても、やはり今さら仁徳天皇陵を大仙陵古墳と呼ぶのは違和感だらけ。史実は尊重するが、なんだかなぁ~という感は拭えない)
が、なにはともあれメデタイ。
堺・羽曳野・藤井寺だけにとどまらず、大阪府全体にとっても益多いに違いない。国内外からの観光客増加や関連する各種イベントの開催数増加、近畿他府県の世界遺産や文化財、名所旧跡訪問などのツアーや催事企画との連動。その結果として、付帯して発生するさまざまな消費の増加が見込まれる。アリガタイことこの上ない。
昨年掲載した記事のとおり、古墳群が存在するエリアは大きな災害の直撃を免れる確率が非常に高い。あくまで素人が唱える結果論であり、地盤や活断層との関係や気象的因果の根拠などわからずに書いている。しかし、個人的にはなんとなく確信している。
古墳群エリア近隣は倉庫建設に適した場所の筆頭であると今後も主張し続けるだろう。
ただし造成に際し、「出てしまった」という表現が使われることの多い史跡の発見とその発掘から保存完了までの時間は不可抗力と認識する必要がある。考古学の発展に寄与するという点で、意義大きいことなのだ、と竣工延期を泣き笑いで忍んでいただきたいと神妙に申し上げるしかできない。
以下、他府県の方々には「?」という内容が多分に含まれると思うので、引き続きお付き合いいただく皆様にはその旨ご容赦いただければ幸い。
しかしながら、他人事・想定外だった大阪府下での物流機能構築を視野に入れ、具体的な選択肢の一つとするいい機会になるかもしれないし、本気で実行する際には一助となるはず。
地域の個別事情ではあるが、実は他地域に共通する事項も多いかもしれないので、ぜひお読みいただきたいと願う。
もはや港湾部で完全にオーバーフロアしている大阪の倉庫事情を認識しながらの追記は気が引けるが、やはり内陸部に位置する一定以上の規模を有する優良倉庫の建築は望まれるところだと思う。総数に占める立地の内訳バランスとしても、現状は不均衡であるし、荷主企業のニーズとずれている。
素晴らしい建屋と設備を具有する物件が港湾エリアで余剰となっている一方、内陸部に同等レベルの倉庫物件を求める「ないものねだり」状態の企業ニーズが減ることなく推移している。床需給のバランス以前に、立地のかみ合わせがずれている。だからこそ解消に向けての具体的な計画を求めてやまない。
加えて、既存倉庫建屋の空きが増加することも裏側の日陰現象として避けられなくなる。
中規模以上で比較的築年数の浅い建屋がもっとも割を食うだろう。
または、古いながらも単層か二層で床面積とヤードに余裕がある、かつて大手企業が自社仕様で建築した建屋なども空いてしまったら次がなかなか難しい。
倉庫屋的にはそんな建屋は「いい倉庫」なのだが、広さや階高が同等なら最新仕様の新築か築浅物件に分がある。そのクラスの倉庫を求める荷主は、コスト差が許容範囲に収まれば、多少高くても新しい物件に落ち着く。さらに付記すると、済証がない、、、つまり営業倉庫登録できない建屋が多いことも選択肢から外れる要因としてありがちだ。
では新興の数多いEC企業はどうかといえば、基本的には棚とパレット管理で用が足りるので、天井高はオフィスビルより多少高いぐらいで十分。リフトが縦横に走るわけでもないので、保管効率の歩留まりは高く、在庫ポジションも低い。ゆえに必要面積は少なく済むことが多い。一部巨大ECを除けば、ほとんどが100億未満の企業であり、物量も相応にしかならない。ヤードにしても40Fコンテナが同時に二本捌ければ支障ないし、出荷は個配会社の4tが何度かに分散して数台ずつという平常時。したがって広大なヤードは必要ない。
目の効く倉庫所有者なら、倉庫以外の利用形態を募集するか、スクラップして異業種の施設建築を考えるかもしれない。
先細ることが目に見えている倉庫経営に再投資するリスクを避けることは順当な選択だし、立地によっては業態変更するほうが好適なケースも多々あるだろう。
個人的には既存業者の3割はそうならざるを得ないと予測している。もちろん十把一絡げに括っての物言いではなく、立地によっては既存建屋をスクラップして新築する倉庫事業者もあるはずだし、ニーズが見込める仕様なら十分に成り立つ可能性が高い。
「立地によって」の一例として、以下の記述も参考にしていただければ幸いだ。
大阪府の倉庫立地の常套として「港湾なら南港エリア、内陸なら河内・北摂エリア」とされてきたし、現在も圧倒的多数の物流機能がその地域に集中している。
世界遺産登録予定の「百舌鳥・古市古墳群エリア」を現在の大阪府における地域表現に置き換えると「泉北・南河内エリア」となる。
大和川南側の東西に横たわるそれら地域は、道路整備や用途地域の有効な見直しなど物流インフラとしての基本的な要素の不足や、該当エリアの各自治体が積極的な誘致を行ってこなかったことが物流施設僅少地域となって久しい今の原因となっている。
しかし、その点を自治体やディベロッパーをはじめとするステークホルダーが改善すれば、他エリアに遜色ない施設提供が叶う。
立地の問題も、過去のイメージや偏見が勝っていること多大で、実際には高速道路の伸長・新設と幹線道路の拡幅整備は目覚ましく進んだ。
各企業の倉庫・工場部門が求める労働力の供給についても支障ないと考える。
該当地域の不動産相場は府下でも割安の部類であり、生活必需品の物価水準も低め。したがって子育て世代の数は多い。共稼ぎ世帯・二世帯・三世帯同居の比率が高いという表現でも適当なので、つまりはパート労働希望者の絶対数は当面維持されるだろう。
ちなみに、他府県にも共通する事項なので、倉庫選びの際には選定基準の目次にお加えになるべきと付け加えておく。
倉庫運営のイロハのイは、何にも先んじて「労働力確保」。
パート従業員の雇用に不利な立地は、それだけで送迎バスや託児所併設の要、相場よりも高い時給やその他の優遇条件の用意、が必要になること必至といえる。
自身の得にならない往復距離と通勤時間は短いほうがよい、と考えることは万人に共通する自然な感情。立地周辺の住民属性と行政サービスの実態、生活関連の商業施設の状況などは、倉庫躯体や内部の諸仕様以前に最も辛く判断しなければならない重要なポイント。くれぐれも不動産屋任せにはしないでいただきたいと声を大にして進言させていただく。起伏の少ない地域であるほうが望ましいことも見落としがちなので、付け加えておく。それにも複数の理由があるが、本記事では割愛する。
平成の時代は、人災と天災が多くの人命を奪う悲劇に幾度も見舞われ続けた30年あまりの長い期間だった。
物流施設も多くの被害に遭い、修繕や建替え、取り壊しなどの選択を迫られた。
地の底が生んだ地震。
地震が生んだ、海からやってくる水害。
海で生まれ、空から見舞う台風による風水害。
もはや沿岸・内陸の別、国内各ブロックの別、都道府県の別、自治体の立地エリアの別、などは「より安全が見込める」という基準を提示できなくなってしまった。穏やかな温帯性の気候変動だった国土の大部分が亜熱帯化しつつある。その上に、発生確率と被害規模が毎年甚大化し続ける地震予測。具体的な対処策は皆無のまま、危険と崩壊を叫ぶ声が大きくなるばかり。
過去の災害統計や分析は効果的な「次」のための施策の参考にならないのだろう、とやりきれない虚しさが募る。
ゆえに、古代から続いてきた甚大災害の痕跡が見受けられないエリアを、「経年的結果論に基づくハザードマップ」として認めるのも悪くないと考えてしまう。
悲観して、自棄になって、盲目的にすがっているわけではない。
東京をはじめとする国内主要都市の機能中枢部に大規模で強烈な自然災害が見舞ったら、現在の災害対策や準備・設備はほとんどが役に立たないだろうと思っている。
直撃を免れた周辺都市や、被災地から遠く離れたエリアでも、早晩機能停止の余波が次々にやってくる。物流拠点の分散を被災時のリスクヘッジ策として採用することに否定的な理由はそこにある。情報と物資の両面でその供給や制御の断裂と麻痺が続くので、結果的には副次的な被災者に全国民がなってしまう。国外の経済的関与国にも被害と影響は大きく及ぶ。
したがって、乱暴な言い方かもしれないが、「腹をくくる」ことぐらいしか、今現在のわれわれが具体的にできることはないのかもしれない。
悲観でも楽観でもなく、冷静に考えればそうなってしまう私の思考回路がおかしいのかもしれないが、具体的に説明できる代案が浮かばない。
古墳の周辺に倉庫を構えることは、先達が残してくれた知恵の継承。
そんなたとえ話を真顔でしたくなるほど、平成の災害は甚大だった。
令和の時代は平穏無事が続くことを願ってやまない。しかしながら科学的調査による予測は、そう信じ願うことがかすんでしまうほど具体的で数値根拠にも説得力がある。
「起こるだろう」は多くの人が発言するし、活発に議論される。
では「その時どうするのか」「指示系統と行動規範」は誰が指し示しているのか?
予言者や妄想家ではなく、科学者の提案を待つばかりだ。
他人任せではなく古墳の前で自問してみたいが、答など出るはずがない。
われわれはそんな環境の国で生きている、という現実から目を逸らさないことしかできそうもない自分を思い知るだけなのだろう。
それでもやはり物流屋としての職責を全うしたい。
回避・防御ではなく、対応・行動の仔細を物流業界は議論すべきなのだと考えている。
各種物資の保管場所であり、耐震性・耐火性と耐候性に優れた倉庫建屋を、有事の際に「避難スペース」もしくは「救急対応施設」への即時転用が可能なように、常日頃から計画と準備、具体的なシミュレーションの反復と実地訓練を行う。行政・企業・住民がそれぞれの役割を担い、縦の枠を外した連携を仮想しておく。
天災に見舞われた際には無力であっても、人間には再生や復興をあきらめない強靭さが体内に格納されていると信じている。その格納庫の扉には「希望」と記されているはず。
幾度となく甚大な被害で壊滅的打撃を受けても立ち上がってきた我々。
最も大事なのは皆が生きていること。生きていれば必ず復興できる。
できることはたくさんある。
それは今日からできる。
自らの足下から始めたいと思っている。
御陵のそばで生きる者としてのささやかな矜持である。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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