物流よもやま話 Blog

うちの倉庫はダメだよな【3】

カテゴリ: 余談

― 承前 ―

【商品部からの指示】

昨日の夕方に商品部の仕入担当者からメールが届いていた。
「X社***-01の販促協力添付品の入荷処理について」という表題の長い文章だったが、要は値引き代わりの添付入数を簿外処理するようにということだ。
同一品が11ケース入庫するが10ケースしか入荷処理してはならない。
入荷情報としては10ケース、その他入庫として簿外となる販売協力品が1ケースとして対応せよとのこと。第三者が聞けば「不正や混乱のもと」と口を揃えるだろう。

このような場合には、営業マターとして売上伝票か請求元帳で調整して処理すべきなのだが、なぜかそうならない。仕入が約定と異なっていたとしても、それが双方申し合わせての結果であれば支障ないはずだ。むしろ取引内情を原価区分に反映して簿外品を計上することは、出荷元との売買履歴確認時に補足や調整履歴といった副本的な資料の参照が必要となって紛らわしく面倒だ。
そういうことを回避するために、制度会計と管理会計の使い分けはどの企業でもイロハのイとして運用しているはずだが、うちはそうなっていない。営業原価と経営原価を額面通りに揃えるほうが煩雑で判りにくくなるからこその管理会計のはずなのに、だ。

営業利益率の設定は仕入添付品の多寡などによる原価率変動と切り離すべきだと思う。
仕入や営業の事業収益寄与度についての評価と判定は経営レベルで行えばよいのであって、部門同士が直接調整や測定する必要などないはずだ。
現実にその類のいくつかある「おりあい」の弊害として物流現場の業務にしわが寄っている。

社内の経営層や管理層からそんな指摘はないらしい。
したがって入荷で添付品があるたびに、総数を数えて1ケースだけ別によけるという作業後、10ケースのJANをスキャンして在庫計上し、ロケに運んで棚入れすることになる。
一方で、在庫計上から外した1ケースについては、「販促品・サンプル品 (SP)***-01」という文字列が1段目、「99」で始まる入荷年月日・メーカー品番の羅列からなる販促品用品番が2段目、3段目に専用バーコードが印字されたラベルシールを既存シールの上段に貼付して、専用バーコードをスキャンして在庫計上するのだ。
処理後の画面には「販促品・サンプル品」とあり、一覧表の「品名」欄には正規製品名が(SP)という文字付きで表示されている。同一添付品の先入荷分は別行にそのまま存在しているが、保管マスは同じなのに、在庫区分は別SKUとなっている。

出荷指示や営業が倉庫から持ち出す場合は、入荷日の古い順に開梱して必要数を取り出し、その明細と日時と所属部署と氏名を吊り下げのバインダーに記入する。
物流部では入荷年月と個数までを履歴として残すが、それ以降は残数管理不要の簿外在庫品が庫内に存在する状態となる。
営業部の担当者が持ち出そうが、出荷指示に基づいて物流部から出そうが、吊り下げられているバインダーにある情報がすべてであり「正」となっている。
毎月末にそのバインダーの手書き記入された表を商品部と営業部にファクシミリで送信する。
ちなみにだが、入荷数からバインダーにある明細を減じた後の数値と実在庫数が合致していることは一度もない。しかし物流部はそれを指摘する立場になく、営業や仕入からの要望もないので、見て見ぬふりのままとなって久しい。

入荷処理時に添付分のみ営業部へ移動させればよいのでは?と何度も提案したが、管理する者がいないという理由で却下されてきた。しかし、現状としても庫内で簿外品の残数管理を行っている者はいない。
ここに至るまでの過去に物流部で簡易なルールを提案したことはあった。
しかし、持ち出し時の手続きや処理の煩雑化や厳密化は、顧客への迅速柔軟な営業活動になじまないという脈絡不明の理屈でこれも不採用となった。

添付交渉を手柄としながらも約定原価以外の仕入台帳管理を避けたいという商品部の本音と、伝発時に細かい処理や確認をする手間を嫌がっている営業の怠慢の産物。
という内心に漂う不信感は、他社の物流部門やその他の関与部門から批判されるものなのだろうか。自分では正論と思っているものの、社外の常識や一般論で自社を測れないので口に出す自信がもてない。

営業は販促品の添付販売の際に、値引き処理するのではなく、別品番の原価ゼロ・売価ゼロ品として別行表示したいのだろう。結果として売上粗利率は通常の掛率のまま維持できる。
しかしそもそも粗利額は変わらないのだから、売上帳票上での粗利率の中身は容易く理解できそうなものだが、それは誰の口からも公式には出ない。
売上管理システムの問題なのかもしれないが、そこまで調べることは叶わないので不明だ。
そして何よりも、暗黙の了解として物流部が営業の諸事に口をはさむことは禁忌のひとつに数えられている。

さらには物流現場を苦しめている根深い問題がある。
それは仕入ロットや製品別入数の固定化だ。
記録を遡れる限り、定番品の中で最多割合を占める部品類の30000を超えるSKUについては、20年前から今に至るまで一箱当たりの入数や梱包内の数量は変わっていない。そして品番品名やバーコードの表示は外装に一か所あるだけだ。
つまり文庫本からトランプぐらいの縦横で数センチ程度の高さの小箱に100とか500、モノによっては1000単位の入数で指先程度の小さな部品が入っていたり、何種類かの長さ別にプレカットされた銅線やビニールケーブル、ワイヤーなどが円形にまいた状態で結束され、裸のまま30㎝四方の厚手ビニールの平袋に入数10とか20で詰め込まれている。
小さな部品を1個だけ箱や袋から取り出して別場所に置いてしまえば、それがどのSKUのモノなのかは一目瞭然とはいかなくなる。

通常入荷は支障なくこなせるが、問題なのは梱包時の誤ピッキング検出と誤ピック判明後の元ロケへの戻し、それから日々の返品再入荷だ。
誤出荷や在庫差異はほぼこの作業が原因となって発生する。
特に「返品再入荷や誤ピック品の戻し作業」時のミス防止は最大の難所となっているのだが、最も作業量が多いという重ねての不利がある。
「納めたのち、顧客都合で別サイズや別仕様の製品と交換」は日常的に発生する。
バラ数をPP袋に入れて納品したものが、ひどい場合には裸バラ状態や無記名の別箱や封筒入れで返ってくることなど茶飯事だし、その際に数が足らなかったり、なぜか増えていたり、複数品番の混入や他社製品まで混ざっていることも珍しいハナシではない。

返品時の段階ですでに在庫差異が起こっているのだが、そこで一個13円のワッシャーの補償を求める営業担当者などいない。「出荷時に不足していたのでは?」という逆ねじカウンターが顧客から飛んでくるのは目に見えているし、その言葉は営業担当者に直接投げかけられる。
たとえば上記の13円のワッシャーが、50個セットでPPの小袋にJANから品名品番、入数などの情報が印刷されたパッケージヘッダーでとじられているならどうだろう。
少なくても開封したのちの扱いと顧客側の「開けちゃったけど、返品交換してもらえないだろうか」という意識を持ったゆえの言葉や文面につながる可能性は大だし、返品交換の際には元の入数から欠けていないか否かの確認ぐらいはするようになるかもしれない。全部が全部解決できないにしても、現状の「返品交換はあたりまえ。その際の多少の誤差は次の発注で埋め合わせるから」という馴合いが生む典型的なだらしなさや、恒常的なトラブルやミスの抑止効果は期待できる。

また、庫内業務としても、ヘッダー部や出荷単位である小箱に印字されているバーコードをスキャンできるので、業務精度の維持は難しいものでなくなる。
製造現場のライン上で封入とヘッダー綴じや箱入れ・袋入れが完了している場合、その入数精度はほぼ100%となるのは国内メーカーの強みだ。万一間違いが発生したなら、その時の生産ロットすべてが間違いとなっているはずだし、出荷前の抜き取り検品で必ず引っ掛かる。
その正確さにはコストがかかることを誰もが理解しているに違いない。しかしながら、いざ「誰が負担するのか」のハナシとなれば風向きは一変するのが常だ。

業界大手の各企業では、歩留まりの悪化を吸収してでも小分けパッケージ化の導入を進めているし、EC販路ならほぼすべてがそうなっている。
単アイテム、単品での原価付帯コストの増加は販促費の置き換えと捉え、顧客維持や新規増加と購入回数や関連品目の追加購入の増益で吸収し、総利益を維持していると聞く。
市場動向に反応して、他社が環境整備と投資を行っていることはうらやましい限りだが、わが社ではそれを知りながらも踏み切る様子などない。

利は元にありというが、そのすべての利はお得意様からいただく。
その大切なお客様に誤出荷の迷惑をかけることは自滅への道。
ということは社内全員が理解しているが、原因追求と解決への方策を練る思考回路は常に決まり切っていて、現状を疑ったり、変えたほうがいいのでは?という気配は皆無だ。

個客便宜のために日夜努力を欠かさない営業部。
仕入れコスト抑制のために工夫と交渉に明け暮れる商品部。

にもかかわらず、誤出荷と在庫差異を是正できないまま、顧客クレームへの対応で営業部に足労をかけ、商品部の仕入努力による虎の子の利益を二度手間という追加コストでマイナスにしてしまうことの絶えない物流部。

これが部長会や経営会議での意見と認識の要約なのだとか。
「結果には原因がある」ということを順序だてて説明させてほしい。
しかし、それは私の今の立場では許されることではないし、理解して代弁する上席はいない。

- 次回へ続く -

【2021年4月28日追記】
本連載ですが、後半部を相当に加筆修正した内容で2021年2月1日からLOGISTICS TODAYにて14回の連載となりました。より読みやすくなっていると自負しておりますので、このあとはそちらをお楽しみいただくほうがよいかもしれません。

「うちの倉庫はダメだよな」第1回コラム連載

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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