物流よもやま話 Blog

速いものは美しい

カテゴリ: 余談

先週報じられた柔道家の古賀稔彦氏の訃報はとてもショックだった。
私も大ファンのひとりで、華やかな当時の柔道界にあってもひときわ印象的で魅せる技をもつ王者だったと思っている。
バルセロナオリンピック決勝は固唾を呑んで応援していた。満身創痍の彼が、金メダルを取った瞬間の感動は今も記憶に鮮明なままだ。「今まで生きてきた中で一番、、、」と言いたくなるほど興奮したスポーツシーンのひとつとなっている。
あまりにも早すぎるご逝去であるし、柔道界にとどまらずスポーツ界が失った「明日の指導者」としての存在は計り知れぬ。ただただご冥福をお祈りする。

古賀選手を筆頭とするスポーツやその他の各界で活躍する偉人たちに共通すると感じて止まぬことがある。
それは「何かが違うではだめだ。何もかもが違う、こそがプロの仕事なのだ」という言葉で、自身の仕事観にも強く作用し続けている。

雑念や比較検討のつけ入る隙など皆無――それほど圧倒的であることが玄人たるゆえんであり、そうあるためには絶え間なく修練と研鑽を重ねなければならない。
そして、圧倒的とは機能美や造形美にもつながるのだとも思っている。
速く狂いない諧調を伴った作業や連携は、素晴らしい成果を生み出すだけでなく、律されて整った美しさも兼ね備えているに違いない。
おそらくは無意識のうちに個々の背景にある物語性が排除されて、ただ単に「はやい」「すごい」「きれい」という単純な感覚以外湧きおこらない状態となる。
そんな状態をもたらす目前の対象物は、いつも美しいと感じさせてくれる。
かつて作家の村上龍氏が書いた「速いものは美しい」というエッセイにもあるが、圧倒的に速い競走馬は、その背後にある物語や諸物を思考から排除してしまい、単に見入ったまま感動だけを与えてくれる。似たような感覚はF1や世界記録が期待されるような100mダッシュのファイナルでも同様であるし、生産現場の無機質で一切の無駄がない各工程のいちいちについても同じだ。

われわれ物流人が目指すべき理想への階段の途中には「物語性の排除」という難所が待ち受けている。機械でもシステムでもない生身の人間が、作業や判断をよどみなく実行するためには、無駄や余剰が削ぎ落された業務フローと徹底したOJTが不可欠だ。
かといって、殺伐とした雰囲気や、スタッフが奴隷さながらに過酷な作業を強いられているといった観はまったくなく、むしろすがすがしさや清廉さに満ちている。
それをわれわれ物流人は「いい現場」と呼んで、常にそうあるように心がけるし、高みを目指して上り続ける。毎度書いているように「何も起こらない」という標高ゼロの頂上への到達こそが永遠のテーマであり、尽きることない努力の目的なのだ。

自分自身が携わった現場の完成度に満足したことは一度もない。
同時に諦めたり、妥協したことも皆無だ。
できたことよりもできていないことばかりが目につき、気になって仕方ない。

アマチュアは成功を数え、プロフェッショナルは失敗を数える。
そんな言葉をいつの間にか仕事の是とするようになった。

玄人のすごみは「できていないこと」への執念から生まれてくるような気がする。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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