40年来の友人が6人いる。
くされ縁としか言いようがなく、どいつもこいつも外見はきわめていかつい。
咬んだり吠えたりはしないが、短気で単純で言葉遣いが不自由である。
今やかなりおだやかになったが、見知らぬ他者から見れば相当にガラも悪い。
高校まで卒業したのは7人中2人だった。
全員が私の高校受験を励まし、応援し、協力し、ヤンチャの数々まで全部被ってくれたので、一番粗野でアホな私は大学までいけた。
「私の今」は「ツレ達のあの時」でできている。
しかしながらどう考えても、全員がいい歳をして往生際も素行も口も極めて悪い。
「全員」に私が含まれているか否かは黙秘する。
毎度うんざりするのだが、ツレ達とミナミなどの繁華街を一緒に歩いていると、必ずと言っていいほどおまわりさんに職務質問される。
7人が全員一緒なら「あぁ、そりゃそうかもしれません。仕事柄やっぱり見過ごせない風貌の団体ですよね」と、まぁ理解できる。
20m先ぐらいまで届くボリュームのガラガラ声が発する一昔前の泉北弁。
しかも面構えが追い打ちをかける。
任侠物のVシネマ主役や各種格闘技のヒール役みたいなのがおそ松くん状態で並ぶ。
知性と品格の塊である私の除菌消毒力をもってしても、悪の雰囲気を打ち消せない。
中坊の頃からずーっと続いてきた虚しい抵抗の繰り返しなのだ。
(私を除く6人は全員が職人系の親方仕事ゆえ一般の勤め人の雰囲気がないからなのか?)
しかし私を含め二、三人で普通に話しながら心斎橋筋やら千日前筋を歩いているだけなのに、やはり一度か二度はおまわりさんから声がかかる。「どうしましたかー?」と。
どうもしていない。
楽しく呑んで二軒目に向かう途中なのだ。
自動車修理工場のオヤジと割烹の大将と物流屋の三人が機嫌よく話しているだけではないか。
なにがいけないって、まず私以外の全員がオッサンとしてはかなりでかい。
177㎝・65㎏の私が一番背が低く細い。
あとの6人を並べると185~195㎝・100kg超の巨躯ぞろい。
今いくよ・くるよ師匠(いくよ師匠のことを想い出すと涙腺がゆるむ)の大好きな定番ネタ、「こんなとこから脚出して → 腕やちゅうねん」に相当するツレどもの腕は全く無駄に筋肉質で太い。ええ歳して何に使うのか?
「腰もギュッと締まって → 首やちゅうねん」に相当するツレどもの猪首は、重機の土台みたいな短くて太い筋肉ロール。イノシシが「一緒にせんといてくれ」と憤慨しそうだ。
昨年末のとある日曜日。
「早めの忘年会」で集まったのだが、毎年のだんじり以外では3年ぶりに7人全員が揃った。
今さら無理して会う必要もないので、先約があったり、直近に会った時の口喧嘩やおしぼりの投げ付けあいなどの記憶が消えない者は欠席することが常で、全員出席は稀である。
いつものように呑みながらグダグダ話していると、ツレの一人(Aとする)が私に向かって、
「おまえ、今どんなことしてんねん?」と問いかけてきた。
(私)「相変わらず物流屋や。内容は180度変わったけどな」
(A)「180℃っておまえ、、、アッツイにしてもツベタイにしても死んでまうがな」
(私)「温度とちゃう。角度や」
(A)「カクド?チョッカクみたいなやつか」
(私)「直角は90度やろが。その倍や。正反対という意味や」
(A)「なんじゃそら。ほな最初からそう言うたらええやんけ」
(私)「そいぐらいわかれや。おまえいくつやねん。孫が3人もおるんやろが」
(A)「そないなんわからいでも孫は生まれてくるがな。ほっとけよ」
そこに隣のツレ(Bとする)が割って入る。いつものようにヤヤコシクなってゆく。
(B)「ブッツリィヤって何語や?倉庫の仕事はやめたんけ?」
(私)「・・・やめてへん」
(B)「おっ!副業かぇ、、、発音的にはなーんとのぉアジア系の感じやな」
(私)「・・・・・・・」
(B)「おまえは中途半端に学があるからちょいちょい外国語使うしな」
(私)「・・・・・・・」
(B)「日本語やったらなんていうねん?」
(私)「ブッツリィヤとちゃう。ブツリュウヤ、や。ヤは八百屋のヤと同じや」
(B)「どーでもええわ。テンゴ言うな。せやから日本語やったらどやねん」
(私)「日本語や。キケンブツの物・リュウケツの流・ヤオヤの屋の三文字や」
(B)「あん?ほな大阪弁に通訳せえよ。だれがどこでそんな言葉つこてんねん?」
(私)「あっちゃこっちゃで飛びこうてるわ」
(B)「あっちゃこっちゃ?どのへんや?難波やら梅田あたりか?」
(A)「そらぁたぶんやけど、東京のハナシとちゃうか?」
(私)「・・・・・・・」
(B)「このへんの近所のハナシせんかい、このへんの。まだ東京かぶれしてんか!」
(私)「・・・・・・・」
(A)「ブツリュウってなんや?」
(私)「いろんな場所からいろんなモンがなんやかんやで目的地に届くまでの仕組のことや」
(AB)「・・・・・・」
(私)「人間の体でいうたら血管と血液みたいなもんや」
(AB)「・・・・・・」
(私)「ネットやらで何か買うたら品物が届くやろ。その仕組がブツリュウや」
(AB)「・・・・・・」
(私)「その仕組を考えて設計すんねん。わかるやろが」
(B)「頼んだもんが届くんはあたりまえやんけ。血管やら血は関係あらへんがな」
(私)「血管は例えや。あたりまえのことが、あたりまえにならへんことが多いねん」
(B)「なんでや?」
(私)「なんでもやっ!怒。ちゃんと話したら長なるからせーへんけど」
(B)「なんか知らんけど、ねむたいしめんどいことばっかりしとんねんな」
(私)「・・・・・・・」
(A)「血管と血の仕事やねんな。医者みたいなもんか?医者でもないのに」
(私)「・・・・・・・」
(B)「おまえ相変わらずややこしいのん好っきやのう」
(私)「・・・・・・」
(A)「そのややこしいのんをいわしたったら儲かるんけ?」
(私)「・・・たいして儲からへん」
(B)「ややこしいしめんどいのに儲からんのか?」
(私)「・・・そうや」
(AB)「なんでそんなことしてんねん?」
(私)「・・・・・・・」
(B)「おまえ、ボケてきたんとちゃうんか(AB嘲笑)」
(私)「おまえら、おもてに出たいんか?」
(B)「なにマジで怒ってんねん?めんどいハナシしたんはおまえやんけ」
(CDEF)「こぉらっ!おまえらもうやめとけや。せっかくの忘年会やろが」
(私)「・・・・・・・」
拙サイトには国内全都道府県、海外50か国余りからアクセスがある。
ご来訪者へのマナーとして、最下層育ちの昭和バージョン大阪泉北弁を極限までやわらかく加工し、記述内容も穏やかに変更したが、実際には書くに堪えない遣り取りが数倍あった。
私の悪友たちに限らず、物流なんて意識の圏外にあるものなのかもしれない。
「あたりまえ」のことをあたりまえにこなすために物流機能は存在する。
しかし懸命に努力しても理屈どおりに運ばないことが多々ある。
「ブツリュウってなんや?」という問いに、短く簡潔な返答ができなかった。
専門用語や10秒以上のグダグダした説明には一切の遠慮なく「なんか、ようわからんのぉ」と拒絶する相手に返す言葉を持ち合わせていない自分に気づいた。
物流とは何か?
5秒で言い表し、一行で記せるようになる。
今年の目標が決まった。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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