物流よもやま話 Blog

はじめての現場作業

カテゴリ: 余談

物流会社に入社もしくは一般企業の物流部門に配属され、最初の現場研修は何でしたか?
という質問をすれば、該当者のほぼ全員が即答で明確に返事をするのではないだろうか。
事の初めはそりゃもう一所懸命で真面目に無我夢中だったはずだ。
きっと、たぶん。

書き出しを違えるようで強縮だが、新鮮でもなく楽しくもなく無我夢中に一生懸命などとは程遠く、が私の現場初体験だった。
とあるレディスアパレルの棚卸作業の補助的な役割。
与えられた作業は、商品そのものではなく、なにやらアクセサリー的なビニール製の奇妙な物体のカウント。
巣箱といわれる紙棚のマスの中に詰まったモノをひたすらに手に取って数えてはかごに移し、総数をメモ紙に手書きで記入し、かごの上に載せるというものすごいOJTだった。
しかしその当時は業務フローやOJTに興味などなかったゆえ、「あぁ、めんどくせぇ」などと内心で毒づきながら、「間違いに気を付けて数取りなっ!」というリーダーの声掛けに、笑顔で「わっかりましたっ、親方」とスネークマンショーのような返事で面従していた。

私ほど現場作業に向いていない者はめったにいない。
そもそもが不器用極まりないので、細やかな作業にはすべて不適合者となるだろうし、その能力以前に気質がどうしようもなく不適格だ。
横着でいい加減。不真面目で無精。根気がなく、すぐにサボる。
と、書いていて「ホンマに最低やな」と他人事のように呟いているが、ほかでもない自分自身のことなのだ、と急に正気を取り戻したりする。
毎度毎度ながら、「やっぱり向いてないことしたらアカンで」と心底納得して、思考の起承転結を完成させるのが常なのだった。

適性と適正、という二つの言葉が浮かぶ。
適材と適所、と言い換えてもよいだろう。
物事の基本であるし、組織論や業務にあたり陣形を整える際にも必添の裏打ち事項だ。
「才能とは?」という問いの答えに「自分に向いていることを見つける力」という至言があるが、まさに人事の根本をなす本質だと思う。
大器晩成の早死、などの事態を招かぬよう、人の配属配置には細心の観察力と想像力が必要となる。

向いている仕事とそうでない仕事を比べれば、同じ努力の結果は大きく違ってくるはずだ。
苦手なことは、懸命に取り組んでも成果につながりにくく、得意なことならその逆となる。
しかしながら、本人が何に向いていて何に向いていないかを悟れないことが多い。
特に世の中に出る前、出た直後、人によっては仕事を始めて10年程度の時間、自分の適性が自覚できない。
一概には言えないにしても、周囲ははっきりと見定めていることが多い。
心ある上司や人事担当者、時には経営層にめぐり会えば、その人の歩むべき道とその目的地が呈示されるだろう。
表裏一体の事実として、他人に正しい道と目的地を説明納得できる人物は、その人自身も向いている仕事に就き、向かうべき方向を目指して、歩むべき道を進んでいる。
つまりは人材配置と育成の好循環が生まれているので、結果的には優れた組織となる。

最初の配属部署での担当業務には二つの可能性がある。
ひとつは向いている業務に就き、仕事の喜びや満足を得て、将来への自分自身に期待を抱く動機となること。
もうひとつは、全く興味ややりがいを実感できないながら、くじけそうな自身を奮い立たせるよう懸命に勤しんでみたものの、ついぞ前向きな取り組みや、達成後の喜びが想像できない事実を何度も思い知り、その作業や業務に絶望感を抱いて終わること。
配属の不首尾ともいえる状況と結果が続くなら、上司たる者が本人と面談すればよい。
「向いていないことを無理してこなす必要はない。それを肩代わりする者への尊敬と感謝、そして評価を忘れないようにすることで、次に向き合えるはずだ」
のような言葉が想い浮かぶ。

あきらめず困難や苦境に立ち向かい乗り越える様は美談や訓話として多用される。
しかし、その正論化している不屈の努力の要求が、多くの才能や意欲の芽を摘んでしまうことも事実だ。
穴に落ちて這い上がる物語を、這い上がれた者たちの成功談としてしか聴けず、途中で耳をふさぐ者がいることも切り捨ててはならない気がする。
無理に這い上がらなくても、横道から違う穴に移動してみれば、容易く地上に戻り、自身の道を往くことができる可能性は少なくないのだということを忘れてはならない。

初めての現場作業で、物流業務が嫌いになってしまった私。現場作業を体験して、それをもって物流を推し測ってしまった安直で浅い思考。
その結果、あれこれと現場から逃げ出す方便をひねり出そうとしていた。
もし現場作業と現場管理の違いや、その人員配置での適性基準にまで思考が及んでいたら、今の自分は存在しなかったかもしれない。

歩んできた道は、荷主との出会いや、その業務改善のためのさまざまな情報収集や分析、業務設計やコスト試算、月次や年次の目論見作成と予実分析。
つまり新規営業や業務設計監理だ。
しかし、もし与えられた立場が、最高の業務品質や人員管理、美装と合理性に秀でた庫内環境の維持と継続改善、を担う現場責任者だったら・・・
そして、そんな立場の自分は、自社の営業責任者や荷主の担当営業とどんなやり取りをするのだろう。
そんな「たら・れば」は詮無いことなのだが、今回のようなハナシを書いていると、茫洋とした想いが巡ることもある。

誰かのためになり、誰かが喜ぶ。
仕事の動機や理由はそれだけでいい。
自分に向いていることは、それを自覚できる仕事。

そう思えるようになったのは、ずいぶん齢を重ねてからだった。
遅まきながらも、現役でいるうちでよかった。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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