物流よもやま話 Blog

担当者の本気

カテゴリ: 余談

物流会社にいた頃、数え切れないほどの問合せや見積依頼を受けた。
でも過半の内容は決まりきっていて、中にはげんなりする内容のものも少なくなかった。
本来は「どんな内容でどんな文面や口調でも、問合せはありがたい」と感謝するのが優秀で正しい営業職だ。
しかしながら私にはそんな域に達することが終ぞできなかった。

感謝するだけならなんとかこなしたのだが、物流の場合は各種データなどの精査や確認のやりとりが不可避に追随する。煩雑で単調極まりない作業をつつがなく行うには、企業としての相性や価値観の近似がないと、相互のズレや誤解を修正できにくい。
そのやり取りの最初でつまずくと、後の修正はまず不可能となる。
問合せ元の企業規模や経営状態以前に、自社との組み合わせに無理がある場合は、できるだけ早く見送りの判断とその理由を添えた陳謝を伝えなけらばならない。
それゆえ初動を慎重細密に行うことを是としていたので、どうしても「見立て」と「見切り」にこだわってしまうのだった。

1)廉い運賃を探しています。条件次第ではオタクに仕事を出してもいいと考えています。

2)全部込みで1出荷〇〇〇円以内でできますか?

3)物流コストの見直しが経営課題。至急会社概要と取引先一覧、単価表を提出願う。

4)海外からの入荷品で明後日午前中までに検品が必要です。1ピース○○円で総数15,000。対応可能ならば明日10時までに見積の提出願います。
なお電話による問合わせはお断りします。遣り取りはすべてメールでお願いします。

5)保管料は坪計算ですか?一個いくらという計算ですか?
可能な限り高く積んで何坪になるのか?「一個いくら」なら坪計算より安くなる見積が出せますか?

のようなのが、困惑や不快を通り越して滑稽で失笑を禁じえない問い合わせの上位だった。
問合せの半分近くが「ん?」と読み返して、文意を考えなければならないものだった。
何よりも全社の全担当者が本気なのだ。
しかもなぜか追い詰められているし、ヒステリックであることも多い。
「問合わせは面倒だし、こんなやり取り自体が不本意なのだ」と明言しているメール文面や、要旨の定まらない内容を整理確認するためにかけた電話で、「あんまり手間と時間をかけたくない」と不快な口調に終始する相手も珍しくなかった。
こちらとて「内容的に手間と時間のかけがいがないであろう内容」と承知しているが、一応お客様候補であり、数少ない「お問合せ」なのだから、可能な限り相手の意に添うように努力しようと心掛ける。
しかしながら二度目無く音信不通となるケースが多いし、電話の会話中に「あっ、ちょっと切るね」と通話が途絶え、「ちょっと」は「ずっと」になることも一度や二度ではなかった。
今振り返っても、「願望は権利ではないのですよ」としかコメントできない。
本気で奇天烈なことを問合わせし、内容以前の問題で足踏みしているのは、単純に自分の会社の業務が理解できていないからなのだと思う。
ポイントを押さえた問いかけには、それなりの回答が返るものだ。
どの業界のどの企業でも。

上述した類の問い合わせに対する回答の具体は割愛するが、読者諸氏のご想像どおり、差し障りないものだった。
君子でなくとも危うきには近寄らない。

素人同然の「担当者」が物流を考えるからこんなことが頻発するのだろう。
やはり企業内に物流のプロは絶対必要だ!

我田引水。
悪しからず。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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