物流の仕事は地味の極致。
と、改めて書くこともないほど皆様がそう感じていることなのだが、内容についてはあまり知られていないようなので、今回のエントリーでほんの少しだが詳らかにしてみたいと思う。
意外にお感じになる向きも多いかもしれないが、物流現場はデジタル化の進んだ部門。
たとえば、データのやり取りにファクシミリは厳禁だし、電話での申し合わせだけでは必要十分ではなく、その後でメールによる相互の内容確認がルールとされている。
(そうなっていない現場があるなら即刻修正されるべき)
とは書いてみたものの、実際にはそうなっていない現場が多い。
「どっちやねん!」と総ツッコミがきそうだが、本当なのだからしかたない。
歴史ある名門メーカーや原材料商社などで目立つ。
デジタル機器は一通り揃っているが、仕事の流れが恐ろしくアナログで、一生懸命という名の出たとこ勝負を日常としている。本来は仕事の仕組みやルールを考えて設計する立場の人間までもが、作業や処理に追われているので、コントローラーや舵取り役が不在となっている。
しかしそれで毎日が終わるので、掘り下げて考えたり疑ったりすることはないし、おかしいと首をかしげることも今ではなくなってしまったのだろう。
仮に現状に疑いを抱き、いびつさや不合理な状況を憂いたり悩んだりすることがあっても、それを訴えかけることは自分の役割ではないと割り切る方が気楽。そもそも誰にどういう風に伝えればよいのかがわからない。直属の上司も似たようなタイプなので、相談しても無駄。数年前に前任者から引継いだ時にはすでにそうであったし、頼まれもしないのに自分から率先して行動する必要を感じない。
もし、先述したような会社の物流部員が独白したら、こんな内容なのでは?
などと勝手な想像で書いてみたが、まったくの荒唐無稽とも思わない。
データや指図・返信・回答などに未だファクシミリを常用している会社は少なくない。
ひどい場合には受注までファクシミリ。
その受信書類をコピーして、そのまま出荷指示に転用後、納品書のエビデンスとして同梱。
なんていうケースもいくつか知っている。
有名・大手・歴史・名門・老舗などの言葉を冠することと、中身の合理性や新進性は必ずしも一致しないということなのだろう。
字つぶれ、かすれ、途切れ、未送信・不受信、枚数不足。
送り手と受け手が同じものを手にしているか否かの確認は改めて電話で。
読者の中に当事者や該当する現場の企業関係者がいるとしたら、もはや苦笑している場合ではないのですよ、と申し上げたい。
ものすごい綱渡りを毎度しているのだと思っていただかないと困る。
実務のセミナー記事ではないので具体的な業務フローの指摘は割愛するが、情報管理の事前加工と送受信者双方の申し合わせでほとんど解決できる。
特段の投資や根本的な契約のまき直しなども不要。オフィス内にある既存の設えですべてまかなえるし、段取りは変わるが手間は減る。
そして何よりも「はやくてうまくてやすく」なる。
もう一つ付け加えれば「安全」になる。
やらない理由が見当たらないと思うのだが、いかがだろうか?
ファクシミリのハナシを書いたのは、それが象徴的な事例と感じるからだ。
現場でのファクシミリ、と同様の業務フローや作業手順がたくさん見受けられる。
入荷・保管・出荷。
最先端・優れモノ・ワンストップ、などの謳い文句で導入したWMSがファクシミリと大差ないことも多い。
「これがルール」「これがシステム」「これが仕事」と信じて汗をかいている現場の面々。
他所の現場では淡々とつつがなく進む業務が、自分の所属する倉庫内ではドタバタの連続で、冷や冷やしつつ一日を終える。
ひとたび業務のルールや流れになってしまうと、それを変えることができなくなる。
読者諸氏のご自宅を思い浮かべて欲しい。
ずーっと「使いにくいなぁ」「不便だなぁ」「邪魔だなぁ」などと思いながらも、家具や家電の配置を変えないままに何年も過ぎてはいないだろうか?
不具合や不合理はとっくに感じていたが、それを改める行動には至っていない。
「今日もそれで終わるし、大きな支障もない」
という事実が勝るからで、決してそれを及第だと感じているわけではない。
本当に困っているわけではないから、という表現でもいい。
例えばだが、社内からファクシミリの機能を撤去してしまったらどうなるのだろうか?
実務上でどういった支障が出るのかを調査して、書き出してみたとする。
「取引先の都合」「海外とのやりとり」などの状況的理由は認めず、メールで代替できるものはすべて切り替えたとする。
支障カウント「ゼロ」にならないのかなぁ?
が私の予想なのだが、いかがだろう。
「できない」のではなく「やらない」が実態なのでは?
は言い過ぎだろうか。
ファクシミリと同様、多くの物流現場には割愛したり撤去しても支障ない機能や手順や機器や什器類が散見される。
現場での作業を近視眼的に眺めていても、それらの不要・無駄・障害となっている対象は浮かび上がらない。
作業自体に組み込まれている付帯物や道具としての機器を、改めて切り離す観察や考察はとても難しい。
根本的で有効な解決策はひとつだけしかない。
業務フローの再設計を行うこと。
その際に、もし並列化されている作業工程があるなら、すべてを集約して直列化することも必須条件として加える。
新しい設計にそった業務フローとOJTが完了したら、倉庫の端に不要となった品々がいくつも並んでいるかもしれない。
属人化してる各業務を各スタッフがローテーションでこなせるようにするための「多能工化」も同時進行で徹底する。
総業務量(総工数)の削減と処理時間の短縮、結果として総人件費の低減、物流総コストの抑制もしくは削減が経営に寄与すること間違いない。
何よりも物流機能が簡素で単純化されるので、上下左右から見通しが利いてわかりいい。
違和感や不平不満が出るのは最初だけ。
長らく側弯していた背骨をまっすぐにしたり、不健康を助長するような悪い姿勢を正しく矯正したのだから、初めは痛がるし文句も言う。
しかし、そんな声や態度も時間が経つと少しづつおさまってくる。
理由は簡単。
「前よりも楽になっている」「簡単でミスの心配がない」「手数が少ないので集中できる」
などの実感が浸透し始めるからに他ならない。
断言するが、離職率は必ず下がる。予測ではなく複数の実例の結果から得た確信である。
貴社の現場では、何が背骨で何が姿勢にあたるのか。
そんなことを考えて、その先を思案することの意義は大きいと察する。
管理者を含め全員が、業務フロー再設計の果実ともいえる改善の実感を共有することが何よりも大切で貴いこと。
ファクシミリと同様、やってみる価値大ですよと自信をもって申し上げる。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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