物流業務の設計にあたり、私のモットーは、、、
と、書き始めて「ん?モットーって何語じゃ?」という素朴な疑問が生じた。
あたりまえのように使ってきたが、カタカナ表記の外来語か和語かすら不明なまま今に至ることに気付いた。
さっそく調べてみた。
モットー【motto】
(西洋の封建貴族が楯・紋章などに記した題銘)
行動の目標や指針とする標語、格言。座右の銘。→スローガン
とある。
英語だが、そのルーツはイタリア語であり、さらに追うとラテン語に源を発するらしい。
私は不意の「ん?」や「えっ?」や「あっ!」が多い。
会話や記述の途中でふと立ち止まるような「?」や「!」は日常茶飯事だ。
いい齢をして恥ずかしいが、いまさら教養のなさを嘆いても仕方ないので、その時の状況が許せばブツブツ言いながら都度都度に調べる。
一語を調べるうちに類語や対語に目が行き、それを調べてはまた別の言葉に、は毎度のことだ。
横道にそれたあげくに元の道を忘れてしまい、さっきまで何をしていたのかがあやしくなる。
なんていう不治の先天的スットコドッコイ症なのである。
というハナシを書こうとしていたのではなかった。
物流設計の際に最も意識して心がけるポイントを説明したいと思っていたのだった。
もったいを付けるような内容ではない。
「減らすより無くすほうがよりよい」というだけだ。
何を指してかといえば、
「情報」「工数」「手数」「脚数」「面積」「在庫」「差異」「錯誤」「時間」「文字」
「帳票」「画面」「道具」「什器」「備品」「会話」「重複」「属人」、、、
などがパッと浮かぶ。
当然ながら、ゼロにできるものもあれば、ゼロに近づける工夫を絶やさない、減らす努力を続ける、でよしとするものもある。無駄や余分に見えて、実は減らさないことが絶妙な仕掛けの要となっていることもあるので、あくまで原則論にとどまる。
その基本となるものが業務フロー設計と環境整備であることは言わずもがなだ。
物流責任者と現場管理者の仕事は上述項目への取り組みに尽きると言っても過言ではない。
自分たちが管理しやすく、業務効率が高く、エラーやミスが寡少な現場を維持するためには、まずは物流基本設計と付帯する業務フロー設計、相応の環境整備、全要素を確定させた後に練るOJTカリキュラムとルーティン確認。
いずれのパートもいきなり実施ではなく、二度以上の内容確認と欠落や不備のチェックを行ったうえで着手することが求められる。自己解答は間違い探しが難しいが、物流現場では責任者以外に答案チェック者がいない。自己採点力を培うことも技術のひとつに数えられる。
自筆の作文を何度も声にして読み返すに等しい作業は退屈で、集中力を維持するのが難しいことは承知している。
が、それを黙々とこなすことでしか仕上げの工程は完了しない。
玄人の仕事とは、地味で単調な反復と忍耐の上に成り立っている。
上述したとおり、何でもかんでも削減することはよろしくない。
物流は機能部門の典型なので、コストをいじると作業効率や品質に影響が即座に及ぶ。
特にデリケートなのは、人件費の「単価」部分だ。
人件費の削減額を何らかのグループで按分し、いきなりスタッフ個別の報酬に手を付ける。
なんていう乱暴で稚拙な行為は厳禁であることは今さら言うまでもない。
それについてはコストの実態以前に、現状の業務フローと付帯業務、業務区分別総工数と想定所要時間の予実。着地乖離が大きいなら、その理由と対応と効果。
まずはそれからである。
業務量を減らすだけでなく、いくつかの要素や経由を消除できればなおよい。
処理や経由自体が無くなれば、人員や時間やコストの測定・評価に振り回されずに済む。
あくまで一例だが、引き算ばかりでなく、別作業に何かを加えることによって、別作業の工数が激減もしくは不要になるということも多い。離れたマスに一つ置くだけで、手元までを結ぶラインが一斉に反転するオセロのような場面は、業務フロー改善の醍醐味であるし、総コスト削減に大きく寄与する可能性が高い。
着手前の告知も重要な手順のひとつだ。
管理者側で極秘裏に計画・試算して、会社決裁後にいきなり発表。間髪入れない個人別通知。なんていうのは物流現場管理選手権のヘタクソ世界チャンピオンである。
絶対の法則ではないが、少なくともいくつもの効果実績を得た方法は、全く逆の順序で公開して行うものだった。
業務フロー再設計についての起承転結とその後に起こることを現場スタッフ全員に告知する。
現状作業や手順の不自由やミスの予兆や捌きにくさなどについて忌憚ない意見や指摘を募る。意見を言わない、言い控えるを回避するため、エクセルなどで作成したアンケートフォームに直接記入後、プリントアウトして匿名提出。会社や管理者批判であっても一切の減点なし。
という趣旨を明文化して掲示。管掌する役員、現場責任者の署名付きならなおよい。
現場の「減」や「除」には、そこで働く者の労働時間と従量報酬の減少が伴う。
事業体のスローガンに理解・共感・納得、といった綺麗ごとだけでは済まない。
だからこそ隠したり、誤魔化したり、あいまいな物言いは厳禁なのだ。
告げられる者たちのいたみを踏まえ、告げる側は覚悟をもって改変に臨まなければならない。
事業安定のための最大の努力と冷静冷徹な判断のもと、一個人としての感情は胸中深く抑え込んで、関与者全員の我慢やいたみの負担を決定し実行しなければならない。
組織を統べる者の責任とは、ギリギリまで耐え忍んで守ってきた現状待遇を息絶えるように突然休止することではない。自己弁護が生んだ優柔不断と真の愛情をはき違えてはならない。
先に待ち受ける厳しい航路を見越して、極限まで浅く広い負担を冗長な説明や方便皆無で告知することこそ、矢面に立ち風雨に屈せず、責任を全うする者の採るべき選択なのだ。
海が荒れようが凪ごうが、全員が欠けることなく巡航し続ける船のかじ取り役は、厳しく冷静でなければならない。
深い情や思い遣りは言葉にせずとも必ず伝わる。
責任者は施策の結果以外で、業務上の信頼と敬意を得るべきではない。
物流機能の機械化や自動化は進む。
従来型の「品物に合わせて仕事をする」時代は終わりを迎えようとしているのかもしれない。
仕組や設備が稼働するような物品の仕様と規格が求められる。
そのルールや水準をクリアできない製造業者や流通業者は、既存の人・時間・設備・コストの中で物流機能を動かし続ける。
設備投資コストが負担できない自社倉庫も同様。
そんな需要を見越して、近いうちに種々の最新機器を備えたマルチテナント型の営業倉庫が募集を開始するのではないだろうか。
床の余剰による過当競争の渦から逃れるためにも、本来はテナントが負担すべき設備の一部を装備もしくは格安のリース提供する倉庫物件が増えると予想している。
人間の働く現場が小さくなってゆくことは、技術革新と気候変動の両面から不可避だ。
かたやで機械やシステムが苦手とする業務を担う必要性はますます強まる。
総稼動時間に占める機械クンの割合は増え続けるだろう。車の運転までもが自動化してゆく時代に倉庫業務が自動化できないはずはない。
自動車も倉庫も外部と一切のかかわりがなく、独立・孤立している個体ならば完全に自動化できるし、事故など起こりはしない。あるのは内部の不具合による自停止のみだ。
倉庫に入荷する物品の製造工場と出荷倉庫が機械とシステムの支配する全自動環境で、積込と運送、荷受・検収もすべて自動。返品再入庫の一連と、データ修正やそのタイミングは設備支配でシステム依存。
製造から物流に至る全工程の共通語たる統一されたマスターデータは絶対条件。
ならば人間は不要だろう。
手塚治虫先生に一時復帰頂いて、そんな物流世界をわかり易く画にしてほしい。
「その際には、なにとぞ私をアトムに。いやいや、もはやオッサンなのでお茶の水博士にしてくださいませぇ~」
と叫ぶところで昼食後の午睡から目覚めた。
夢の中でも私はいい加減なのだと呆れつつ、書き直す気力もないので、このままで掲載する旨、悪しからずご了承くださいませ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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