物流よもやま話 Blog

そんな事業会社はけっこうあるのです

カテゴリ: 信条

成功体験・実績列挙・経歴羅列――それは経年劣化・陳腐化・思考硬化の始まる場所。
「という言葉に目を背けたり、頭から否定してはならない労働年齢になっているのだよ」と自分自身に言いきかせること多いこの数年。しかしながらもっともらしいことを書いたり言ったりするわりには、依然としてまったく人間が練れないまま今年も誕生日を迎えてしまった。
「♪みんな悩んで大きくなった」と口遊むまではいいのだが、「♪おれもおまえも大物だァ」と開き直れぬままに、うじうじとひとり愚痴っぽくなっている今日この頃なのだ。

とはいえ、長い年月の間に緩やかな勾配や湾曲を描くように仕事観の変化があった。
その第一は「いいじゃねぇか、多少間違えても、鈍くさくても」である。そんな発言は仕事柄けしからん、、、という指摘は心得ているが、それなりの理由をもって是としている。

先月のとある日とある場所で、
「統計的には作業不効率かもしれないが、スタッフの労働不幸率はゼロにできそうだ」
という件を含む現場改善ハナシをしたら、共感や共鳴を表するたくさんの拍手を頂戴した。
話している本人は予想外のことであり、「えっ?」となってしまったが、すぐに喜びと感謝がわいてきた。私が相手をしているのは人間なのだという事実を思い知らされる刹那だった。

物流人の責任は、正確な業務品質を維持し実需に過不足ない仕事量を日々こなし続けること。
たしかにそのとおりだが、数ある事業機能に先んじるかのように物流品質至上主義となっている――という物流業務の異物感や異質感が数多見受けられることも事実だと感じている。
「物流部門は外が視えない者たちの集まり」という社内評価が常態化していたり、委託先の物流会社は物流業務の品質維持を「必ずしも荷主のためではなく、自らの物流技術の証左の具としている」といった気付きの声も少なからず耳に届く。

確かに誤出荷や在庫差異のゼロ念仏は、その念仏を唱えて幸せになるための準備や注文が多いことも事実だ。
「物流のゼロ念仏で幸せになりたいなら、いくつかの約束事と心構えをしっかりと守っていただけなばなりません。それなくして幸せになどなれぬのですよ。他の信者さん達も全員真面目になさっていますから、貴方だってきっとできますとも」
なんていう布教担当者の説明を真面目に聞いて、かつ額面通りに実行できるのは小規模で事業の組成要素が少ないEC専業ぐらいかもしれない。一定以上の事業規模である製造業や販路が多岐にわたる事業者なら、全部門協調・協力での入信準備は難しいのではないだろうか。
蛇足だが、お布施は決して安くないことも大人が算盤を弾けばすぐわかる。

物流を真ん中に置いたハナシだからこそ成り立っている理屈は多いが、事業品質各々に優先順位をふる際に、物流機能は枠外に置かれがちという「よくあるハナシ」を忘れてはならない。
つまり「物流は重要な機能だが、事業要素の順列に組み込んで考察するべきものではない」という聞こえの良い言葉が発せられるのだが、裏を返せば「物流はごまめ」という扱いとも見て取れる。つまり優先順位や議論の対象として常に議題化されないというわけだ。

いったいなぜそんなことになってしまうのか。
それは経営層に物流部門の経験者が寡少か、いるとしても極めて浅い知見しか持ち合わせていないことが数多企業の実態だからだ。特に経営上位者には物流経験者は皆無といって障りないほど、立身出世の道筋に物流部門は存在していないというのが世の常となっている。
逆に言えば物流機能に強い経営層が運営する事業体は、それだけで他社に比して特化している要素がある経営と言える。それがいかに競争力や事業の下支え効果を生むのかが不明なままなので、誰も着目しないだけだ。

〝 他部門の事業機能と連動しつつも、その関係性は常に利益相反し続けて緊張関係がゆるむことはない。したがって業務合理化のための要望も全部が全部認められることはない――そんな状態を堅持できていることを「強い物流を有する強い事業体」の旨とする。
したがって物流品質の突出やゼロ念仏への拘泥は、物流専横化につながる恐れ大なので、部門間の機能調整を経営層が横断して行うべし。特定部門の機能が肥大化や先鋭化するような事業機能の奇形化は禁忌である 〟

なんていう役員会や経営会議の議事録がある会社があればいいな、と思ったあなた。
ここだけのハナシですが、そんな事業会社はけっこうあるのですぞ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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