物流よもやま話 Blog

暮れの繁忙とドライバー不足

カテゴリ: 実態

長い疫災がとりあえずながらも収束。
各地各分野で「回復」や「再開」といった言葉が盛んとなっているが、戦争やら過剰な物価高やらが再起再興の意気に水を差すのはいただけない。
人間を苦しめる仕組は必ず滅びるとはいえ、今を生きている者にとっては、歴史の長い波動を忍耐強く待つような余裕などない。まさしく政治の出番だろうと思う。

思い起こせばコロナ前の年末に「あぁ今年はいい年だった」というほどの振り返りはなかったと記憶している。このブログを読み返しても取り立てての好事は見当たらない。
ただ疫禍や戦禍によるこれほどの世界不安はなかったはずだ。毎度ながら失ってからしか判らないのは、平凡の偉大さや平常のありがたさであり、その貴さを心底思い知る。

わが業界では「〇〇から□□まで4t一台出せませんか」的なトラック難民の声が運送会社にひっきりなしに届く、というのが年末恒例のバタバタ劇だった。
台数不足と高騰する特値運賃によって荷主の悲鳴が絶えなくなるのだが、それも12月中旬までのハナシ、、、というかつての風物的な事態が今年は復活するのだろうか。
この数年で廃業した運送会社も多いので、コロナ禍以前の年末繁忙が到来すれば、「車がありません」状態になるのは目に見えているのだが、はたして今年はいかに。

トラックが足らんと言えば、例の物流危機とかいうハナシが思い浮かぶ。
そもそもが2024年からの実施は2019年に決まっていたことなのに、開始間際になってから火が付いたかの如く「タイヘンだぁ」と叫び声をあげる行政や業界団体。
ネガティブ一辺倒でマッチポンプにすらなれないお粗末なあおり記事――ノストラダムス的存在となりたいのか?と呆れてしまうばかりの怪しく無責任この上ない各メディア。
実務を担う読者諸氏はまともに相手をしないほうがよろし。

今の状況を物流危機と呼ぶなら、似たような切迫感や慢性的な人手不足は大昔からあった。
近年の中長距離貨物便のドライバー不足を埋め合わせるために、よってたかって大騒ぎして、慌てふためいての行き過ぎた対処の果てに待ち受ける因果応報の顛末とはいかに?
その一例を知りたいなら、2021年から2023年半ば頃までの米国(特に西海岸の港湾部発便)における中長距離ドライバーの待遇変遷を調べればよい。
日本では同じようなことなど起こらぬはずだが、短期的な単眼視野による対処策が招いた悲劇は無残としか言いようがない。
市場動向と分析を冷静に行い発言していたアナリストやメディアも相当数あったが、日本にもたらされる情報は「ドライバー不足解消のために報酬が2~3倍に」などの極端な事例ばかりだった。今回の国内問題への向き合い方はそれらと同根同質であるような気がしてならない。

この件については過去に何度も書いて、各所で話してきたので手短にまとめる。
事業者は圧倒的に高齢化して後継者不足なゾーン、、、つまり中長距離便のドライバーの待遇改善を即時行い、腕のいいプランナーに求人広告を作成させて、広く長く露出する。
行政側は第一に大型車両の休憩施設の整備を高速道路と幹線道路で火急に着手。
特に既存のSA/PAで拡張が不可能な場合は、IC近辺にPA扱いの休憩スペースを設けること。
当然ながら道の駅でも大型専用の駐車スペースの拡張・新造を行う。

これぐらいでも求人情報に具体的な労働環境の説明ができるようになるはずだ。
他業種に比してずば抜けた報酬は現実味がないまでも、いわゆる世間並で労務管理もまともなら、ドライバー職への就業希望者は必ず増える。
国内の大消費地で個配業務に勤しむ人員は一定の確保ができているし、今後も需給関係は安定して推移するので心配無用。高齢化と若年層の就業不調によって絶対必要数割れの苦境が続いているのは、都市間や拠点間を結ぶ幹線輸送を担う職業ドライバーなのだ。
それをもって物流危機やら2024年問題と騒いでいるようなので、議論を絞って事の核心をつけばよい。あたえりまえだが簡単ではないし一朝一夕に安定・適当とはならないだろう。
「自動運転車両の実用化によって、、、」は待ち遠しいが、まだ数年先のハナシでしかない。
その間に今現在の「絵に描いた餅」の絵自体が変わてゆくような気がするし、食いたい餅も違ってきたり、、、のような気配も濃いと感じている。

必要な人手とその管理者たる人材が不足しているのは物流業界だけではない。
ゆえに今般の2024年問題を額面通りに受け止める必要もない。
「車はあるんだけどドライバーがおらん」というハナシは、各時代の荷主や物流屋たちが昭和の昔からずーっと耳にしてきた決まり文句のようなものだ。だからといって物流破綻したという履歴など皆無なのはなぜなのかを今一度お考えいただきたい。

実は系統立てた記録や情報集約がなされてこなかったので、人手不足による破綻危機を回避した方策の取りまとめがないだけだ。その時々に各社が各荷主と遣り取りしてきた具体を業界全体で再評価して取捨選択の後、実行すればよい。言うまでもないが「取捨選択」の肝は時間外労働の節制と無賃労働の排除である。
もちろん全部解決・三方よしとはならぬだろう。
ただ「モノが届かない」ことなど起こりえなくなる。正確に書けば「モノが希望通りに届かないこともある」「モノが従来の所用時間では届かないこともある」となる。
その状況を世間に周知して、常識化するには下記の手段が良いと思うが、他の方法論も大いにありだろうし、是非ご教示願いたいと思っている。

まず、荷主に「足らないドライバー年齢層の実態と今後の展望」を説明し、従来の所用時間を延長してもらう。つまり「時間猶予」こそが第一のキーワードとなる。
さらに人件費上昇に伴う労務費増分の実費転嫁を呑んでもらう必要がある。燃料代や高速道路料金については実相場のコスト転嫁が常識なので、その説明で足りる。
「書くのも言うのも容易いが、現実には簡単にゆかぬ」とやる前から腰が引けているなら、私が同行して補助輪となってもよい。
他業種はもちろん同業他社は何度も顧客のもとに脚をはこび、丁寧に粘り強く、真摯に正直に説明し続けた結果として、理解を得て継続可能な条件を取りつけている。
「やらない」を「できない」にすり替える者にありがちなのは、そういう事実から目を逸らし、自分からは一歩も動かず、世間を憂いて嘆くばかりという体たらくだ。
自助努力なしで他力にすがる先に何が待っているのかぐらいは見当がつくだろう。

あれれ、、、またもやハナシが逸れている。
今年の年末は街に賑わいが戻り、物流倉庫はフル稼働で湯気が出そうで、貨物車両は陸海空全部足らんのだぁ~、、、となればよいのに。
という正夢の先取りを書くつもりだった。

やはり年の瀬はバタバタして気ぜわしいぐらいがよい。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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