先月下旬、とある物流会社の庫内を視察させていただいた際に、現場設営のあれこれのハナシになった。
どの事業者も似たような悩みや面倒事を抱えているという感想は毎度のことなのだが、その日は庫内の無線化についてだった。
ほとんどの倉庫会社の社員諸氏なら経験があると思うが、各種機器を無線化するために広い庫内に何十メートルものLANケーブルを敷設して、適所ごとにルーターを設置する。
冒頭に記した視察先の物流会社もまさに同様だった。私も同じ経験があるのでその作業の中身や手間はよくわかる。
壁に近い色のLANケーブルをロールで購入し、天井か床と壁の取り合い部もしくは梁や壁面の継目などの窪みに沿って延々と配線する。大きな倉庫なら総長は100mをゆうに超える。
専門業者に頼めば安からぬ費用がかかる。あくまで建屋の構造次第ではあるが、作業自体はたいして難しくないので素人でもなんとかなる。もちろん仕上がりや段取りは玄人に比してお粗末だったり不細工であるかもしないが、何といってもLAN線とワイヤレスルーターの実費だけで済むのは魅力的だ。
壁面に大きな梯子(はしご)をかけてのケーブル固定作業からして、高所恐怖症の私にはとても手伝えるものではなかったが、下から一生懸命「がんばれよ」「足下に気をつけて」「もうちょっと上の方がいいのでは」などと応援と補助に徹していた記憶がある。ああいう作業は役割分担が大事なのだ。
新設の倉庫では無線環境の標準仕様化は珍しくないのだが、既設の倉庫建屋では、後付けによる敷設が結構な負担となる。しかし流行りの自動化や機械化などへの第一歩として、庫内の通信環境整備は絶対条件であるから、否応がなしに対応せざるを得ない。
――が、業者の見積どおりに組める予算などない。
――で、自分たちでやるしかない。
という流れで作業が発生する。
目にみえぬデジタル通信網の稼働は、倹約のための創意工夫と地道なアナログ作業なくしては実現しなかった、というハナシは読者諸氏ならうなづけるところかと思う。
「?」の方には、「貴方は恵まれた環境で仕事をしてきたのですよ」と申し上げる次第だ。
統計があるか否かを承知していないしあくまで想像の域を出ないが、中規模以上の倉庫の完全ワイヤレス化はまだ半数程度ではないかと思う。
よくあるのはLAN線がむき出しで、壁にだらーんとぶら下がっている様や壁沿いに床を這っている状態の現場だ。見てくれよりもまずはルーターを設置することでワイヤレス機器を使用できる環境にすること、という結果なのだろう。それも十分理解できるし、機能優先するのは当然のハナシだと思う。
かように現場は苦労している。
「更に時代が進んだら、われわれのような中小事業者はどうやって機器の導入をすればよいのだろうか。何でもかんでも入手したり、文明の利器を活用するための環境整備にかける予算は限られている」
といった会話がまだ生々しく耳に残っている。
設備にはその本体価格にもまして、設置や設営のための費用がかかる。
往々にしてそのコストは事業にとって重負担か諦めなければならない額であることが多い。
借入やリースでまかなうとしても、利益を得るために利益を削るという背反現実に経営者は苦しむのだ。当然ながら試算上の投資効果は「益」となっているが、直感的に「ほいほい契約して大丈夫なのだろうか?」という不安や迷いは健全な経営感覚だ。
私もたまに最新機器についてのコラムや使用レポートなどを書くが、そのたびに「素晴らしいが、このコストを負担する企業は手放しで喜べないかもしれない」と内心でつぶやくように感じることも少なくない。
時代に歩調をあわせるためのコスト。
競争に耐えるためのコスト。
人依存から逃れるためのコスト。
物流事業者や自社物流型事業会社の負担は重い。
そういえば、この数年間でもっとも私が気に入っている無線の利器はレーザー距離計だ。
安いものなら数千円だし、廉価モデルでも庫内の簡易作業なら十二分に有用だ。
かつて大型メジャーをガラガラ延ばしてグルグル巻いたりしつつ、「ちょっと曲がってないかぁ~」と庫内の両端から大声で確認しつつ計測していた時代からすれば、ものすごい進化だ。
もちろん相当前からレーザー測定機器は存在したが、いかんせん高額だった。測定を業としたり、建設関係でもないかぎりは、入手することなど選択肢の外だったはずだ。
私の愛用機は小型で簡易操作で使い出がすこぶる良い。
手許の道具とはこうあってほしいと願う次第だ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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