わが国で一定頻度の在宅勤務が恒常化することはもはや疑いないところだが、俗にいうエッセンシャルワーカーたちは従前どおり現場に出て働かねばならない。
言うまでもなくその中には物流現場の従業員も含まれているわけで、コロナ禍以前からの大いなる懸案事項である「現場のゴハン事情」については、ますます困ったことになっていると見聞きする機会が増えている。
物流業界で最も過酷な食事事情を抱えているのは、大型車両のドライバー諸氏である。
最難関の「トイレ」に次いで、食事場所の問題が解決できない原因はひとえに駐停車スペースの不足に他ならない。
食事するにも用を足すにも、まずは車を停めなければならないのだが、その場所が圧倒的に不足している。高速道路などのPAやSAでも大型やトレーラーの駐車できる区画数は十分といえず、それが一般道ならなおさらだ。
従って、職業ドライバーの多くは、走行ルートごとに数限られた駐停車ポイントのいくつかで休憩や食事などを済ませている。安全走行で神経をすり減らしているうえに、休憩や食事する場所まで不自由な労働環境は、行政主導で改善しなければならない喫緊の課題だ。
ドライバーの高齢化が問題視されて久しいが、若者から選ばれる職業にするためには、労働環境の基礎条件を整える必要がある。それでなくても神経も肉体も消耗する業務なのだから、せめて休憩時の食事やトイレぐらいは他業種以上に優遇されるべきだと思っている。
今やすっかり定着した「道の駅」だが、国土交通省は同じ要領で「働く車の駅」を併設もしくは新設する事業を進めて欲しい。高速道路のPAやSAのように同一敷地内に大型専用区画がある場合、一般車両の運転者は混雑時であってもどうか区画区分を守っていただきたい。
生活物資や工業資材を運ぶ車両があってこその個人生活なのだという理解をもって大型車両を眺め、時として優先してもらえれば幸いだ。
ドライバーの食事事情ほど窮屈ではないものの、物流施設内で働く者のゴハン事情は悪化の一途となっている。最近の傾向として、弁当持参者の数が増加しているようだが、健康志向や倹約のためといった動機ばかりではないと聞く。そもそも全員が弁当持参できるわけではないので、社食がない倉庫施設では購入持参か外食か、一時帰宅して摂るほかないのだ。
しかしながら、倉庫周辺部にあるスーパーマーケットやコンビニエンスストア、外食産業の撤退が後を絶たず、「外食したくても店がない」「お弁当などを買いたくても店がない」などの実態が浮き彫りとなっているし、その傾向は今後も続くと思える。
それは製造業の工場現場にとっても同じで、社食が用意できない施設では仕出し弁当や契約したキッチンカーで従業員の食事をまかなっている。
ゼイタク言いだせばキリがないとわかりつつも、「さすがにこの味付けは飽きてきたなぁ」という声は少なくないだろうし、勤務中の大きな楽しみであるゴハンタイムの充実を願うぐらいはささやかな欲望として罪のないところだ。
多くの事業所では、昼休憩は1時間となっている。外食や購買のための往復時間は少ないに越したことはない。しかしながら前述のとおり、周辺部から商業施設が姿を消してゆくので、外出しての飲食は無理が生じるようになる。結局お弁当が用意できない者は、出勤前にコンビニエンスストアなどの早朝から営業している店舗で購入持参するしかなくなる。
というハナシを続けて耳にする機会が先日あった。
コロナ禍や戦争に関するニュースに付帯して、生活品の物価上昇。せめてヒルメシぐらいは楽しんでもらいたいが、事業所所在地によってはそれすら叶わぬ実状に胸が痛む。
ならば昼休憩時間を90分にすればどうか?なんて考えたりもするが、そうなると総拘束時間が増えるので、反対意見が即座に上がるに違いない。
物流業界の従事者維持と増加には、高尚な命題以前に、人の営みにかかわる基本的な要件を満たす必要があるのだ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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