物流よもやま話 Blog

倉庫開口部の大小多少

カテゴリ: 実態

全国的に冷え込んできたこの数日だが、暖房設備の不十分な現場にとっては辛く厳しい日々の始まりである。
作業倉庫では可能な限り開口部を締め切って冷気の侵入を防ぎつつ、作業者には発熱保温素材のインナーウエアを支給したり、梱包や事務パートには足元暖気機器を設置して凌ごうとはしているものの、十分とは言い難いのが現状だ。

ついこの間まで酷暑の夏だったわけで、節電励行もあって自然通気、、、窓やドアやシャッターを全部開放――なんていうのはどこもかしこも似たようなものだったかと思う。
開けっ放しにすれば「ムシやホコリの侵入が・・・」と案じぬ現場管理者はいないはずだが、背に腹はかえられぬという状況が生んだ苦肉の策に他ならぬということは理解できる。

空調設備が備わっている建屋でも運転時間の短縮や設定温度の調整などで庫内の熱湿は増して耐え難くなったりする。(老朽化や馬力不足で空調があまり効かない現場も多い)
中途半端なオンオフ調節やデカくヘンテコリンな運転音の割には効きの悪い空調を見切って、開口部開放での自然通気と大形扇風機での通風に切り替えたという管理者も多かったはずだ。

最近の倉庫建屋は堅牢性増強のために外壁面の開放部が極少化されているものも少なくない。
したがって通気確保は設備機器に拠るか、大規模倉庫ならランプウエイに接続する建屋内通路とその路面に付設するバースからの通風に期待するしかない。しかし縦横か天井もしくは上階部の開口部への「抜け」が不十分な場合には、熱気と湿気は庫内に滞留する。
築年数の古い建屋にありがちだが、排熱装置や断熱処理が不足している屋根裏の輻射熱によって異常に高温化した上階部では、作業どころか立ち入った瞬間に生理的危険を感じる(我慢が過ぎると本当に危ない)ほどの熱暑となる。

開口部が大きく多ければかなり緩和されるが、そのような壁面積の少ない倉庫は「使いにくい倉庫」と評価されることは、業界人の諸氏になら言わずもがなのハナシだろう。
もし貴方が倉庫業務に馴染み薄いのであれば「ご自宅に風通しよく日当たりのよい納戸が必要ですか」と問われた住人の回答をご想像いただければわかりいいかもしれない。
保管や収納に一番必要なのは床壁の面積量であり、窓やドアはできる限り少ない方が納戸として優良である――という一般論と同じハナシだ。

窓は通気を恵んでくれるが、同時に直射日光も採りこむ。
太陽光の紫外線は保管物を変色させる元凶であり、外装の変色や棚収納物の日焼けは保管管理者の過失となる。従って倉庫業者や自社物流部門の人々は、窓に遮光処理を施したり、場合によっては板材を打ち付けて壁化してしまう。通気口遮断によって真夏の熱気滞留の度合いが増すことは承知していても、まずは保管効率や保管品質の維持を第一に置いた判断をする。

そうせざるを得ない事情は痛いほどわかる。
私も「そうせざるを得ない」と唇噛んできた過去を持つ者のひとりだからだ。
機械空調や大型通風装置の導入が経済的に叶わぬ現場では、休憩頻度と時間生産性の下方修正でしか作業者の健康保持に努められない。
業務調整とシフト変形対応が可能なら、酷暑期には早朝や夜間勤務による避暑策も有効かと思うが、出勤調整や割増時給など、口で言うほど簡単ではないことも心得ている。

自社物流倉庫なら空調設置は善処されることが多いが、営業倉庫となれば状況は悪化する。
床面積や天井高によっては億単位となる倉庫内空調設備の設置費用。後付けならばそのコストはむき出しとなって経営に突き付けられる。
多大な設置費用捻出の次には高額な光熱費を毎月計上しなければならない。
昨今のエネルギーコストの上昇はさらに追い打ちをかけるし、消費電力量抑制のためにせっかく大枚払って取り付けた空調機が開店休業状態の憂き目に晒されるかもしれない。
まさに八方ふさがり状態で泣きっ面に蜂の現況なのだ。

自社物流の場合、経費負担は重いにしても過酷な環境下で社員を働かせることへの忌避感情が勝り、無い袖でもふらざるをえないという経営判断がなされることが多い。
しかしながら営業倉庫の場合、設置コストと月次割増光熱費を顧客転嫁できるかといえば、即時かつ完全転嫁はかなり難しいだろう。
荷主の反応以前に、申し入れる側の倉庫事業者が「こんな値上げ通るはずがない」と自ら諦めてしまうことは珍しくないだろうし、値上名目を何にするのか?でいきなりつまづく。

運送事業者の運賃値上げにも多い傾向だが、当たって砕けるぐらいなら当たらない方が無難だ、という自己完結による消極思考がわが業界には蔓延している。
「ホワイト物流×ブラックコスト=平均的物流取引の実態」
なんていう軽口が、あながち的外れともいえない、、、のような現状を打破するためにも、業界団体と行政は荷主に向けて、さらに突っ込んだ行動を率先してほしい。
労働環境整備のコストも現場経費として認められる――という認識の共通化に官民こぞって取り組んでもらいたい。どこもかしこもシャチョ―以下「空調やらにかける金なんかないよ」と恨めし気に言うのは承知の上でのハナシなのだから、低利融資もしくは補助を厚くすることで設備投資の垣根を下げることに努めていただきたいと切に願う。

特筆すべきは夏季の長期にわたる過酷な高温についてである。
今後は「暑くてタイヘン」では済まなくなるような気がする。
生理的に危険なレベルまでの室温が日中だけでなく、深夜から明け方前まで続く。
工夫や努力では乗り切れぬ事態を前に、機械空調の導入は不可避となるだろう。

夏季の日中は稼働停止。夜間から早朝がフル稼働時間帯。
そんな倉庫が増えると思っている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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