物流よもやま話 Blog

ラジオ体操あなどるべからず

カテゴリ: 実態

散歩時に欠かさないのはかんたんな体操――というのがこの数年の定番となっている。
若かりし頃からウォームアップ時の体操やら練習後のストレッチやらが嫌いで、毎度サボり倒してきたくせに、、、と自嘲気味に独り言ちている。しかしながら、衰え鈍り続けるわが体にとって、軽めの運動・適度の負荷・無理ない柔軟体操は欠かせない。嫌々ながらも仕方なくの内心丸出しで、小学生のようにラジオ体操的反復ひねりや屈伸などに励んでいる。

そんな不本意で地味な日々を過ごすワタクシの今であるのに、かたやで「フルマラソン3時間台で完走」や「先週も○○岳山頂に至る2500mを踏破」など、華々しい同年代の人々のコメントを見聞きするたび、内なるネタミソネミや劣等感が湧き出てくる。ゆえにその手のハナシは見ざる聞かざる言わざるを徹底し、日常生活から排除するように心がけているのだ。
そもそも齢相応に弱ったり傷んだり衰えたりせず、アンチエイジング業界からの回し者としか思えぬ元気ハツラツな連中はタイヘン不愉快で目障りだ。健やかで穏やかな毎日を過ごすためには一定の距離を保つことが最善である。

というハナシはどーでもよい。
現場の高齢化は不可避であり、日本の人口動態と労働人口激減の現実に即した対処は喫緊。
単なる労働力不足という切り口にとどめるハナシではない、と何度も書いてきた。

50代から前期高齢者(もはやこの呼称自体が奇異に聞こえる)となる65歳あたりのゾーンをいかに戦力化するかは、自動化・機械化の普及と表裏一体となるはずという意でもある。
作業方向が一方通行で登録済み定型データの認識が原則の自動作業や自動識別には、それ以外のイレギュラー作業、目視や触感による判別業務をすくい取って捌く補完機能が不可欠だ。
具体例が知りたいなら、米国の三大小売りの入出荷と返品再入荷の連動状況やアジアの巨大製造業の返品業務、突発業務への対応実態を調べてみればよい。
返品物=廃棄物としない限り、ダメージ検品やリバイバル業務には人間の眼と指と判断能力が必要だと知れるはずだし、全体標準が適用できない出荷業務などでも同様である。

つまり「標準」として稼働している業務フローや作業手順だけでは往々にして販売の最前線に対応できない事態が通年かつ多頻度で出来する。
全部が全部そうと言えぬまでも、私の知る限りのカテゴリーキラーやパワーセラーの内部では特段珍しくないし、デジタルとアナログの融合した現場のほうがはるかに多い。
企業広報上の「見せる物流センターもしくは見せる階」でもない限りは、混在しているのが常だろう。もしくは自動化専用拠点とアナログ拠点を分離運用している事例も大企業では間々あるようだ。その場合、返品仕訳やリバイバル業務などは下請事業者に振り向けられていることが多い。

建前的やら一面的という前置きが付された拠点は徐々に減りつつあるようだが、それ以前に内需型企業が減少の一途なので、国内の物流事情は否応がなしに変わらざる得ない。
生活関連品のECなどは近年拡大の一途であるけれど、その他業態の国内販売額と付帯する物流業務量は縮小どころかゼロ化していることも多い。

企業としての総売り上げや利益の内訳を調べてみれば、日本国内における販売額は過半以下どころか、国別では下位であり、利益に関してはよくてトントン、往々にして赤字――のような内実は珍しいハナシでなくなって久しい。
海外子会社からの送金優遇制度もあいまって、頭数減少・消費縮小・公租公課漸増の母国よりも、勢いのある若い国々への投資と市場参入に勤しむ企業が増えるのはあたりまえである。
言うまでもなく付帯する物流機能も国外が主となるのだ。

誤解無用と断わっておきたいのは、悲観論的なハナシではない、という点だ。
読者諸氏ご周知のとおり、老人国にはそれなりの生き方があると言い続けてきたし、少子高齢化で内需縮小するのは理屈どおりの進捗であることに疑いはないはずだ。
ちなみに、先に栄えて先に老いた国々を眺めてみれば、どこも似たような状況となり苦悩苦慮苦労しつつも、今に至ってそれなりに存えている。
欧州の大多数の老人国では、社会保障維持のために、若年層に限らず年金生活者の可処分所得が減じ続けるというのも例外ない実態だし、内需維持や短期的拡大を化石資源か戦争特需以外で成し遂げている手品のような事例も皆無である。ワタクシ的にはそれらの国々を老人国ではなく老成国と表現するように心がけているし、わが国の目指すべき形のひとつに数えている。

戦後蓄えてきた無償や格安で使える社会資本の享受をもっと意識したらどうだろうか。
減り続ける年金とそれを補う少しばかりの労働報酬を加えた可処分所得で暮らしてゆく知恵や工夫に励むことで精神的健全を保てそうではないだろうか。気は持ちよう、というやつだ。
たとえば、
無償で使用できる公園や運動施設。
正確なダイヤと秀でた安全性で全国を網羅している鉄道網なら格安で移動可能。
修理修繕・整備費をかけつつ無償通行可能な路線を増やしつつある自動車専用道路。
(無償化の計画遅れに批判が多いことは事実だが、無償化後の維持コスト負担は懸案事項)
先進国屈指の清潔さと低価格を維持する飲食施設の数々。

海外からの来訪者たちが褒めたたえる「日本の○○」は少なくない。
ツーリストたちの称賛や評価によって、改めて気づかされることも多い。
国や経済団体の消費拡大や賃金上昇への掛け声を否定しないが、すでにあるモノをもっと正しく評価することも忘れてはならないとオッチャンは常々感じている次第だ。
人それぞれにそれなりの暮らし方で充足感を得ることは国民意識の成熟であり、国の弱体化や先細りと同義ではないと信じている。

という思いを抱きつつ、散歩時の「ちょっとだけラジオ体操」をせっせとこなしている。
遅ればせながらの間抜けな感想で恥ずかしいが、ラジオ体操侮るべからず、、、であります。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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