とある若い物流マンが「それは何ですか?」と怪訝な顔つきで私に尋ねた。
客先で篩(ふるい)に例えてのハナシをした際の出来事だ。よくよく考えたら彼の質問はもっともで、「篩に掛ける」という慣用語の元になった場面を目にしたこともなければ、篩という道具を使ったことも見たこともないのだ。
ウンチクや国語のモンダイはひとまず脇に置き、これからはフルイを水切りカゴや茶こしに置き換えたハナシをしたほうが事の本質が伝わりやすいと思った次第だ。確かに篩の実物が使われている建築現場など長年遭遇したことがない。おそらく今や希少道具となっているのだろうが、その実態を知らぬので勝手な思い込みで書いている。もし違っていたらお詫びする。
過去にも同じ中身のハナシを別のたとえで書いているはずだが、それがどの原稿なのかを特定できないワタクシのいい加減さをお許し下さい。
何が言いたいのかというと、フルイの上に残る人材が減るいっぽうだという嘆きと憂いと寂しさを禁じえない自身の心情についてである。
オッサンからジイサンへの過渡期にさしかかった身としては「ヤンチャでムチャをする若者がもっといればよいのに」と切実に感じて止まぬこの数年。自分の若い頃を正当化しようとか、行儀よく如才ない秀才たちにケチをつけようという意図はマッタクない、、、のだ。
摩擦や衝突で生じる熱量が上昇気流となった時代を生きたクソジジイの感傷は、閉塞と停滞の時代を生きる若者たちにとって冗長で迷惑な昔話でしかないと自重せねばならない。
ただ、だからこそ周囲の人々や拙文の読者諸氏には有難迷惑なハナシ承知で言い添えておきたいのだ。諧調こそが正であるという組織論を否定するつもりはないが、異音や乱調を許し聴いてみる人や場所があってもいいではないかと思っている。
なので、もし貴方が組織規範や慣例や定石とされるものに反発したり、逸脱したくなったり、絶望して逃げ出したくなってしまったりした時には、どうか一度だけジジイ手前ぐらいの年長者に愚痴と文句を吐き出してほしい。まともな大人なら、懸命に生きるあまり苦しんでしまう若者のハナシに耳を傾けぬはずはない。
たとえば不肖ワタクシなら大概のことを聞かされても読まされても、動じたり驚いたり呆れたり、ましてやわかったような顔で説教することなどないと断言できる。
なぜなら、おそらくきっと世の中のほとんどの若者達よりも仕事でつまづいてきたし、同僚にとどまらず上司ともぶつかったり言い争ったり、時には激して罵詈雑言を吐いたり、などを数多繰り返したゆえに問題児の典型という烙印を押されてきたからだ。だからいつまで経っても組織が用意した「篩の目」を通過できず、最後まで網の上に居残っていた。
網の先には綺麗な粒ぞろいの先輩や同期入社の面々が光り輝くように日々を過ごしており、融通の利かぬ厄介な気性や頑固な自分自身を恨めしく思うこと数え切れず。
しかしながら、不本意であっても面従腹背よろしく自制し、時には迎合して、とりあえず篩の目を通り抜けることはきっと最後までできなかったに違いないと今でも思っている。
生き方のモンダイ、としか書きようがないことなのだろう。
物流業務は誰にでもできる作業の集約で成り立っている。
しかし平易で単純な「誰にでもできる」ことを「誰にも真似できぬほどやる」ことは難しく、自分自身との約束を貫くための強靭な意志と忍耐が不可欠だ。
それは現場の専門職に限らず、統括する管理者にもなくてはならない資質である。
全体最適は平均的な粒ぞろいと同義ではないと思っている。
デコボコや個性豊かで賑やかな礫(つぶて)たちが、その角や尖りをギリギリぶつからぬように、時には擦ったり押し合いしたりしつつ、収まるべきして収まっている様相。
それを傍から眺めている第三者が他意なく漏らした言葉が「最適」や「調和」であり、あたかも「うまくまとまっている組織」として目に映るのだろう。
篩の上に残った大小さまざまで不揃いの礫たちが居並ぶ物流現場は魅力的であると思うのは私の勝手な思い込みなのか。まるでジグゾーパズルのように複雑でへんてこりんな形をした多数のピース達が枠内にすべて収まった時に現れる一枚の風景画に似ている、と重ね合わすのは無理が過ぎると苦笑されるだろうか。
個の強さや多様な性質が面となって動くときに、常識や平均を覆すモノが生まれると信じている私は夢想に過ぎるのかもしれぬが、それも「生き方のモンダイ」なのだと思う。
そういえばもうすぐサッカーのワールドカップ。
〝 it’s a question of honour 〟を念じつつ、カタールで戦う日本代表を応援したい。
もちろん個性豊かでクセだらけの物流人たちにも同じ言葉を伝えたいと思う。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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