アマゾンは置き配の普及を強烈に推進している。
はたしてそれが「サービス」であるか「やまれぬ事情」であるかの評価は立場や観察地点によって異なる。
受領者の便宜と発送者の合理性が相反しないなら「サービス」で障りないが、必ずしもそればかりではなさそうだ。
商売柄、会社宛・個人宛を問わず、ECなどでの買い物の際には、ありとあらゆる支払いや配送の選択肢に目を通す。そして、あれこれと組み合わせたりして一丁前に「個人的実験と検証」みたいな身構えで注文してみる。
その時々で多少は異なるが、変更や新種の有無を確認するのは以下のとおりだ。
送状の規格や貼付位置。
開梱時の緩衝材や充てん材の状態。
納品書や明細書、返品・交換についてなどが記載されたカスタマーサービス関連の書類。
その他キャンペーンチラシ、会員登録などの同梱物。
箱や袋類の素材と規格、梱包用テープ類の種類・厚み・幅など。
もはや配達物受領時に行う一連の観察は無意識のルーティン化している。
上述の「観察」は、商売柄というだけでなく、何かにつけて興味を持ってしまう性分が大いに作用しているのだと思う。
無論だが、置き配も選択可能になってからすぐに利用を始めた。
わが地域を担当する配達業者はJPとヤマト以外にも増えたので、その点も含め興味深く何回かの購買と受領を繰り返して、「私の置き配事情」なるものを観察してきた次第だ。
ちなみに結論めいたものではなく、現在進行中の「観察と考察」の途中経過の記述だとご理解いただきたい。
最大手であり最先端を往くアマゾンの事例を挙げてみる。
わが地域担当の配送会社は現在のところ3社(ワンマン配。大型・設置配は別)だと思われる。
そして置き配の場合、現時点(2020年2月中旬)ではヤマトともう1社が置き配の担当配達会社であり、JPは主に投函やプライムのお急ぎ便の中でも、最短がタイトに設定されている荷物などを担当している傾向がみられる。
(直近の受領数が30件弱と少ないので、統計的には信頼に足らない旨、ご了承願う)
いくつかのパターンで受領した結果を記してみる。
■最初から置き配指定 × ヤマト運輸
この場合にはいわゆる額面どおりにことが運び、特筆すべき問題もなかった。
■最初から置き配指定 × アマゾンデリバリープロバイダー
この場合にはいわゆる額面どおりにことが運び、特筆すべき問題もなかった。
■注文完了後、追跡可能状態になってから「置き配」指定 × ヤマト運輸
やはり問題ない。何度かあったのは、担当者の判断か会社の内部規定なのかは未確認ながら、置き配指定にもかかわらず一度はインターフォンを鳴らす。在宅していれば対面手渡しするほうが良心的であり、確実に配達完了できるということなのだろうか?
■置き配指定せずに月日・時間帯指定 × ヤマト運輸
今までと変わりなく指定どおりに配達。
■置き配指定せずに月日・時間帯指定 × アマゾンデリバリープロバイダー
なぜか置き配。アマゾンの購入履歴画面では、配送完了時刻が指定枠16時‐18時内の●時●分となっているが、実際に置き配されていたのは午前中。10時過ぎに外出のため事務所を出る際に、置き配に気付いた。
(類似事例多数。ひとたび「置き配」指定したら、以後は全部置いて帰るようになった)
さすがにヤマトやJPは乱暴な仕事はしないのだが、「デリバリープロバイダー」と一括りにされている配達業者は、
・アマゾンが購入者と交わしている約束事を守らない
・配達サービスの最低水準を満たさない
・虚偽報告と指摘されても言い逃れできない実態
などの問題点を抱えているようだ。(それが全体なのか事業者・担当者固有なのかは不明)
ちなみにネット上には類似・該当する画像や実例がたくさん挙げられている。
あくまで受領者側からの報告や言い分を単純に列挙しているだけのサイトが多いので、配達した業者やアマゾン側の事実認識や事情説明も聞いてみたい。
各事例への評価をすることが本記事の趣旨ではないので、これ以上の言及はしない。
ご興味ある方はご自身で検索されればよろしいかと思う。
ここで思い浮かぶのは、アマゾンと配達業者の関係の履歴だ。
たとえば、
佐川急便の撤退。
JPの本格参加と取扱量の急増。
ヤマト・JP以外の配達業者と新規契約。
ヤマト運輸の値上げ。
2000円未満の通常配達有料化。
プライム料金の値上げ。
従来の配送委託契約の順次終了。
置き配導入。(「試験的」という広報とは裏腹に、広域で常態化しつつある)
一部指定配達業者のルール無視とクレーム多発。
アマゾン・フレックスなる個人請負業者を中心とする配達者の加増。
全部が全部腑に落ちないまでも、「そりゃそうなるだろう」が正直なところだ。
個配では最大規模で最高のノウハウを持つヤマトがギリギリのところで品質維持しているのだから、その他業者の実情は想像に難くない。
私見だが、我々が評価しているアマゾンの配達サービスは、それに満点以上で準拠するヤマト運輸のサービスを評価してるだけであり、次いでJPに及第を付けているに過ぎない。
したがって、ガリバー2社以外が配達すれば、「それなりの結末」が頻発するはずだ。
ここでいう「それなり」はネット上で確認されればよいと思う。
ちなみに、個配大手に遜色ない配達サービスができるのは、中元歳暮やギフト品配達に長けた百貨店直系・専属もしくは指定の配達業者だろう。
たとえばPC直販企業の最終配達などを近年受託しているようだが、配達前連絡や荷扱いなどの点でおおよそ素晴らしい。
もっとも、受領者である購入者は「それなりの送料」を負担していることも付記しておく。
それなりの送料を得たからといって、配達品質が即座に向上することはあり得ない。
品質の高低は受領コストの多少と一致しない。
サービス品質を維持するための必要コストはあるにしても、それが高額なら高品質という等式が必ずしも成り立つわけではない。
不味い飯屋に3倍払うから美味いものを食わせてくれと頼んでも無駄であるように、技術やサービスに対する自律・自尊が生み出す品質は、金で買えるものではないと同じだ。
倉庫内業務と同様に「自律・自尊」は精神論では培われない。「たくさんもらったから頑張ろう」で上がるのは意気であって品質ではない。
合理的な業務ルールとその反復OJTによる確度維持の履歴が生み出すものだからだ。
もしも今、ヤマトとJPが撤退すれば、アマゾンの配送サービスは現在の水準を下げざるを得ないだろうし、すなわち「プライム」がプライムサービスでなくなる。
もちろんヤマトもJPもアマゾンから得る売上額からして、収支が見合う限りは撤退しない。
したがって今のところは、他社が引き起こす数々のクレームを、自社の立場保全や交渉の具として、世の中を眺めるブラウザーの「お気に入り」に登録しているかもしれない。
一定比率からは下がらない不在率、頻繁な変更連絡による作業追加、オートロックの建物への対応や置き場のない置き配指定住宅、日時指定受領者への度重なる不在通知。
二度手間や煩雑なやり取りに費やす労力と時間は、追加コストという身を削る刃となる。
額面どおりに配達ルールとスケジュールを組む自身の勤務する会社と、予定どおりに仕事をさせてくれない受領者に挟まれる配達担当者。
「とりあえず置いてくる」や「仕方ないので置いてくる」や「オートロックで中に入れなかったので、ロビーの郵便受け下に置いてきた」などで、車を軽くして帰社することに甘んじている実態は想像に難くない。
「配達完了率」という結果数値に支配される担当者の負荷は大きい。
戸惑いや罪悪感や憤りを抱きながらのルール無視や非常識行動、受領者の身になって考えることの放棄、など人によってさまざまだろう。
最悪なのは「もう続けられない」という疲弊や絶望感の果てに至る退職・転職や廃業・転業であり、それは業界の土台を沈ませつつ、根幹を細らせてゆく静かな負圧となる。
個人の資質や能力に責任をかぶせているだけでは事態改善するはずない。
そうせざるを得ない実情、そうしてしまう理由、を勘案の上、ミスやルール逸脱が「したくてもできない」仕組の策定する。
それこそが、経営層や管理層の仕事である。
毎度の決まり文句で強縮だが、「原因と結果は同時に出現する」という物流業務の本質。
今一度立ち止まって考えていただければ、必ずや明日につながるはずと確信している。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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