物流よもやま話 Blog

受注管理と出荷指示「わが社の線引き」

カテゴリ: 実態

読者諸氏に質問。
「貴社の受注管理と出荷指示は正しく区分けされていますか?」

回答の概ねは、
「当然である」
「正常である」
「そうであるから今日も仕事になっている」
などの類語が並ぶはずだ。
物流現場に関わる機会が少ないエライお方ならなおさらだろう。

ところが「正しい区分」自体の中身があやしい。
たとえば、
予約や欠品入荷待ちによって生じる「注残」「売り越し」についての処理はいかがだろう?

A社:在庫分のみ引当て、仮受注処理。欠品分入荷後に受注確定処理、出荷指示作成。
B社:受注完了。納品日空白の出荷指示。倉庫で入荷と同時に引当完了して、即出荷。

上記のようなパターンに大別されると思うが、貴社の実情はどちらだろうか。
ちなみにA社パターンは物流外部委託、B社パターンは内製型自社物流に多い。

書くまでもないが、物流屋ならB社パターンは出荷指示と認めない。
A社パターンにしても、物流業務を担う側は、出荷指示までの云々には一切関与しないし、斟酌する必要もないと切り捨てて然りだ。
必要なのは「今日の出荷指示」だけで、その他の情報は不要。
しかしながらA社のような “ 事情 ” を共有させられている物流会社や自社物流の現場は多いし、B社のような「ぜんぜんだめ」な実態も少なくない。
「ぜんぜんだめ」の中に更なる「もっとだめ」な区分けが存在することもあったり。
情報は川上で部位ごとに料理しなければならない、を痛感する典型といえる。

掲題のとおり、線引きの位置が往々にして物流現場の業務品質に大きく干渉する。
最終的にはコストにしわ寄せがいく。
原因となっている側も現象や結果に対面する側にしても、「こんなもの」と放置したまま業務が続いていることが珍しくない。
現状で特段の問題や事故は発生していないので、あえて手を入れる必要を感じないのだろう。
しかし出荷ミスの根本原因のひとつになっていたり、冗長で重い業務フローを取り回しながら対処していたりする。
潜在的なエラーの典型であり、修正してしまえば想像以上に現場改善の実感が得られる。
思い当たる点があるなら、即検証のうえ速やかな改変をおすすめする。

よく見聞きするが、他部署や他者の事情や能力論にまで踏み込んで考える人がいる。
「〇〇部にはこれをちゃんと処理できる人がいないから、仕方なくこちらで」
「何回言っても改まらないので、もうあきらめた。自分でやる方がはやい」
「やる気がない人に怒っても仕方ないので、黙って処理している」
「連携不全はうちの会社の悪いところだ。お客様に迷惑がかかるので私が…」
「毎回メールで丸投げしてくる。上司に言っても無駄だから我慢しています」
「引き継ぐ前からずっとそうなっているので、自分もそれに従って」
「おかしいとは思うが、これがうちの部署のやりかただと上長が言っている」
「〆後の追加・変更はFAXしますので、出荷指示の修正は物流でお願いします」

、、、なんか腹立ってきたぞ。
でも多いのだ。
中堅以上の大多数の企業の受注管理と物流事務のやり取りでは上記いずれかが当てはまる。
何がよくないって、優良企業に多い症状ゆえ管理層は特段「困ってない」し、それらの事務処理や業務区分の曖昧さで大きなトラブルや減収要因とならない限りは見て見ぬふりだったり、不問に付すことがほとんどだ。
「まぁ、たいした問題ではないだろう」
のつぶやきが聞こえてきそうだ。

一応ことわっておくが、過去のヒアリングで何度も出てきた言葉を挙げている。
そして結論から言えば「たいした問題」となって必ず増幅した状態で出現する。
物流現場に直接現れるトラブルやミスもあれば、思わぬところに大きな穴があくように形を変えて大事件や大クレームとなって見舞う。
原因が生まれた場所と結果が現れる場所が違っただけだ。
ただしその原因と結果は同時に生まれたのだとも言えるのだが。

不合理や非効率は無責任や無関心の畑となる。
芽が出たら摘み取って、掘りかえして処理しておかないと、必ず再度芽が出てくる。
その都度草刈りするのは結構だが、なぜ芽が出るのかを考えるべきだろう。
本来生えるはずない無用な雑草が、長年にわたり同じ場所に芽を出す。
誰かが種をまいているか、大きく育って実を結び、熟して種子を落としているのか。
そしてまた同じ場所に、、、

今一度お考えいただきたい。
「受注管理」とは顧客注文の情報を正しく処理し、納品までの段取りを滞りないように作成・管理することである。
「出荷指示」とは物流部門が顧客注文の物品を正確に納品するための情報であり、日々の出荷作業を計画する基になるものである。
「受注管理担当者」は当日分を定刻に締め切り、前日までの保留情報とともに「当日分の出荷指示」を期限時刻までに物流事務へ送信する。
「物流事務担当者」は当日分の出荷指示を受信し、それらを確認の上、プリントアウトの上キッティングして現場に引き渡すか、現場端末に情報送信する。

これ以外はすべて「イレギュラー」か「不備」として扱うべきだ。
その会社が無駄のない正確な物流業務を行っているなら、という但し書き付きだが。
「良かれと思って」「そうせざるを得ないから」「やらないと大変なことになる」
これらの言葉は発した本人が意図する結果とは反対に向かう動力にしかならない。

機能が部門化しているなら、それぞれの守備範囲は責任が伴う機能区分である。
各部門が自らの機能を理解し、責任をまっとうすることだけに注力すれば、部門間の業務混入や余計な手出しなど発生するはずない。
担当者が担当外の仕事をこなすことが常態化しているなら、それは完全なエラー。
守備範囲以外の業務に手出しすることが有能や善意や機転やおもいやりとすり替えられる過ちは排除するべきだ。
業務フローが整備され、各担当者の責任範囲が明確に定められているなら、その範囲から一歩も出ることなく仕事は完結する。
完結しないなら、それは業務フローか人員配置に問題があるからで、担当者個人に責任を帰してはならない。
管理者の着眼点や意識が変われば瞬時に解決することが大半であることも付記しておく。

全部門の全スタッフが自己主義を貫徹することで、全体最適の起承転結が整う。
「ひとのこと」を想う前に「じぶんのこと」を責任とこだわりをもってやり抜く。
本来ならそれだけで一日が終わるはずだ。

各部門の各人が「じぶんのこと」を精一杯にやり遂げる毎日を過ごす。そんな会社は、誰が何をどうやるかのメリハリが利いた素晴らしい業務品質を維持している。
想像の産物ではなく、実在するいくつかの企業を想いながら書いている。
チームプレイは個人の責任貫徹の集合体。
それは物流現場に限ったことではないはずだ。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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