物流よもやま話 Blog

庫内もヤードも疾走厳禁

カテゴリ: 実態

毎年の嘆きで恐縮だが、もう師走である。
とはいえ世間では“年の瀬感ゼロ”なので、時候相応の風情に触れることは少ない。
これでは坊さんが走り回ることもないだろうから、和風月名が有名無実になるではないか。

というハナシはどーでもよい。
前々から苦々しく書いたり言ったり、時として現場で罵声を浴びせたりしてきた「フォークリフトのスピード」と「庫内作業時の小走り」についてを懲りずに述べておきたい。

景気イマイチとはいえ今月はそこそこに忙しくなる見込みの運輸や倉庫の事業者は少なくないはず。そして年間でもっとも「業務事故」が発生する月でもある。
衣料雑貨など軽薄短小品を扱うEC倉庫内でさえ、売り上げ好調な事業者ならば入荷の頻度と物量が結構多い。この時期ならヤードと荷受場は昼過ぎまでバタバタしている。

繁忙に追われるうちに庫内外でのフォークリフト往来時の一時停止や走行速度への意識が散漫になりがちとなる。かたやでピッキングなどの移動が歩行から小走りや駆け足になってしまうのだから、疾走するフォークリフトと駆け足で動き回っている作業者が見通しのきかぬ死角となる場所で出合い頭に、、、は想像に難くないだろう。

従来の重厚長大型物資を扱うDC・TCならば、フォークリフトの数と稼働率は平時から非常に多いし、今月などはフル稼働状態でも追い付かぬ日があると思う。
「そんなことをわざわざ説明してもらわずともわかっている」
という読者の方が多いことは承知している。しかしながら、あたりまえのハナシと高をくくらず、初心にかえるつもりでこのまま読んでいただきたい。

以下は厚労省がガイドラインとして掲げている基本事項である。

1.走行速度は原則として時速10キロ以下を厳守
2.定められた作業エリア以外には許可なく進入しない
3.「止まれ」の標識では必ず一時停止(停止せずに徐行での通過は不可)
4.空荷時以外は基本的にバックで走行
5.運転席から離れるとき、長く停止する際にはエンジンを切る
6.走行中・作業中は携帯電話の使用禁止
7.積荷時・場内交差点・死角場所では指差し呼称の徹底

あえて書くが、上記を全部順守している物流現場など皆無であると思うし、拙者の携わったり見学した倉庫やトラックターミナルでも同じ感想しか吐けなかったと記憶している。

現場的には「そこまでやらずとも事故防止と安全維持には支障ないよ」という本音の声が多いことも承知しているが、「ワシもそう思う」とは立場的にうなずけぬ。かなり控えめに書いてみたとて上記の7項目全部が守られていない現場が過半数以上を占めているのではなかろうか――という疑念はずーっと持ち続けているし、立ち会ったり巡回したり視察してきた何百という現場では「7項目全部×」か「守られていない項目のほうが多い」だった。

そもそも庫内やヤードでの事故実数が誰にも把握できない。ましてや労災申請→認定にまで進む事例などほんの一握りに過ぎない。働きかた改革以来、物流労働市場が売り手優位に切り替わったこの数年来にいたって、“やっと”労働基準監督署への労災申請や相談件数が増えてきたようだが、事故発生数との乖離はまだまだ大きいと思える。

「フォークリフトの操作がものすごく達者なのに、解雇されてしまった若者」
のハナシを以前書いたが、今も現場実情はたいして変わってはいない。
庫内やヤードを20km/h以上のスピードで疾走し、急転回・急停止・急発進を「腕の見せどころ」と勘違いしているリフトマンはまだ多い。

公道での自動車危険運転と同様な事態を、「まぁこんなもん」と看過している管理者やその上席者は少なくないが、操作者以上に叱責と重罰が課されてもいたし方ないと言わざるを得ない。

本人や同僚たちは事故の当事者となるなど夢にも思っていなかっただろう。
事故が起こってやっと経営が動き、事業体が善後策を講じる。リフトにリミッターを装着したり、床面に標識を描いたり、ネステナーやラック角部に注意喚起の文言を付したり。

しかしながらそれでも事故は起こる。
それを他山の石として、フォークリフトによる人身事故や荷崩れによる荷主もしくは顧客の実損被害を招いた際の事後処理の詳細を見聞きしてみればよい。
営業倉庫・自社物流の別なく、事故発生後の監査ヒアリングに至ってやっと事の重大さに気付く、といった愚は回避いただきたいと切に願う。

実例を挙げるのは気が滅入るので本稿では書かない。
公的機関の公開事例をご参照あれ。
WEB上でもたくさん拾えるが、玉石混合ゆえに情報の取捨にはくれぐれも注意願いたい。

あたりまえの規範や抑制で回避できる事故やミス。
世知辛さ増すばかりの年の瀬ながら、人災たるマイナスの出来事は避けたいもの。
読者諸氏の声掛け励行を願うばかりであります。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム