物流よもやま話 Blog

検品のつらいハナシ

カテゴリ: 実態

今や「まれに」となってしまったが、庫内作業者にはものすごい検品技術を持つ者がいる。
まさに職人、プロフェッショナルとしてあがめられて、みたいなオバチャンやオッチャン。
私の記憶にあるだけでも数人の顔が浮かぶ。
これに関連するハナシを以前書いたが、流れるような手さばきを傍で目にする者は、凝視したまま時間が過ぎる、、、というのはあながち誇張ではない。

玄人の物流現場「この上ない」の正体

ただし、属人業務の極みとなりがちでもあり、管理者次第では「ぜんぶお任せ」となって、当人の孤立化や専横化の元ともなる。
なによりも過ぎた属人化は事業リスクの最たるもので、その裏側に潜む疾病休業や退職、高齢化などへの対策不備は排除するべきの第一だ。人材育成と人材活用は管理者の重要な仕事のひとつだが、放任と妄信、突出と奇形、技術と個性を取り違えてしまう錯誤状態は徹底的に監視しつつ、わずかでも兆しがみえたら即座に解消しなければならない。
その具体的な方法論は定番化しているので、教科書どおりの手順をもって進めれば、数か月後には歴然とした成果が得られるだろう。
そもそも特殊技能ともいえる検品技術が不可欠な商品品質に問題の根があり、そこを改善すれば品質検品自体が無用となる。ゆえに着眼すべき点は明確なのだが、物流部門から仕入や製造部門に情報提供と申入れができる健全な企業は意外と少ない。

さらに書けば、取扱品の品質改善を先送りにする企業は、総じて物流品質へのこだわりも少ないと評せることがほとんどだ。
商品の品質と同様に倉庫での保管状態や梱包、そして配達は、いずれもユーザーに直接かかわる要素であり、購入者が「販売者の根の部分」を具体的に意識する場面や具体となる。
たとえばSPAや小売なら、購入してもらうため、使ってもらうために会社を挙げての宣伝や工夫を行い、やっとのことで顧客に出会う。そして「手もとにお届けすること」「店頭に最善の品ぞろえや迅速で途切れない在庫供給」は、リピートや好評の口コミ、さらには紹介まで期待してやまぬ「理解者」「ファン」として囲い込みを図るための第一歩であるはずだ。
にもかかわらず、その場面に販売時の宣伝広告や接客と同等の熱意や誠意を訴求していない企業が想像以上に多い事実は不可解きわまりない。

新規獲得と固定客化は物販の基本だろうから、固定客化への第一関門となる「商品品質」を重視するのは当然だろう。
そしてとりわけECなら、購入品を手にしたその場面から、今まで端末画面で行ってきた買い物行為が立体化と具体的な知覚を伴って現実化する。配達時の約束事の順守や梱包状態の良し悪し、開梱時の状態、WEB上で確認していたサイズや色、質感や機能などの誤差が許容範囲内か否か?などである。
「売りっぱなし」「安かろう悪かろう」の事業者は淘汰されてきたはずだが、物流に関してまで踏み込んだ分析が付記されているレポートや解説は少ない。販売者も観察者も、そして他でもない購入者も、物流にかかわる要素の評価を冷静に切り離して行えていないのでは?と感じること数多。物流の実態を是正・改善する最有効手段は、購入者の生の声や潜在的な不満や疑念の取りまとめと、可視化の手段だ。顧客の反応以上の特効薬は事業には存在しない。
もちろんだが私見である旨、お断りしておく。

営業倉庫の場合は荷主の仕入に物申すことが出過ぎた真似としか受け取られない骨折り損になりかねないし、そこまでの信頼関係を築くには時間が必要でもある。
今は改善したと信じて疑わないが、ECの世界では経営者が「検品コストを支払うぐらいなら、配達後にクレームのきた相手にだけ返金や交換の対応するほうが安くあがって都合よい」と公言してはばからぬことが多々あった。無関係の第三者が聞けば苦笑しながら呆れはてて「へぇ~」で済むかもしれないが、物流を任される当事者となれば、従いながらもその企業の行く末を信じることができなくなってしまう。商品の品質にこだわらない事業者に未来などないことは説明不要だが、その類の新興ECが急成長して今に至っている事実は嘆息の連続でしかない。

ちなみにその手のECショップ商品を必殺検品人がまともに検品すれば、B品・不良品だらけになってしまう。(実際に試行した経験あり)
入荷品の約7割に何らかの不良個所があり、定番化しているにもかかわらずロットによって色目が違っていたり、ひどい場合には素材の質感が別物だったりもする。そして現場からそれを指摘してもやはり回答は「クレームになれば交換か返金で済ます」の一点張りに終始する―――というハナシの類似事例は山ほどあるのだが、いちいち書く気にはなれない。

こういう経営者風の人物は、ある意味先週の《勝負師風の詐欺師》よりも役者が上である。
なぜなら勝負している意識はなく、購入者への感謝や畏敬が皆無なので、行為自体に自省や疑問を抱くことはないからだ。
10の投資を15にして戻してくれる換金装置。

検品のこわいハナシ


その装置を社内では別名「お客様」と呼んでいる事業者はまだまだ多い。
クレーム内容とその顧客名一覧表を分析解説しながら「こいつらは・・・・・」と何度も繰り返す若い経営者、「文句言う人にはすぐに返金して、手間をかけない」と胸を張る社長殿の背後には、いくつかのECモールから表彰された賞状などが並んでいた。
その類のECショップはカスタマーレビューの評点が抜群に高いことも共通している。
これまた長年の疑問であるが、いまだその「理由」に確証が持てないままだ。

ここまで書いて、かなり気分が落ち込んでいる。
いい齢をしているのだから、世の中の酸いや甘いは併せて呑めよ、と自責に近い思いが湧くのだが、やはりダメなものはダメだと融通が利かない自身が恨めしい。
総コストに「品質」の金額換算値を加えることは当然だと信じて止まぬし、「信用」や「安心」がもたらす無形の利益こそが企業の明日を約す根拠となるはずだ。
なのに、、、

と、うなだれてばかりでは読んでいる方も気がふさぐ。
次回は「すごいハナシ」も書いてみたい。
「こわいハナシ」「つらいハナシ」に比して少ないことは確かだが、いくつかの企業が思い浮かんでいる。
乞うご期待、、、というほどの中身なのか?
そんな一抹の不安を小声で言い添えておく。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

最近の記事

アーカイブ

カテゴリ

お問い合わせ Contact

ご相談・ご質問等ございましたら、
お気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォーム