物流よもやま話 Blog

通信やシステムがダウンしたら

カテゴリ: 実態

ちょうど三年前の今頃、わが家の光回線工事が「内部エラー」とかいう不誠実で不可解な説明のもとに延期され、スマホしか通信手段がなくなったことがあった。
ネットについては支給されたモバイルルーターでまかなったものの、馬力不足感は否めずまどろっこしかった。そのうえにテレビが映らないのは不自由極まりなかった。

インターネットへの依存度を痛感した出来事だったが、かといって「同じようなことがまた起こったら」という前提での善後策を講じたわけでもない。
水道光熱同様に通信は今やインフラとして生活の基盤となっているのだから、個人がチマチマ危機管理しても詮無いことだと割りきっている。
たとえば、わが家はオール電化なので、停電すると自宅内の全機能がダウンする。
その際にはジタバタせずに、車で冷暖をとったりテレビを観たりするしかない。風呂は停電エリア外のスーパー銭湯で済ませることになるだろう――これはこれで楽しいかもしれん。
なんていう軽口まじりの行にしても、三年経った今だからこそこう書けるわけで、被害被った当時は相当イライラ憤慨し、やがてグダグダ嘆き、そのうちグッタリ消沈していた。

個人生活でも回線ダウンは相当なダメージなのだが、物流現場で通信やシステムがダウンしたら、いったいどうなるのだろうか、、、どうなるかを知っているうえで書いているわけだが。
入庫作業は着荷なり、在庫計上と棚振りは原状回復後。WMSダウンぐらいならなんとかできそうだが、受注管理からダウンしているならお手上げ。つまり現場が止まる。
通信回線のトラブルならまだしも、上記のごとく基幹システムや直下の受注管理あたりのトラブルならデータの引き抜き自体が難しくなってしまう。
そうなると顧客から発注情報を提供してもらい、待ったなしの出荷だけをなんとか捌き、日延べ可能な注残は復旧後に回すしかない。
――のような場面が過去に何度かあった。回線不通なら事業者側には不可抗力なので、ペナルティや平身低頭でひたすらお詫び、という状況にはならないが、自社システムや物流委託先のトラブルならば、顧客への謝罪や、場合によっては補償問題にまでハナシは及ぶ。

昨今では事業継続計画(以下BCP)整備が進み、災害やその他トラブル発生時への対応策と行動具体が明示されている物流現場が増えてきた。
――というのはあくまでメディア上や公開セミナーでの建前であって、現実にはBCP普及度は全然低いままだ。建前記事を書いている本人が言っているのだから間違いない。
建前が無いと本音の中身が前向きに進まないのでいたしかたないのだ。

立派で充実したように飾り付けられているBCPや実運用(BCM)についても、絵空事と切り捨ててしまいたくなるようなお粗末なモノが散見されるのは苦々しい限りだ。
物流会社やディベロッパーのBCP・BCMに対する精密な検証やテストもなく、まさに「渡りに舟」とばかりに自治体が乗っかってしまうアライアンスが多いようだが、有事の際には初動で機能不全に陥りそうな気配に満ちている。
災害発生時の状況想定を過去の実例からデータ転用して、策定されたBCPを試稼働させてみればすぐに不備や不全の部位が判明するはずだ。ありがちな「点」ごとの堅牢性やインフラ持続機能ではなく、各点を結ぶ動線や、地域全体の事後対策を踏まえた「面」での行動計画が即座に機能するようになっていなければ、堅牢な物流拠点は荒野にたたずむ方舟でしかない。
方舟に求められるのは、事業機能維持ではなく、有事想定の物資備蓄と被災者の収容であり、非常時の電源や通信の確保は災害対応に供与されるべきだろう。

そのいっぽうで、見目麗しい立派なBCPなど用意できないが、停電したり回線不通の際には「オールアナログでやればいい」とはばからず言える現場は少なからずある。
今や後期高齢者かその手前の超ベテランの力と知恵を受け継いでいる幹部層や中間層がいる中小倉庫は結構残っているのだ。
いざとなったら「なんとかする」物流屋はあちらこちらにいるはずだ。
「それはワシじゃぁ~」と小鼻膨らませているオッチャンやオニーチャンの後ろで手ぐすね引いているのは、ベテランのオバチャンやその予備軍たるオネーサン達かもしれない。
有事の際のパートさん達の踏ん張りや気概には目を見張るものがあり、不肖ワタクシも何度となく助けられてきた。読者諸氏も同じだと思う。

「通路をノロノロウロウロすんな。邪魔じゃ、どけ!」
と叱られているのはAI搭載のAGV君たち。
ハンドリフトや台車を押している蔵人たちの威勢良い声が庫内に響く。

という夢想もたまには悪くないと思うワタクシであります。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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