物流よもやま話 Blog

大雪と交通停滞と電気自動車

カテゴリ: 実態

12月半ばを過ぎて、急激に寒気が強まった。新潟では短時間大量降雪によって高速道路や鉄道が止まり、幹線道路ではスタック多発。特に雪中で長時間の立ち往生に巻き込まれた車両では暖気維持と飲食物確保、そしてあまり報道されないがトイレの問題は深刻だったはず。
当事者同士の協力以前に、拙速を厭わず行政が即座に身を乗り出して救援出動しなければならない。今回のように自衛隊への出動要請は躊躇なく実行してほしいと心底願う。

それにしても、、、国内屈指の雪国である新潟でさえ対応が後手に回るような短時間降雪。
夏季の線状降水帯と同じく今回のような大雪にしても、気象レーダーとカーナビ情報の連動による危険警告や予報の汎用化を急ぐ必要があると思うのは私だけではないはずだ。
山形県の株式会社いそのボデーという企業のブログがとても参考になるので、読者諸氏もご一読されてはいかがだろうか。実体験に基づいて、有用な車内常備物を挙げられている。

2020年12月16日 新潟豪雪による”立ち往生の体験談”
https://www.isono-body.co.jp/story/2020/12/18/post-2573/

記事は二年前の同時期同地域の出来事なので、今回の雪害の振り返りにも役立つはずだ。

あれこれ考え想像させられた次第だが、もし自分自身が気温氷点下の雪中立ち往生に巻き込まれ、乗車している車両がBEVだったら――という想定場面が脳裏に浮かんだ。
低温によるバッテリー残量の急激な低下は、一酸化酸素中毒の心配無用と引き換えに機能停止による車両放棄と停滞解消時の他力移送、、、つまり自走不能リスクをもたらす。
誤解なきよう追記しておくが、よく言われている「EV凍死」のような極論にはまったく賛同できない。まだ少数派でしかないEV先駆者が備えている予備知識やEVの弱点に先回りして危険や災難を回避できる‘意識’が低いうちは、リスクが高いというハナシをしたいだけだ。
もし立ち往生の現場が市街地ではなく山間のような電源不在の場所なら、追加充電はほぼ無理である。JAFでもBEV車両への充電ができる特殊車両はまだ未整備といってよいし、そもそも立ち往生の車両が妨げとなり現場にたどり着けない。ガソリン車なら小さな手動ポンプがあれば、付近の別車両から燃料が分けてもらえる。

この数年で飛躍的な進化を遂げつつあるEVバッテリー性能には一定の信頼を置いてもよいと思っているし、充電設備の増加も堅調だと感じる。つまり環境整備は捗っているのだ。
しかし順風を背に自動車総台数に占めるBEV比率が上昇してきたら、現在の「意識高い系」以外のEVドライバーの比率も上がるだろう。
もし先日の新潟での立ち往生の車両の五割がBEVだったとしたら、電池残量切れによる車両外への避難事例が一酸化炭素中毒以上に報告されたかもしれない。

もちろんガソリン車でもHV車でも燃料が切れれば同じなのだが、残時間の下降線が相対的に緩やかで、予測に一定の確からしさを持てる。経年後のEVバッテリー(特に5年以上前の型)の残量低減は低温下ではあまりにも急激で、常人には残時間の予見が難しい。スマートフォンのバッテリーが経年劣化し、寒い日には残量の減りが速いのと同じ理屈だ。
氷点下での立ち往生のように非日常的な過酷な気象条件下での残量予測なら、想定外のバッテリー消耗速度はなおさらではないかと思う。
メーカー側でもそんなことは十二分に心得ているので、電池容量拡大と経年劣化の改善、そして低温対策なども着々と講じつつあると聞く。
読者諸氏にはくれぐれも誤解なきよう願いたいのだが、ここでEVと内燃機関車両の優劣を論うつもりはなく、自分自身が見聞きした現段階での事実を書いているに過ぎない。
つまりEV推進派を否定しているのではないという意は重ねて書いておく。
論じたいのはバッテリーの性能云々ではなく、次の段落以降のハナシである。

言うまでもなくHVやPHEVにしろ、トヨタのFCEVにしても、電動モーターが補助するもしくは主動する車の台頭は時代の流れとしてもはや止まらないだろう。しかしながら数年来問いかけ続けているように、バッテリー性能の向上とその製造サイクルの完結性、充電施設や住宅への設置といった整備がはたしてバランスよく進捗しているのかといえば、必ずしも肯けないのではないかと思う。さらにはEV化を約束するための電力需給は現段も近い将来もひっ迫では足りず、完全に不足しているというのがあきらかだ。
つまり「電気がない」という事情は黙殺に近い状態のまま、来るべき未来のハナシが拡がり続けている。再三書いてきたとおり、現在停止している原子力発電設備を10基ほど再稼働させても、「EV化がもたらす未来」の電力需給が満たされる確約などできないようだ。
詳しくは門外漢の私ではなく、エネルギーの専門家の発言や記述をご参照願いたい。

物流屋としては、エネルギー問題同様に、EVバッテリーの廃棄もしくは再生という問題を憂いている。科学的な専門知識はないので、再利用や廃棄後の処理手法については素人知識の域を出ないが、EVバッテリーの中身は消防法上での危険物に該当するという事実は無視できないはずだと提言しておきたい。
つまりEVバッテリーは正規の危険物倉庫で順法保管の義務があり、その場所や建屋も厳密に消防法と倉庫業法で規定されている。プロの物流屋連中でも、危険物については特殊品目ゆえに馴染みや知識があまりないことが常であるし、法令の仔細など見たことも聞いたこともないというのが多数を占める。ゆえに業界内での問題意識が拡がりにくいというのが実情だ。

ちなみにわが国の危険物倉庫の現状は「不足」の一語に尽きる。あくまで「現状の各種危険物の流通量」に対してすでに足らない現状であり、行政は懸命に緩和措置を講じて、危険物の保管容量を増やそうとしている、、、ということになっているが、新規参入するにはあまりにも垣根が数多く高い。おそらくだが、生産者は回収した廃棄待ちのバッテリーを工場敷地内で保管しているのではないかと推測している。港湾の危険物倉庫に大量の廃棄待ちEVバッテリーが入庫してきたなどという情報は皆無だからだ。そもそも既存の危険物倉庫は満床が常態化しているし、新規設置分もすでに荷が決まっていることがほとんどだ。自動車の大型電池を受け入れることのできる物件は皆無といって障りない。

そのひっ迫状況に加えて、泣きっ面に蜂よろしく昨今のEV念仏祭り。
EVバッテリーは消防法上の危険物にあたり、再利用や廃棄前の一時保管には危険物倉庫が必要であるというハナシはなるべく先に送りたい――というのが行政や業界の本音、は私のゆがんだ見当なのかもしれぬが、具体的な対処の広報が少ないことは否めぬのではないか。
ちなみに他所で下記のようなコラムを書いている。

「危険物倉庫はそういうもの」という無関心(下)

台風や発達低気圧による暴風雨災害、短時間大量降雪による交通・都市機能停止、夏季の終日高温による生産性低下、線状降水帯がもたらす激甚水害、排水破綻による都市洪水。
我々が向かう先には、より過酷な自然環境の変化が待ち受けているに違いなく、それに抗うことは空しいという歴史を自分たちに当てはめないのは愚様でしかないのかもしれない。
そんな諦観ハナシなど説いても誰ひとり立ち止まりはしないだろう。
私も立ち止まれない者のひとりなのだから、せめて考えることぐらいはしようと思う。

そういえば、明日はクリスマス・イヴ。
すっかり忘れていたが、笑顔が多い日になればいいと願っている。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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