物流よもやま話 Blog

日用便よりの使者

カテゴリ: 実態

報われる努力とそうでないものがある。
物流関連では個配運賃の契約交渉がその筆頭。実業者とその利害関与者には忌々しき問題なのだ。
今や個配単価の上昇は、業種業態によっては経営リスクになっていることも多い。

言うまでもなく個配業者との運賃交渉は、実際には交渉ではなくお願いである。
顧客側が業者に平身低頭してすがるようにお願いする。
そして何とか現状維持をご承認いただく。
または最小値上げでご譲歩いただく、、、のようなことばかりなのだ。
無抵抗だとドエライ金額を言ってくるので、一応かなり下から丁重にお話しする。
一年分ぐらいの不本意と不愉快でできている愛想笑いを絶やさず、相手様のご機嫌を取りつつその場をやり過ごす。が、しばらくすると ‘ 日用便よりの使者 ’ が再登場し、

「本部決定なので今回は一切の譲歩ができません」

と、早く帰りたい空気だらけの表情で句読点なしに言い分を吐き出す。

「このまま どこか遠く 連れてって くれないか 君は 君こそは 日用便よりの使者」
と泣き笑いで呟いてしまいそうな荷主側担当者殿のご心中はお察しするに容易い。
過去記事で書いたとおり、ひと昔前の運賃に戻っただけなのだが、この10年あまり破格値の毒まんじゅうをたらふく喰らった企業体質には、もはや現状が毒や暴力に感じられるのだろう。

EC系にかかわらず、今や個配便はどの業態でも使わないわけにはいかない。
生活者にとっては郵便以上のインフラとして定着している。
ならば、抜け道や幻想でしかない特別料金を探すなんていう往生際の悪いことはせず、腹をくくって向き合うしかない。水道光熱や通信や郵便と同じようにとらえれば、そのコストへの対処方法は明らかといえる。
肝心の腹のくくり方だが、大した知恵や工夫は望めない。

・個口数を減らす。
・運賃の一部もしくは全部を顧客に負担してもらう。
・時間指定不可や再配達なしクーポンなどの発行。というような販売時オプションを顧客
に提示し、ガリバーに料金勘案を申出る。(反故時のペナルティは必添と予測)

いずれも相当の困難が伴う。
とりわけEC専業ならば切実。
ECでは個口数が減る=売上件数が下がる、となるので、送料無料の購入額ラインを上げるか無料を廃して、一部もしくは全額を顧客に負担してもらうしかない。

「そんなことしたら売上が落ちる。競合他社に先んじては絶対できない」

そりゃそう言うだろう。
有名メーカー直販サイトや固定客を持つブランド物の老舗セレクトショップの類以外はほとんどの会社がそう言う。

客単価5000円で粗利50%なら2500円。
平均客単価=送料無料ライン
に設定しているから、ざっくり近似値として全個口平均の自社負担運賃額は550円前後。
残るのは1950円。
その他荷役・保管コストが安ければ350円。

ちなみにこの試算では滞留在庫や仕入が影響する資金繰りは考慮していない。

残るのは1600円。
物流コスト以外の販管費が対売上で30%なら1500円。35%なら1750円。
苦労して安くして1件発送した結果、50円~100円の利益ならいいいほう。
配送エリアや梱包サイズによっては、ほとんど残らなかったり結構な赤字になったり。

たくさん売ろうとすれば広宣費や販促費が上がるので、かえって利益率は下がる。
賞与や福利厚生で社員に報いる余裕が無い。
経営者にも余裕が無い。
人件費、販促費、地代家賃、その他諸々。
仕入は金利の付いたお金で。

ずーっとしんどい。
しんどい上に件数商売なので、販促費は絶対。
セールやクーポンを乱発すれば首が絞まる。でもそれ以外の方法を知らない。
客単価を上げたい。
だけど上げる方法がわからない。
仕入れの改善?
OEMで差別化、、、最低発注ロットが重い。
そもそもがOEMによるオリジナル品を販売したとして、既存購入顧客のリピート率が上がったり、新規流入が増加したり、平均客単価がアップしたりするのかさえ疑わしい。
在庫は浅くとって多めの間口数でやってきたので、奥行きの深い仕入は怖い。売れ残ったら損切りする羽目になる。
仕入主要先の中国は値上げラッシュ。その他東南アジア諸国もコスト上昇は必至。
しかし客単価は下がる一方。原価は上がる。粗利圧縮。
苦しいのは他社も同じ。
競合が脱落すれば、一気に件数が伸びる。在庫が掃ければ資金繰りは好転する。それまでは皆で我慢しなければ。

どんな犠牲を払い我慢を強いても、送料は絶対に顧客転嫁できない。
勝つためには絶対にできない。
この業界は売った者が勝つ。たくさん売ることが力であり正義。
シェアと総量の大小でショップとその経営母体の値打ちが決まる。

全員が壁に向かってスピードを緩めずに走り続ける。
誰が最初にブレーキを踏むのだろう。
踏んだ順に敗者番号がふられてゆくのだろうか?

勝者ゼロの闘いにしか思えない。
と、訳知り顔で突き放すつもりはない。

「では、お前ならどうするのか?」

そう自問し続け、唇噛んで、眉間にしわを寄せて。
考えて考えて、苦しんで、もがいている。

誰もが納得して採用するような戦略や方策の考案は容易くないが、消費の動向を注視しつつ、物流コストとその中身のあり方を発信し続けるつもり。
対面する方々にはもちろんだが、このブログでも可能な限り書き綴りたいと思う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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