物流よもやま話 Blog

わかりにくいぞ「電気の製造コスト比較」

カテゴリ: 実態

承前というわけではないのだけれど、最近頻繁に見聞きするハナシに関して書いてみたい。
それは「電気を作るコスト」についての比較データであり、メディアによっては点数評価や順位をふっていたりもする。

発表されるデータの中身は「原子力発電が最良」であったり「いやいや実は太陽光発電が安全で低コストである」など、、、いったいどれが正しいデータなのだ?と呟く毎度。
いずれも経済産業省のきちんとした試算に基づく数値なのだろうが、取りまとめて講評する際の表現にはメディア各社にばらつきがあるようだ。
つまり一般市民が等しく知るべき「比較データ」の書式は統一されておらず、ゆえに何らかの判断には、まず最初にデータ算出根拠を理解したうえで読み解かねばならない。
個人的には「わかりにくいなぁ」「どれが自分にとっての最良なのかは個人が決めればよいので、単純なコスト比較を」「安全性のデータは別建てにしないと、恣意的なデータ作成を疑いながらの検証になる」などの感想が胸中に巡る。

本来ならば多面的な要素を踏まえての方向性が示されるべきで、コスト試算はその根拠のひとつとして用いられる項目にすぎない。単なる経済性の比較は原発事故に代表されるリスクへの危惧を増幅させることはあっても、無防備に受容されることはないと思える。
しかしながら現状では、往々にして順位や優劣の判断となる根拠――経済性の試算条件や付帯リスクの測定と評価――にばらつきがあって単純で平易な比較が難しい。
ある表は電気を毎日作るコストだけの比較だったり、別表は電気を作るための設備投資額を一定の償却年数で割って合算再計算したものであったり、さらには設備のメンテナンス費用も試算し追加したものであったり、、、。
まずは「算定根拠の統一基準」を規定し、公的試算として責任の所在と客観性を担保しなけば、一般市民による議論・検証に錯誤や支障が生じるのではないだろうか。

大げさではなく、人類の明日にかかわる重要な意思決定を前に、手元の基礎データの根拠が異なっているなら、続く議論はかみ合わなくなること必至となる。
食料・水と並んでエネルギーの枯渇危機は極端な楽観論と悲観論の両端を切り捨てて検証してみても、重く難解であることは疑いないところだ。
CO2排出削減の足並みさえそろわない現状では、その大元となるエネルギー政策の世界標準を規定することなど絵空事――と突き放したくなるのは私だけではないと思う。
だからといって斜に構えて無関心や無干渉を決め込むのは大人として無責任であるという自覚ぐらいは持ち合わせているつもりだ。

物流業界でのエネルギー消費は何と言っても輸送場面が圧倒的となる。今まではトラックなどの輸送車両による燃料問題と炭素ガス排出問題に焦点があたり、その打開策としてモーダルシフトやEV・FCVへの移行が進められてきたわけだ。
個人的には水素燃料による水素エンジンが既存の車両動力に置き換わることに期待している。ビークル全般にとどまらず、水素を原料とする燃料電池とのハイブリッド型動力によって、空調やマテハンを動かすことができれば、燃料枯渇のリスクと温暖化対策が同時に叶う。
ご承知のとおりとにもかくにも「水素ステーション」の設置が大前提となるのだが、トヨタを筆頭とする自動車業界とガソリンスタンドを国内に展開している石油元売りが協業すれば、実用化へのスケジューリングは大いに短縮できるはずだ。

漠然としたイメージではあるが、家庭や事業所の動力は原子力発電による電気供給を主としつつ、太陽光を始めとする代替エネルギーの併用にガス類の燃焼エネルギーが補完。貨客ともに移動手段に使用する動力は水素エンジンもしくは水素燃料電池が生む電気となる、、、ような気がする。
個人生活では過半の自家用車や街中の営業車両はFCVかEV、もしくは水素エンジンとのハイブリッド。大型車両や船舶・鉄道・航空機は水素エンジンがガソリンエンジンに代わる。
そんな未来を思い描いている。
現在は「最善は太陽光発電か?それとも原子力発電か?」
のような論調で取り上げられることの多いエネルギー問題。経済性の追求は当然だとしても、考察や判断の基準に付す優先順位には慎重でなければならない。
山野を切り拓いた地平に黒くへばりつく異様な太陽光パネル群。豊かな自然あふれる風光明媚このうえない半島の先にそびえる巨大な原子炉。
いずれも国が推進しなければならないエネルギー対策の核となる施設だ。
次の世代へ申し送る選択肢として何を優先し何を抑えるのか。
その議論に不透明さや中途半端は無用だと思う。

著者プロフィール

永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。

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