先週末に熱海で発生した土石流による災害は、未だ収拾に程遠い状態のままだ。
被災者の安否とその近親縁者の方々の胸中を想うと、やるせなく辛い。
そして自身の携わる業界にとっても、今一度の点検や確認を徹底しなければならないと強く感じている。
丘陵地帯や山間部を切り拓いての倉庫建設が盛んになった近年だが、その地盤整備についての意識が低かった自身の不明を痛感することの多い昨今。
熱海の災害は豪雨による天災と言い切れない情報がいくつかあきらかになってきているが、その内容は国内に点在する新設の倉庫建設現場でも再度の確認事項として重要だ。
特に近年の短時間集中豪雨や高頻度な線上降水帯の通過などは、今まで起こらなかった災害を引き起こす原因となっている。
それに加えての地盤改良と信じて疑わぬ「開発行為」が、実は改悪であったり整備不良や仕様不備であったりすれば、自然の猛威の前では抗うどころか耐えることすら叶わぬ事態に陥ることは誰にでも想像できる。
すべての新設倉庫とそれに付帯する近隣の道路整備や公園などの近隣開発にあたっては、開発事業者が万全の体制で取り組んでいるはずだし、現実に大きな過失や不備の発生といった情報は聞こえてこない。現段階ではむしろ所在近隣への防災機能として寄与や雇用増加や社会資本の充実としての側面が地域との好ましい関係を築くうえで奏功しているように思える。
それであたりまえなのだが、反面どこかで安堵しているというのが正直なところでもある。
それほどに近年の倉庫建設用地は森や山の中深くまで入り込んでいるし、その原因の根元には高速道路や新設のバイパス延伸などがあることも事実だ。
利便や発展の日陰にある氷室のような立ち入り禁止の暗所などないと信じているものの、過去に例をみない幾つかの自然現象や条件が重なった際には、想定外の激甚災害が発生し、その激甚化には全く不備や瑕疵のない大規模開発が無作為に増幅作用を及ぼすのではないのか?という懸念を払しょくしきれない今なのだ。
このように書きながら「想定を超える災害への備えとはいかに」と自問するのだが、答など思い浮かぶはずもない。
人間が自然を畏れる理由は、人知では到底及ばない威力や規模で一切の手加減や斟酌なく、時と場所と対象を選ぶことなく見舞うところにある。そんな学生時代の愛読書に出てくるような観念論を改めて思い返したりしたこの一週間だった。
被災時にあって、倉庫建屋が果たすべき役割については過去に何度か述べている。
特に最近建設された巨大倉庫は、その敷地の広大さや建屋の堅牢性、さらには被災時の自家発電や通信機能の確保なども具備されていることが多く、立地近隣の被災者向け避難場所としてだけでなく、医療や災害対策の拠点機能にも転用可能ではないかと思う。
被災時に倉庫が担える地域機能への寄与効果は計り知れず大きく、最近は開発計画にもそのような項目が盛り込まれている案件も増えてきた。
しかしながら、せっかくの善行ともいえる諸策が実際の被災時に機能しないような事態は無念でしかないし、その因が人災ともいえる開発行為の不備や未熟によるものだとしたらいたたまれぬだけでなく、負うべき責は大きい。
だからこその継続的な地盤点検や調査が欠かせない。
開発者はそのコストまで考慮して、予算を組んでおかねばならない。
本年の梅雨は例年に増して降水量が多く、期間も長い。
梅雨明け後には高温多湿な酷暑の夏がやってきて、そのまま台風シーズンとなる。
一連の数か月間に国内各地が見舞われる暴風雨と異常高温による機能停止や生産性低下も「例年」という表現で障りないようになっている。
地域によって差はあれど、少なくとも大都市部とその周辺地域での高温多湿に耐えての夏季業務は生理的に無理がある。四の五の言わず、思い切って夜間操業に切り替える方策も是非検討するべきではないだろうか。
直射日光がないだけで建屋内気候は過酷さを和らげ、結果として作業環境は大きく改善する。空調の効きは上がるだろうし、送風機の体感もより向上するに違いない。
生活スタイルの多様化によって、夜間労働を厭わぬ人々の数は増えているはずと想定しているので、倉庫運営各社は是非お試しいただきたい。物流現場のサマータイムとして夜間帯が稼働時間にあてられれば、いくつかの夏季の業務リスクが低減や排除できるかもしれない。
わが国の多くの人々は一年間の約半分を熱暑と暴風雨に翻弄されて暮らす。
諦めではなく覚悟をもって自然の営みに向き合うことを改めて想う今だ。
永田利紀(ながたとしき)
大阪 泉州育ち。
1988年慶應義塾大学卒業
企業の物流業務改善、物流業務研修、セミナー講師などの実績多数。
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